生徒も先生も超フリーダム! 都内トップクラスの進学校・麻布学園を見学してみたらウワサどおり“変”だった

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読者のみなさんは、昨年10月に発売された新書『謎の進学校 麻布の教え』(以下、『麻布の教え』と略)をご存じでしょうか? 東大合格者数ランキングの常連校・麻布学園を取材したこちらのルポルタージュ本は、ガリ勉のイメージとは程遠い同校の独自な教育観に光を当て、多方面で話題を呼びました。

生徒も先生も超フリーダム!進学校・麻布学園フォトギャラリー(19枚)

あまりにも周囲からオススメされるので筆者も読んでみたのですが……予想以上でした。

ひと言で言えば、「この学校、絶対変!」なのです。

生徒が堂々と授業に遅刻してきたり、教室に出前を頼んじゃったり、バツとして先生がそれを食べちゃったり(いずれのエピソードも同書参照)。とにかく普通の学校では考えられないようなエピソードが満載で面白すぎるんですよ!

もう麻布学園のことが気になって仕方なくなったので、勢いで校内の見学&取材依頼を出しちゃいました。そんなわけで今回は、謎の進学校麻布学園の見学ツアーをレポートしていきます!

校内見学に同行していただくのは、『麻布の教え』の著者・神田憲行さんと、本の取材窓口にもなられた麻布学園芸術科工芸担当教員で学内理事の彦坂昌宏先生です。よろしくお願いします!

彦坂先生:よろしくお願いします。先に言っておきますけど、うちの学校はみなさんが言うほど変ではありませんよ。だから心配です。大丈夫ですか? この企画、成立しますか……?

神田さん:いやいや、取材で2年以上通い詰めましたけど、ツッコミどころだらけの学校じゃないですか! とにかくさっそく校内を回りましょう。口で説明するよりも実際に見ていった方が早いですから(笑)。

どうやら彦坂先生としては、麻布のどこがそれほど変わっているのか自覚がない様子。この先何が待ち構えているのかは全く読めませんが、とりあえず言われるがままに校内へ入ってみましょう。

■ここが変だよ麻布学園 その1
「頭がいいくせに教室にバナナの皮が散乱している」

まず初めに見学させていただくのは、彦坂先生が担任を務めるクラスです。著者の神田さん曰く、麻布学園の教室は、ほかの学校とは比べ物にならないほど汚いのだとか……。

彦坂先生:神田さんの本では教室の汚さについて散々な書かれようでしたけれど、今年の私のクラスはきれいですよ。汚名を返上したいので、ぜひ見ていってください!

神田さん:やっぱり汚いですね(なぜかうれしそうに)

彦坂先生:え!? どこがですか? 掃除直後の状態ですよ、これ。

筆者:机の配置とかが乱れまくっているのは何かしらの戦いがあったからでしょうか?

彦坂先生:あっ、えーと……これはですね。さっきまでテストしていたから……。

神田さん:テストしていたなら余計この配置はダメですよ! カンニングし放題! 僕は過去にほかの男子校を取材したこともあるけれど、やっぱり麻布学園の教室はダントツで汚いです(笑)。

彦坂先生:……でもね、私のクラスはロッカーがきれいですよ。

筆者:(話題をすり替えたな……)

彦坂先生:ほら見てください。ひとつもロッカーの扉が外れていないでしょ? これって麻布の高学年のクラスでは珍しいんです。

そう言いながらおもむろにロッカーを開ける彦坂先生。そこには「触んな!」と書かれた張り紙が。

神田さん:ロッカーがボコボコじゃないですか。これで扉が外れていたら普通のヤンキー工業高校ですよ(笑)。

筆者:なんかロッカーと教室だけ見ると、ガリ勉のイメージとは程遠い生徒の姿が浮かんでくるのですが……(笑)。

神田さん:それは僕も2年間の取材中に感じたことです。ここの生徒って「色白で眼鏡かけてバリバリ勉強します!」みたいな進学校のイメージとは程遠い。ほら見て! 彦坂先生なんか、もう教室の掃除始めてる。先生にこんなことさせて平気な生徒なんて、僕の母校にはいなかったもの。

彦坂先生:またバナナの皮が落ちてる……。私が掃除しないとすぐにバナナの皮だらけになるんですよ、このクラス。よっぽどバナナ好きな奴がいるんだなぁ。

■ここが変だよ麻布学園 その2
教員の趣味がそのまま授業になっている

教室の掲示物を見ていると、「教養総合」という聞き慣れない教科の授業リストがありました。これは、高一、高二生を対象としたゼミ形式の授業らしいのですが、そのラインナップをじっくり見てみるとやっぱり少し変でした!

筆者:『数の性質』とか『スポーツ社会学』みたいな「いかにも進学校」という授業に紛れて、『ボウリング』っていう授業があるのですが……これってあの地面に穴を掘って地盤調査とかするやつですか?

