チバユウスケが語る「変わらない」音楽への姿勢とその美学

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音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。5組目のゲストは、この7月に50回目の誕生日を迎える、The Birthdayのチバユウスケだ。

Coffee & Cigarettes 05 | チバユウスケ(The Birthday)

6月13日にThe Birthdayの最新シングル「THE ANSWER」を発表したチバユウスケ。7月10日に50回目の誕生日を迎えるチバだが、音楽への姿勢と生き方は昔から一貫している。その「変わらない」美学について迫った。

The Birthdayがよく使うリハーサル・スタジオでの取材だった。暑いぐらいの5月の週末の昼過ぎ、スタジオに現れたチバユウスケは缶ビールを片手にタバコをくわえていた。お世辞抜きで役者のようだし、これほど酒とタバコが似合うロック・ミュージシャンはチバ以外にいない気がする。

先に屋外で撮影をし、その後にスタジオに入ってインタビューをした。そのスタジオに入るとすぐにチバのかつてのバンド、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「スモーキン・ビリー」という曲を思い出した。その曲のMVには吸い殻がいっぱいの灰皿が何度も映るのだが、まさにそんな感じの灰皿が置いてあるスタジオで、今もチバはスタジオにこもり、ご機嫌なロックンロール・ミュージックを紡いでいる。

インタビューが始まると、タバコを吸い始めた頃のことをボソボソと語ってくれた。「仲間内の中では吸い始めたのは俺が一番早かったね。何で吸い始めたのかなぁ……覚えてないなぁ」とタバコを燻らしながら懐かしそうに語るチバ。タバコを始めて、その後ほどなくしてバンドも始めた。チバはバンドを始めることになったロックとの出会いをまるで昨日のことのように振り返った。「友達から回ってきたカセットテープの中に収録されていたジョニー・サンダースを聴いて”何じゃコレ?”って思ったのと、そのときに流行っていたストレイ・キャッツ。その2つだね、バンドやろうと思ったのは」と。そして、初めてバンドを組んだときに「食っていけるかどうか別として、これをやって生きて行くだろうなぁって直観的に思った」とよどみなく教えてくれた。



チバに初めてインタビューをしたのは数年前だが、そのインタビューのことは今でもハッキリと覚えている。そのときも缶ビールを片手に取材部屋に現れたチバは既にほろ酔いだった。インタビューは無事始まったが、今度はロング缶のビールを開けた。インタビューが進み、いくつかの質問をし、その質問の答えを熟考しているように見えたチバだったが、しばらくして気づいたら……寝ていた。スタッフが気付きチバの肩を揺らすと、目を覚ましたチバは開口一番こう言った。「おかわり」と。

その話をこの日あらためてすると、「ウソだろ? 本当に俺、寝てたの?」と驚いた後、「バーにいる夢、見てたんだろうね」と屈託なく笑ってみせた。ちなみに、そのときのインタビューでチバはとびきり素敵な言葉を残してくれた。どんな想いで音楽を奏でているのか?と聞くと、「こいつクズだなぁって思うヤツはいるんだけど、でも今は俺、それすらOKしたいと思ってる。どんなクズなヤツでも、『いいよそれで』って言ってあげる。ムカつくことにムカつかなくなりたいんだよ。いろんなことに『そうだよね』って言ってあげられたらって思う」と答えてくれた。

この言葉、今でも大好きで時々反芻している。では、今はどんな気持ちで音楽を奏でているのだろうか? 「今まさに、このスタジオで曲作りをしているんだけど、それは楽しくもあるし、つらいよね。レコーディング期間が始まると、またあの地獄かと思うけど、天国でもあるんだよ」と教えてくれた。メンバーと何十時間もスタジオにこもり、誰も正解なんか分からないなかで、楽器を鳴らし、音を紡いでいくのは、途方もない作業のはずだ。そんな五里霧中のレコーディングでチバは一体何と戦っているのだろうか? そんな質問を投げかけると「別に世の中と戦っているわけじゃないからね、俺の場合は。まぁ他のヤツがどうやってるかはわかんないけど、俺は自分がこれはすごいと思うものを作り上げる。それだけだよ。俺がつまんないと思ったらやりたくないしね」と答えてくれた。



とはいえ、経験を積んでくれば、理想は高くなる一方で、現実も知ってしまう。しかも深刻な音楽不況の中で売れるために妥協することを覚えてしまうバンドだって正直少なくない。だが、チバは言い切る。「音楽に関して、一切妥協はない」と。

