「終演後に行くと通せんぼされた」…コンサート会場「トイレ問題」がネットで物議 さりげなく“配慮”してくれるアーティストは
横浜アリーナが発表した観客に向けての「マナー向上」の呼びかけをきっかけに、コンサート会場での「トイレ問題」が議論されている。コンサートに来場しての取材が仕事の一部である音楽ライターの神舘和典氏は、この問題をどう見たか。
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【写真】「楽しい思い出を残しましょう」…波紋を呼んだ横アリの“御触書”
横アリのアナウンスにネット騒然
6月15日、コンサート・イベント会場の横浜アリーナが「ご来場の際のマナー向上について」と題したアナウンスをした。内容は、路上での滞留、ゴミ捨て、トイレの利用、駐車についてなど。なかでもトイレの利用について、ネットでさまざまな意見が交わされている。
トイレに関する横浜アリーナのアナウンスは次の通り。

「本来の施設利用者の皆さまが利用できず大変ご迷惑がかかりますので、近隣店舗やオフィス ビルのトイレの利用はお控えください」
コンサートを観に来ている人たちが、公演と直接関係ないオフィスビルやホテルのトイレを利用し、“本来の施設利用者”に迷惑をかけているというのだ。言いたいことは理解できる。確かに、近隣施設にとって迷惑な状況だろう。
一方で観客側の意見としては、御触書を出す前にそもそも会場のトイレを増やしてほしい、というコメントも見られる。横浜アリーナの客席数は約1万7000。その客数に対して十分なトイレが用意されていないことが近隣施設のトイレ利用につながっているというのだ。こちらの意見も正論だ。
横浜アリーナのアナウンスを受けての反応の中では、近隣住民の方によるXのポストが多く見られているようだ。17日に投稿された「近隣住民として横浜アリーナの鬼畜っぷりにあきれる」という文章は233万インプレッションとなっている(18日時点)。
この方は、周辺施設や近隣住民の「ご迷惑」云々を言うよりも、横浜アリーナ自体がもっと観客に良いトイレ環境を提供するほうが大切ではないか、といった問題提起を冷静に綴っている。一部公演では終演後はトイレ使用不可とされていることを知ったのも、このポストを投稿した背景にあるようだ。そういう締め出しをするイベントは確かに存在する。
古くからあるトイレ問題
コンサート・イベント会場のトイレ問題は、今に始まったものではない。来場者の間では深刻な問題であり続けてきた。
実例をあげると――。
・開場時間から開演時間までの時間が短く、トイレに並ぶと着席できず、イベントのオープニングを観られない。
・圧倒的に女性ファンが多いコンサートでは、女性用のトイレは長蛇の列で、男性用トイレはガラガラという現象が起きている(男女逆のケースもある)。
・終演前にトイレが閉鎖される会場があり、終演と同時に大量の“トイレ難民”が会場から外へと一気に放出される。
・野外会場の場合、行列に我慢できずに立ちションする者もいる。
以上のような状況が各地・各会場で生じている。
筆者自身もコンサート会場のトイレでは苦労してきた。苦い経験もある。LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で2時間半のコンサート鑑賞中尿意を我慢し、終演と同時にトイレにダッシュ。しかし、ホール内のトイレはすでにクローズされていた。入口に立つスタッフに通せんぼをされ、膀胱がパンパンでパニックになった。これが前述の「締め出し」である。
終演直後は混雑でなかなか屋外へ出られない。やっと外に出ても、トイレを探さなくてはならない。トイレ難民になり、夜の街をさまよい、少し漏らしてしまった。
膀胱事情を考慮? してくれるケースも
筆者は60代だが、ふり返ると、40代くらいまでは今ほどトイレについて深刻ではなかった。だから、コンサートは長ければ長いほどうれしかった。しかし、今の年齢では「3時間くらい歌ってくれないかなあー」などと、のんきなことを言っていられない。
50代を過ぎてからは終演時間の早い演目を優先して観に行っている。残念なことだけど、加齢による頻尿化で、終盤は尿意との戦いになるからだ。60歳を過ぎたら、コンサート・イベントも卒業しなくてはいけないのだろうか。
その一方で、中高年の膀胱にやさしいコンサートもある。アーティストとともにファンも年齢を重ね、トイレが近くなることを想定してくれているのだ。
6月にぴあアリーナMMで観た宮本浩次さんが60歳を迎えたバースデイ・コンサートでは、開演1時間を過ぎたころに微妙な幕間があった。アーティストもバンドも舞台袖に消え、短い休憩時間になったのだ。
今だ! すぐにトイレへ急いだ。
廊下に出ると、同じ目的の同世代がたくさんいて、大急ぎでトイレに向かっていく。用をすませると、すみやかに自分の席に戻っていく。
山下達郎さんのコンサートは、いつのころからか、本編終了後とアンコールの間のインターバルが長めになった。客席のドアから出ると、やはり同世代が大挙してトイレに向かっていく。
廊下やエントランスには状況を心得たスタッフが待機している。男女の客それぞれをトイレにアテンドしてくれる。用をすませて自分の席に戻ると、アンコールの歌と演奏はまだ再開していなかった。山下さんのMCが続いていた。ステージから客席をうかがい、トイレ組が着席するまで、アンコール曲をスタートしないでいてくれているのだろうと察する。
せめて終演後でも使わせて
アーティストも年を取る。ファンも年を取る。そして、会場も年を取る。高度経済成長期に建設されて老朽化したホールの改修や建て直しが今各地で進んでいる。同時に、東京や横浜の埋立地には新しいホールやアリーナが生まれている。これらの会場は駅から遠かったり、周辺に気軽に使えるトイレがなかったりする場合も少なくない。
このタイミングでぜひ十分なトイレ数を持つホールを増やしてほしい。幸いなことに、国もトイレ問題についてはそれなりに真剣に考えてくれているようで、国交省は6月12日、「トイレの便器数に係る基準と適用のあり方に関するガイドライン」を公表した。男女を問わず快適にトイレを使えるようにすることを勧め、その対策として一番有効なのは便器数を増やすことだ、と示している(当たり前と言えば当たり前だが)。
しかしすでにある会場では、数を増やすのは難しいという面もあるだろう。ならばせめて長いコンサート・イベントの終演後でもトイレを使えるようにしてほしいと切に願う。
音楽ライターとしてコンサートを鑑賞し原稿を書く筆者は、今後もコンサートを観続ける。尿意との戦いは必須。死活問題だ。
そこで、いよいよ尿漏れパットの利用を検討せざるを得なくなり、ドラッグストアで購入して試してみた。今の日本ブランドの製品にはスグレモノが多い。漏れそうで漏れない。臭いそうで臭わない。装着感もあまりない。もちろん、漏らすことを前提とはしないが、危機管理上の観点からは持っておきたいと考えている。
加齢は人類皆平等。年は増える一方で減ることはない。恥ずかしがらずにいろいろとトライしていこうと思う。
神舘和典
1962(昭和37)年東京都生まれ。雑誌および書籍編集者を経てライター。政治・経済からスポーツ、文学まで幅広いジャンルを取材し、経営者やアーティストを中心に数多くのインタビューを手がける。中でも音楽に強く、著書に『不道徳ロック講座』など。
デイリー新潮編集部