彦坂先生:いや、『ボウリング』はスポーツのボウリングですよ。担当の先生がボウリング大好きなんです。それで生徒と一緒に街のボウリング場でボウリングをする授業を作ったのです。

筆者:先生の趣味がそのまま授業になってるんですか! そういえば『麻布の教え』の中でも『一芸獲得♪ ワクワクパントマイム!』という謎の授業について触れられていましたね。

彦坂先生:あれも教養総合の授業のひとつです。面白くないですか? パントマイム。

筆者:……お、おう。

神田さん:……な? この学校のおかしさが分かってきただろ?(笑)

■ここが変だよ麻布学園 その3
『007』や『エイリアン』のDVDも! 生徒のおねだりが通る名物図書館

筆者が『麻布の教え』を読んで最も印象に残ったのが、約80000冊の図書と約3800点の視聴覚資料、約70種の雑誌をそろえる校内図書館です。生徒だけでなく教員からの購買リクエストにも対応するというこちらの図書館には、書籍はもちろん、吉本隆明の講演CDセット(約5万円の品!)や『007』『エイリアン』などの映画DVDが所狭しと並びます。

ここでまず目につくのが、図書館の入り口にある、忘れ物を展示したショーケース。こういう場所にある生徒の忘れ物って、せいぜい手さげ袋とか手袋程度のものだと思うのですが、麻布の場合は授業で使う大切な参考書や筆箱、さらにはスニーカーまでもが普通に展示されているのです。

これらの忘れ物は、預かり期間の1カ月を過ぎたら問答無用で処分されるのだとか。……それにしても「これがなかったら勉強できないし帰れないだろ!」という物が多すぎる! ここって一応進学校ですよね?(笑)

そんな少し変わった図書館を取り仕切るのは、鳥居明久先生ほかの司書教諭。図書館に並ぶ本の中には、生徒や教員からの熱いリクエストを受けて購入を決めたものも少なくないのだとか。

鳥居先生:麻布の図書館では年間約2000冊の本を購入しています。本のほかにもDVDやCDなど、生徒からのリクエストがあればその都度検討して購入を決めるんです。

筆者:蔵書数にも目を見張るものがありますが、そのラインナップもほかの学校図書館とは明らかに違いますよね。

鳥居先生:そうですね。たとえば『007』のDVDなんかは生徒から熱心なリクエストを受けて購入したものです。シリーズ全作品を買うのは予算的に厳しいから、『007』好きの友人のセレクトで何本か仕入れました(笑)。

筆者:失礼ですが、鳥居先生はおねだりされると断れない人なんですか?

鳥居先生:断れないというよりは、「おねだりにきちんとした筋が通っているか」ということを重視しているんです。

筆者:麻布生はおねだりに説得力を持たせるのが上手そうですね。

鳥居先生:それはあるかも(笑)。購入した当時はひとりの生徒しか読まなかった本でも、何年か後にほかの生徒がその本を手に取っている姿を見たりすると、「あの生徒の足跡に気づく後輩が出てきたんだな」とうれしくなることもありますし。

神田さん:そういう意味では、麻布の図書館には至るところに生徒の足跡が残っているんですね。

鳥居先生:その通り。たとえば……ほらこの本。これは、自分が性同一性障害であることをカミングアウトした生徒からリクエストされて購入した本です。

筆者:『〈同性愛嫌悪〉を知る事典』(ルイ=ジョルジュ・タン著、明石書店)ですか。価格は19,440円と、かなり高額ですね。その子はどんな気持ちでこの本をリクエストしたのでしょうか?

鳥居先生:彼はこの本をリクエストしてきたときに「こういうこともほかの生徒に理解してもらいたい」と言っていました。麻布にはカミングアウトする生徒が過去に何人かいましたし、「彼の思いが込められたこの本が、同じようなマイノリティーの立場にいる後輩達にも届けばいいな」と思い、図書館部会で購入を決めました。

麻布の図書館を見学していると、たびたび目に止まるのは「どうしてこんな本が学校に?」という珍書の数々。しかしそれらの本の足跡をたどってみると、卒業生や教員が残した無言のメッセージが隠されていることも少なくないようです。生徒のおねだりが通る図書館だからこそ、世代を超えて交わされる“本を介したコミュニケーション”が生まれてくるのでしょうね。

■ここが変だよ麻布学園 その4
麻布生の聖域! 落書きだらけの文実部室

麻布学園では毎年春になると大規模な文化祭が開催されます。ちょっとした商業イベント並みのこのお祭を仕切るのは、学内選挙で選出された文化祭実行委員(通称文実)の生徒達。数百万円の文化祭予算はすべて、彼らを中心とした実行委員が管理するのだとか。

筆者:『麻布の教え』にも書かれていますが、生徒に数百万円の予算を委ねて文化祭を開催するなんて普通の学校ではあり得ないことですよね。

彦坂先生:そうでしょうか。麻布では毎年恒例なのであまり特別には感じなくなってきていますね。

神田さん:本の取材のときに見せていただいた文実の部室は強烈だったなぁ。ほんとにひどいもん。

筆者:それは見たい! 見せてもらっていいですか?

