7月6日、岡崎慎司がイングランドに向かって旅立った。マインツからレスター・シティへの移籍が決定したことで、自身が念願としていたプレミアリーグでのプレイを現実のものとした岡崎。移籍金1000万ユーロ(約13億8000万円)に4年契約という好条件での移籍成立は、岡崎がマインツで残した実績に対する評価の高さを表している。

 実際、2013年からプレイしたマインツでは2シーズン連続で二桁ゴールをマークするなど、チームの主力としてスタメンの座をキープ。もしそのままマインツに残留していれば、間違いなく新シーズンもレギュラーとしてプレイすることは確実と見られていた。

 だが岡崎は安定よりも挑戦を選んだ。29歳という現在の年齢からすれば、おそらく今回が夢を叶えるラストチャンスと踏んだのだろう。プロのサッカー選手にとっては、ある意味当然の選択である。

 しかしその一方で、本人も認めているように、今回の移籍にはリスクが伴っていることも確かだ。プレミアリーグは世界のトッププレイヤーたちが目指す憧れのリーグゆえ、レベルも高い。チーム間の競争、あるいは選手間の競争という点においては世界で最も過酷なリーグと言われている。つまり岡崎は、敢えてそのハードルの高い競争に挑もうとしているわけだ。

 そんな厳しいプレミアリーグに挑んだ日本人プレイヤーは、過去8人いる。

 2001年夏、日本人として初めてプレミアリーグのクラブのユニフォームを着たのはボルトンに移籍した西澤明訓で、その約1週間後には稲本潤一が名門アーセナル入り。以降、戸田和幸(2003年1月/トッテナム)、中田英寿(2005年8月/ボルトン)、宮市亮(2010年12月/アーセナル)、香川真司(2012年7月/マンチェスター・ユナイテッド)、吉田麻也(2012年8月/サウザンプトン)がプレミアリーグに挑戦。李忠成も、当時2部だったサウザンプトンに移籍してプレミアリーグ昇格を果たしている。

 しかしながら8人のケースで言えば、日本人とプレミアリーグの相性は決して良いとは言えないのが実情だ。

 たとえば西澤や李は、プレミアリーグの舞台に一度も立つことなくクラブを退団。また、シーズン途中に加入した戸田は1年目が4試合の出場で、2シーズン目は出番なし。高卒後に渡英した宮市にしてもリーグ戦デビューはボルトンへ期限付きで移籍後、つまりアーセナル入りしてから3年目のことで、以降4シーズンでの出場は計17試合。結局、1ゴールもないままドイツ2部での再出発を強いられた。

 日本人として初めてプレミアリーグでゴールを決め、計5シーズン、3クラブでプレイした稲本も、成功したとは言い難い。プレミアリーグのピッチに立てたのはフルハムに移籍した2年目で、ウェスト・ブロム時代も含めてレギュラーとして活躍した時期は短かった。

 また、加入後に即レギュラーとしてプレイした中田にしても、イタリアでの実績がありながら21試合1得点という記録を残し、そのシーズンを最後に引退。これまで最も結果を残したと言える香川は、1年目こそ20試合6得点という及第点の成績だったが、2年目は輝きと出場機会を失い18試合でゴールなし。現在は吉田麻也が地道にキャリアを重ねているが、残念ながら定位置を確保するには至っていないというのが現状だ。

 過去、これだけの強者たちが挑戦しながら、なぜ日本人選手はプレミアリーグで成功を手にすることができていないのか? おそらくそれは、プレミアリーグが世界で最もフィジカル能力を要求されるリーグだからだと思われる。

 とりわけ、屈強なDFと対峙することに慣れていない日本人FWにとって、プレミアリーグでゴールを量産することは容易ではない。もちろん岡崎の場合は、身長の高いDFが多いブンデスリーガで結果を残したという実績はある。しかし、プレミアリーグのDFは、ブンデスリーガのDFと同じ"高さ"以外に、"強さ"、"速さ"、"巧さ"の質がひと味もふた味も違う。しかも上位チームは戦術レベルもヨーロッパ屈指。個の能力に加えて組織力という大きな壁も立ちはだかる。

 また、以前ほどではないにしろ、上位を狙う強豪6〜7チーム以外はロングパスやクロスを多用するイングランド伝統のスタイルで戦うチームが多いという環境も、日本人にとってはマイナス材料だ。細かくボールをつないでビルドアップせず、ダイナミックかつスピーディにゴールに直結するプレイを選択するスタイルは、なかなか日本人のプレイスタイルにフィットしないケースが多い。

 この手のチームのゴールシーンは、その多くがペナルティエリア外からのミドルシュートやサイドからのクロスに対してゴール前で合わせるというパターンになる。つまり空中戦の競り合いに強く、ミドルレンジのシュートも得意とするFWでないと活躍の場はほとんどなくなってしまうのだ。

 岡崎がプレイするレスターも例外ではない。プレミア昇格組として臨んだ昨シーズンは、モダンサッカーを標ぼうしながら結果を出せず、結局、後半戦から5バックの現実路線に方針転換。いわゆる典型的な堅守速攻型に切り替えたことが奏功して残留を果たしたという経緯がある。岡崎加入直後に指揮官ピアソン監督が解任されたため、新シーズンのレスターがどんなサッカーになるかは定かではないが、残留が現実的な目標である以上、守備重視の速攻主体という路線に大きな変更はないと予想される。

 岡崎が最初に越えなければならないハードルは、プレミアリーグのスタイルに順応することもさることながら、まずはプレイ機会を得ることになる。現状、ファーストチョイスのFWは泥臭いプレイで昨シーズンに11得点を記録したレオナルド・ウジョア(アルゼンチン)と、イングランド代表にも招集されたジェイミー・ヴァーディーの2人。冬の移籍で加わった24歳のクロアチア代表アンドレイ・クラマリッチも控えている。

 まだフロントが前線の補強に動いている点からしても、チーム内競争の激化は必至。少なくとも、岡崎はポジションを確約されて移籍したわけではないと見るべきだろう。

 いずれにしても、岡崎が活躍するためには、プレシーズンからゴールという結果を残すことでチームメイトからの信頼を得ることが条件となるだろう。信頼さえ手にすれば、前線での動き出しやゴール前での粘りという岡崎の特長を生かそうという意識がチームに浸透し、好循環が生まれるはずだ。

 果たして、岡崎はプレミアで最も成功した日本人選手になれるのか。そのカギとも言えるプレシーズンのキャンプから、その動向に注目が集まる。

中山淳●文 text by Nakayama Atsushi