総入れ歯を丸ごと誤飲→医師が「妄想だろう」と受け流すも、5日に死亡…60代女性を死に追いやった衝撃すぎる「医療ミス」の全容
〈「パイナップルと入れ歯を丸ごと飲み込んだ」→下の入れ歯だけレントゲンで見つからず、5日目に死亡…60代女性の命を奪った「不運すぎる事故」〉から続く
人間は、かくも簡単に死んでしまうのか――事件・事故で亡くなった死体や、死因が分からない「異状死体」を解剖し、身元確認や死因の究明を行う「法解剖医」の飯野守男氏は、これまでさまざまなケースを見聞きしてきたという。中でも衝撃的だったのが、パイナップルと一緒に総入れ歯を丸ごと飲み込んでしまったと病院に駆け込んだ60代女性のケースだ。
【写真】総入れ歯を丸ごと誤飲…60代女性に起きた悲劇とは?
病院では上の入れ歯は摘出されたものの、下の入れ歯は見つからず既往歴から医師は「妄想」と判断。しかしその後、女性は徐々に衰弱していき、死亡した。一体何が起こったのか。飯野氏の著書『法医学教授が教えている 死体の授業』(飛鳥新社)から、一部抜粋してお届けする。

画像はイメージ ©Faustostock/イメージマート
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なぜ、女性は亡くなってしまったのか?
「総入れ歯」は上下でまったく形状が異なります。上の入れ歯は上顎前面を覆ってカポッと吸着するような半円状ですが、下の入れ歯は舌のスペースを邪魔しないようなU字型になっています。
なにが女性を死に追いやったのか。解剖によって、その原因を突き止めることが私たち法医解剖医の仕事です。ここからは、解剖によって、なにがどのようにわかったかを解説していきましょう。
まず、解剖した肺の状態は最悪でした。肺を切ると膿瘍(膿のこと)がにじみ出てきます。肺胞は本来であれば、空気がとおるようなスポンジ状になっています。しかし、のちに肺の病理組織を顕微鏡で確かめたところ、女性の肺は好中球(白血球の一種)が増加して炎症を起こし、隙間がみっちりと埋めつくされていました。重篤な肺炎の所見です。
また、死亡した女性は甲状腺腫大(甲状腺が大きい状態)があったことが死後に明らかになりました。のどの前側にある甲状腺の腫れにより気管が狭くなり、入れ歯が引っ掛かりやすかったのではないか。
そう推測した私は取り出した咽頭を切り開き、粘膜の剥がれ落ちた痕、すなわち潰瘍をみつけ出しました。U字型のその痕に研修医が取り出した「行方不明だった下の入れ歯」を重ねたところ、両者はぴったり一致したのです。
レントゲンで入れ歯を見つけられなかったワケ
解剖の結果、私は「咽頭部の義歯の嵌頓(かんとん)に基づく肺炎」と死因を診断しました。肺炎を引き起こした原因は、咽頭部の膿瘍だったと考えるのが妥当でしょう。
要するに、喉の奥に入れ歯がはまっているので、当然食べ物は喉をとおりません。それでも食べようとした結果、そこから感染が広がり、たまった膿が肺にまで広がったと考えました。もしくは、食べようとしたものが隙間から気管に入り込み、それを誤嚥して誤嚥性肺炎にいたった可能性もあります。
最初のレントゲン検査で入れ歯がみつからなかったのは、総入れ歯は樹脂のみでできていてX線が透過するため写りにくく、しかも喉の後ろ側には首の骨(頸椎)があるため入れ歯と骨がX線写真で重なってしまい、判断しづらくなっていたのが原因です。
さらに、女性の甲状腺が通常よりも大きかったことと、精神疾患の既往歴、そして医師の思い込みといった要因が絡まり、医療過誤を引き起こす結果となったのです。この結果が出たあと、私もあらためて女性のレントゲン写真を見直しましたが、たしかに同じ医師の目からみても「入れ歯は見当たらない」と診断をくだしてしまうのも無理はないと感じました。
検証のため、後日レントゲン写真の濃淡を調整して、解剖結果と比較しながらようやく「これが入れ歯かも?」とギリギリ認識できた程度でした。事実、ほかの複数名の医師が同じレントゲン写真をみましたが、その1枚だけで入れ歯を発見できた人は皆無でした。
女性の死は防げたはずだった
では、女性の死は仕方なかったのかと問われれば、そうともいい切れません。
医師が最初の時点で喉の奥までしっかり診察すれば、目視で入れ歯はみえた位置にあったはずです。「入れ歯を飲み込んだ」と訴えているのだから、担当医は当然「では口の中をみせてください」と言うべきだった。その診察を省いて、即、レントゲン室に送ってしまった。
また、担当の診療放射線技師に「誤飲の可能性がある」等の患者の事情を一切告げず、ただ「レントゲン写真を撮ってくれ」とだけ指示を出していた点も惜しまれます。もし入れ歯について伝えていれば、診療放射線技師が、正面像だけでなく頸椎と入れ歯が重ならずに撮れる側面像も追加したり、もっとはっきり写るCT撮影を勧めてくれたりしたかもしれません。そうすれば、入れ歯が写り込んだ可能性も高まったはずです。
精神疾患という既往歴ゆえに、患者の訴えを「虚言、妄想」として流してしまった。レントゲン写真には、すべてが写り込むわけではない。診察の手間を惜しまない。医師は診療放射線技師にできるだけ多くの情報を伝え、撮影のプロとして頼る。既往歴に惑わされない。医療従事者はこのケースを他山の石として、多くのことを学べるはずです。
(飯野 守男/Webオリジナル(外部転載))