彦坂先生:うーん、たぶん大丈夫だけど。勝手に覗くと生徒が怒るかもしれない。

(一同、文実の部室へ)

彦坂先生:ちょっとノックしてみますね? おーい、誰かいる?(中でバサバサと物音がした後、鍵を開けて生徒が出てくる)

彦坂先生:おまえらなんで鍵かけてるんだよ。いま絶対悪い事してたよね?

生徒:いやいや、してないっす。先生なんですか? うしろの方々はPTA?

筆者:PTAじゃなくて取材です。少し見せてもらっていいですか?

生徒:なんだ取材か! よかった!!! いくらでも見てください。

彦坂先生:その安堵の表情……おまえら絶対なんかしてただろ(笑)。

そわそわする文実の生徒でしたが、真面目そうでいい子ばかりな印象。それにしてもなんだ、この落書きだらけの部屋は!

神田さん:歴代の文実の生徒たちが名前を記していくから、もうカオスな部屋になってるよね。これも麻布だから許されることだろうなぁ。

筆者:なるほど、この部屋が麻布生にとっての自由の象徴でもあるんですね。それよりもこの「カチョス」って落書きの意味は何ですか?

神田さん:知らんわ!

■ここがステキだよ麻布学園
教員が生徒を愛しすぎている

筆者:校内を見学して改めて思いましたが、やっぱり麻布学園は変わってると思います(笑)。授業も公立にはない独自のものが多いですよね。神田さんの本でも触れられていましたが、彦坂先生は授業でブーメラン作りを教えるためにオーストラリアのメーカーに制作方法を問い合わせたこともあるのだとか……。

彦坂先生:そうなんです(笑)。

筆者:そこまでしてくれる先生ってそうそういません。

彦坂先生:そうかな? ちなみにこのブーメランは昨年の生徒の作品で、ちゃんと飛ぶんですよ。これを作ったのはダンス部の部長なのですが、逆立ちしているダンスポーズを私がカメラで撮影して、それを元に本人がブーメランの形にデザインしたんです。

筆者:これはすごい! かなり本格的な出来栄えですね。これまでの校内見学では麻布の生徒に対してやんちゃなイメージだけが先行してしまったのですが、実は授業に真面目に取り組む子も多いんですね(笑)。

彦坂先生:そうですね(笑)。校則がない自由な学校であるだけに、時には度を超えた問題を起こす生徒もいますし、そういう生徒にはきちんと指導します。締めるところはきちんと締めながら、生徒の自由を問う姿勢は貫きたいと思うんです。

神田さん:この学校の先生方は生徒を放任しているようで、実はしっかりと見ているんです。毎週の職員会議は平気で5時間を超えるし、各教科の教師陣も徹底的に練ったカリキュラムを作り上げている。

筆者:一見すると変な学校なのに、そこらへんをきちっとやってるのがカッコよくてうらやましいなー。ズルい(笑)。

神田さん:それは僕が麻布を取材していたときにも感じたことです。

筆者:ぼく今からでも麻布に入れませんかね? 本当に人生やり直したい。

神田さん:いや、そこは諦めろ。もう遅い!


青白いガリ勉のイメージからかけ離れたやんちゃな生徒たちを熱心で風変わりな教師陣が支える麻布学園。実際に取材してみると、その校風はやっぱり少し変でした(笑)。しかし同時に、この学園の根底に流れる自由の心は、生徒と教員の信頼関係の上に成り立っているものだということも肌で感じ取れた気がします。

今回取材にご協力いただいた神田さんの著書『「謎」の進学校 麻布の教え』には、まだまだ麻布学園の知られざる魅力が詰まっています。こんな自由すぎる学校の生徒達が、なぜ次々と東大に合格してしまうのか。気になる方はぜひ読んでみてください!

【書籍情報】
『「謎」の進学校 麻布の教え』(神田憲行 著)

50年以上にわたって東大合格者数ランキングのトップ10に名を連ねながら、校則も無ければ、大学現役合格にもこだわらない麻布学園。その独自の教育と魅力を解き明かすべく、現役の生徒から司書教諭、養護教諭、麻布が輩出した各界OBの証言までを徹底取材した話題の新書。820円(税込)/256P/集英社新書

【著者情報】
神田憲行(かんだ・のりゆき)
1963年、大阪生まれ。ノンフィクションライター。関西大学法学部卒業後、故黒田清氏の事務所を経て独立。1992年から約1年間、ベトナムのホー・ チ・ミン市で日本語教師生活を送る。また夏の高校野球を20年以上にわたって取材している。これらの経験から教育、高校生を取り巻く問題に興味を持つようになり、本書に至る。