音楽への姿勢も生き方も変わらないチバ。ライフスタイルも当然のように変わらない。先述の寝落ちインタビューのときも携帯電話を持っていないと言っていたが、未だに携帯を持っていないと教えてくれた。少し驚くと、「別に持ってなくてもこと足りるから」と平然としている。ただし、メールはやるとのこと。本人的には”IT化も徐々に進んでいる”と持論を展開していた。

そんなチバとインタビュー中にAIの話になった。既に音楽においても、作曲などの面でAIの活躍が目覚ましい。気が遠くなるほど長い時間スタジオにこもりレコードを制作し、その後はメンバーとツアーを回るという生活を何十年と繰り返しているチバにとって(しかも携帯電話すら持っていないのだから)、AIの活躍なんて、とんでもないのかと思っていた。ところが意外な言葉が飛び出した。「別にAIが音楽を作ってもいいじゃん。AIが作ったとしても、それを聴いてスゲーと思えたり、楽しい気分になれたりするなら俺は別にいいというか、そんなの自分には関係ない。逆に何で誰が作ったとかにこだわるの?」とどこまでもフラットだった。確かに誰が作ったかより、どれだけ心に届くかが、音楽をはじめとするあらゆる表現において大切なはずで、チバの言葉にドキリとした。

全身全霊でロックを体現するチバも、まもなく50歳になる。その話になると少しだけ神妙な声でこう切り出した「30、40は通過点だったけど、50はちょっと思うかなぁ……。ウチの親父が71歳で亡くなってるんだよ。だから、俺の人生あと20年か…って思うね」と。では、50歳になったら、何か特別なことでもやるのだろうか? 「やらない。次のアルバムが出ればそれでOKだよ」とタバコを燻らした。なんだか、いつ死んでもいいそんな空気すら漂うが、チバはこう言い放った。「いつ死んでも良くはないよ。新しいアルバムのマスタリングが終わって、アルバムジャケットが出来上がっていれば、別にいいけどね」と。それだけ、次のアルバムには魂を注いでいるのだろうか。 「次のアルバムに限らず、全部だよ。今まで出した全部の曲、全部のアルバムが最高だと思っている。そうじゃなきゃ出さないから」と。

6月13日にリリースされたThe Birthdayの最新シングル「THE ANSWER」も最高のロックンロールだ。ただ、タイトルが気になったので、50歳を前に何か答えが見つかったのか?と聞いてみた。チバは短く「答えは……ない」と呟いた。タバコを何口か吸い、話を続けてくれた。「例えば、曲でいうと、こういうパターンもあるなとか、ここはこういうバージョンもいいなぁとか、パターンやバージョンはあるんだよ。で、その中から正解を選んではいるんだけど、もしかしたら他のバージョンの方が面白かったかもしれないじゃん? だから、答えはない」と。

話を聞いていると、ジョニー・サンダースの音に”何じゃコレ?”と思ったときからチバは変わらずに生きているような気がした。実際、「この間もスタジオでメンバーと音を出していて、ギターの音を聴いた瞬間や、ドラムの音を聴いた瞬間に”何じゃコレ?”って思ったよ」とチバ自身も言っていた。思わず「チバさん、変わらないですよね?」というと、「人間、そんなに変わらないよ」とほほ笑んでくれた。

でも、お金で変わってしまう人もいる。あるいはお金が欲しくて変わってしまう人もいる。チバはどうなんだろうか? 野暮だと知りながら、お金に興味はないのか聞いた。「金は要らないね。好きな酒と好きなタバコが買えるだけあればいい」と短く答えて、タバコをふかした。

7月10日がチバの50回目のバースデーだ。そういえば、The Birhdayというバンド名はどこから来たのだろうか? 今まで忘れられない誕生日の思い出でもあるのだろうか? 「そんなのあるわけねぇだろう。名前はひらめきで付けただけ。他にニック・ケイヴがいたThe Birthday Partyぐらいしか聴いたことがなかったしね。でも今はこのバンド名も気に入ってるよ」とチバ。正解に向かっているかどうかは神のみぞ知るだが、チバの直感はバンドを始めたころから変わらず冴えたままだ。


「THE ANSWER」
The Birthday

Universal Sigma
発売中

チバユウスケ
1968年7月10日生まれ。96年にTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとしてデビュー。解散後はROSSO等で活動後、2005年よりThe Birthdayを結成し活動中。9thアルバム『NOMAD』以来、約1年ぶりの新曲となる最新シングル「THE ANSWER」を6月13日にリリースした。
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