ブラジルW杯ベスト8への道

 W杯グループリーグの組み合わせが決まった。広大なブラジルでの開催にあたって、参加国は対戦国対策と同じくらい、移動や気候に対する準備をしなければならないことはすでに承知のことだろう。何と言っても北端は 赤道を超えた北半球、南端は冬に雪が降るような国だ。同じ国ながら、北と南では気候が全く異なるため、行く場所に合わせた対策を取らないと大変な目にあってしまう。

 7月というのはブラジルの冬。スドエスチ(南東部)と呼ばれるサンパウロ地域や、スウと呼ばれる南部は気温10度以下になるほど寒い。とはいえ本当の寒い国のように暖房がないと生きていけないほどではなく、厚着で乗り越えられるレベルだ。逆に言うと、どこに行っても暖房がないので、常に厚着をしていないといけないという面倒臭さはあるし、一度体が冷えると温めることができないので、それはそれで注意が必要だ。

 一方、サンパウロ以北は、太陽さえ照れば冬とは思えぬ暑さになる。ベロオリゾンテやブラジリアくらいでも、十分に暑い。これが、海岸のノルデスチ(北東部)やノルチ(北部)のアマゾン地方になると、日本人がイメージする常夏だ。6、7月の冬季といえども30度以上になる。

 今回、日本代表が試合をすることになったペルナンブッコ州レシフェ(ブラジルではヘシッフェと発音するのでぜひ覚えてもらいたい。レシフェではブラジル人に通じない)、リオ・グランデ・ド・ノルテ州ナタール(本当の発音はナタウ)、マット・グロッソ州クイアバの3都市だが、どこもとても暑いところだ。

 ブラジルではどこに行っても誰もがサッカーをやっているし、すべての州にプロリーグがある。ただ、州によって熱狂度に差があるのも事実だ。この3都市の"サッカー度数"は、サンパウロやリオが10とすると、レシフェは7くらい、ナタールが3くらい、クイアバは2くらいだろうか。

 日本が初戦を戦うペルナンブッコ出身の世界的プレイヤーといえば、1999年にFIFA世界最優秀選手賞にも選ばれたリバウドが有名だ。レシフェには108年の歴史を持つ名門クラブのエスポルチとサンタ・クルスがある。エスポルチは全国リーグ1部で、かつては優勝の経験もあり、目の超えたサポーターがいる土地柄だ。

 コンフェデ杯で日本がイタリア相手に熱戦を繰り広げた時、ジャポンコールが起こったのは、日本が本当にいい試合を見せてくれたことに対するリスペクトであった。ブラジル人に共通する意識として、親日派であると言うことができる。レシフェにはペルナンブッコ、リオ・グランデ・ド・ノルテ、バイアなど東北部の7州を管轄する日本の在レシフェ出張駐在官事務所があるし、日本人会もあり日系人も住んでいる。

 日本代表が試合をする場所として考えると、夏の日本から暑い地域への移動、親日派が多いことなど、ポジティブな要素が多いのだが、対戦相手のコートジボワールにとってもポジティブな場所である。大西洋を渡ればブラジルという距離感、似ている気候、アフリカ系人種の存在と好条件が揃い、さらにエースのドログバはブラジルでもとても人気のある選手だ。サッカーにおける日本代表とコートジボワールの人気度では、やはりコートジボワールに軍配が上がる。ただ、いいサッカーをすれば、いくらでも観客はついてきてくれる。そんな土地柄だ。

 第2戦が行なわれるナタールは、同じ東北部の海岸沿いの街レシフェと似通った気候であり、コンフェデ杯での経験から暑さ対策の事前準備もしやすいはずだ。

 ギリシャは欧州の中では比較的温暖な地域であるが、同じくらい温暖なイタリアやスペインが、コンフェデ杯の時は東北部での試合で疲労が激しく苦しんでいた。そう考えると、蒸し暑さに慣れている日本には気候的に有利と言える。ギリシャと日本の人気度はそれほど差がない。日本人選手がW杯までに活躍すれば、日本人気がギリシャを上回ってもおかしくない。

 3戦目の会場、クイアバという街は、正直なぜワールドカップ開催都市に選ばれたのか疑問なほど、サッカーというイメージが湧かない土地柄だ。プロサッカーは盛んでなく、これまでサッカーのビッグイベントが開催されたことは皆無である。

 クイアバは日本の本州が入るほどの広さを誇る世界最大級の熱帯湿地帯パンタナールの北の玄関として有名なところだ。パンタナールは自然の宝庫で、日本人がブラジルと聞いてイメージするワニ、ピラニア、美しい色の鳥たちは、実はアマゾンよりもここにいる。

 乾季の6、7月は少なくなった水を求めて動物たちが限られた地域に集まってくるため、バードウォッチング、カピバラウォッチング、ピラニア釣り、ワニの間を馬で散歩するなど、ここでしかできない自然との戯(たわむ)れができる素晴らしいところだ。映画『ジュラシック・パーク』のごとく、恐竜がどこかから出てきそうな大自然の中にいると、人間が小さな存在で、自然や野生動物の中に生きさせてもらっているという気分になる

 というわけで、ここは人間よりも動物たちが似合う地域。とにかく暑い。日中は冬でも40度になる時間があるほどで、暑くて暑くてたまらない場所なのだ。ごくまれに寒波が来て15度まで下がると、放牧している牛たちが寒さのあまり凍え死ぬようなところなのである。

 暑さに慣れている日本人選手にとっても、キックオフの17時というのは、まだ暑さを感じる時間であるだろう。そして対戦相手のコロンビアからしてみると、母国からクイアバまでの距離は3000キロ離れているとはいえ、感覚的にはブラジルはお隣。同じ南米同志、お互いに親近感も持っている。コロンビアにとってはホーム、日本にとってはアウェー感のある土地になるだろう。

 ちなみに日本代表のキャンプ予定地イトゥーはサンパウロ州の内陸部にある。気候的に上記の3都市よりもずっと過ごしやすい。イトゥーから最寄りのカンピーナス市のヴィラコッポス空港までは車で1時間ほど。サンパウロ国際空港周辺の道路の混雑から考えれば、移動はしやすい。レシフェとナタールまでは飛行機で約3時間。クイアバまでは2時間。飛行機に乗っている時間のみならず前後の時間を考慮すれば、移動はどうしても一日仕事になるが、それほどの混乱はないはずだ。

 クイアバと南部のポルト・アレグレといった、暑いところと寒いところを移動するチームもあることを考えれば、3戦とも暑いところばかりで、しかもレシフェとナタールが近いということもあり、準備はしやすい。問題は、コートジボワール、ギリシャ、コロンビアにとってもそれほど過酷ではないということだろう。コロンビア代表のペケルマン監督が「とても均衡のとれたグループだ」と言っていた通り、どのチームにもチャンスがあるということを忘れてはならない。

大野美夏●文 text by Ohno Mika