「AI関連株」は危ない? 熱狂相場の裏でバフェットが静かに「日本企業」の株を買い続けたワケ

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日経平均が史上最高値圏を突き進み、「AI関連」の看板だけで株価が急騰する時代。投資マネーは半導体、データセンター、サイバーセキュリティへと雪崩れ込んでいる。しかし、その熱狂の裏側で、“投資の神様”ウォーレン・バフェットが静かに買い進めていたのは日本企業の株だった。なぜ彼はAIブームに飛びつかなかったのか。そこには、世界の分断、資源争奪、物流混乱、そして「日本経済の静かな摩耗」を見据えた、冷徹すぎる視線があった。

【画像】バフェットが静かに日本の商社の株を買い続けたワケ

バフェットの「見事すぎる」投資判断

現在の熱狂の外側で、まったく別の景色を見ていた男がいる。ウォーレン・バフェットである。

バフェットが日本で買ったのは、AI銘柄ではなかった。派手な新興企業でもなかった。彼が静かに、しかし徹底して買い進めたのは、三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅という、日本を代表する総合商社だった。

そしてさらに、東京海上ホールディングスへの投資と戦略提携に踏み込んだ。いま振り返ると、この判断は実に見事だった。まるで、これから世界がどういう時代に入るのかを、先回りして見ていたかのようである。

総合商社とは何か。古い言葉で言えば、「ラーメンからミサイルまで」と揶揄された存在である。

資源、食料、エネルギー、鉱物、化学品、物流、発電、インフラ、金融、保険、事業投資。あまりにも事業領域が広いため、かつては「何をやっている会社か分かりにくい」と言われた。

だが、いまの時代においては、その“分かりにくさ”こそが強さになっている。世界が平和で、物流が安定し、資源が安く、通貨が安定している時代には、商社は地味に見える。

しかし、世界が分断され、戦争が起き、資源が奪い合いになり、物流が詰まり、為替が荒れる時代になると、商社は一気に国家インフラそのものに見えてくる。バフェットが見ていたのは、おそらくそこだ。

いま日本では、政府が「備蓄は十分にある」と言う一方で、現場ではナフサ、重油、軽油、建材、塗料、シンナー、断熱材、住宅設備などで値上げ、納期遅延、受注制限、出荷停止が広がっている。

ナフサは単なる石油製品ではない。包装材、フィルム、接着剤、樹脂、塗料、断熱材、プラスチック、医療用品、家電部材に至るまで、日本の製造業全体の血液のようなものだ。

世界のサプライチェーンの血管に手を入れている商社

だから不足は、「ガソリンがない」という形では現れない。包装材が遅れる。印刷インクが足りない。接着剤が値上がりする。物流資材が詰まる。そして最後に、最終製品が突然消える。

この時代に、商社の価値は変わる。商社は単なる中間業者ではない。資源権益を持つ。現地政府との関係を持つ。船を押さえる。倉庫を押さえる。港湾に絡む。発電に絡む。鉱山に絡む。食料に絡む。化学品に絡む。つまり、世界のサプライチェーンの血管に手を入れている。

AIがどれだけ進化しても、電気がなければ動かない。半導体がどれだけ重要でも、レアメタルや化学品がなければ作れない。データセンターがどれだけ建っても、電力と冷却と土地と水がなければ維持できない。

世界がAI一色に染まるなかで、バフェットはそのAIを動かすための“現物の世界”を買っていたように見える。

AI相場に浮かれる投資家との決定的な違い

さらに東京海上である。これもまた、実にバフェットらしい。

保険とは、平時には退屈に見える商売だ。しかし有事には、リスクを引き受ける能力そのものが価値になる。戦争、災害、サイバー攻撃、物流混乱、気候変動、地震、豪雨、企業賠償。世界が不安定になるほど、保険の意味は重くなる。

しかも東京海上は、日本国内だけの保険会社ではない。海外事業を広げ、巨大災害や企業リスクを引き受けるグローバルな保険グループである。そこにバークシャーの保険・再保険の資本力が重なる。これは単なる株式投資ではなく、リスクの時代そのものへの投資である。

ここが、AI相場に浮かれる投資家との決定的な違いだ。

いま日本では、高市政権がAIやセキュリティ分野で経済成長を目指すという。しかし、米国と中国のAI企業は、毎年、数兆円から数十兆円規模の資金を投じている。

GPU、データセンター、電力、人材、基盤モデル、クラウド、サイバー防衛。その投資規模も速度も、日本とは桁が違う。日本には優れた研究者も、精密なものづくりも、産業現場のデータもある。

しかし、基盤モデル、計算資源、資金力、リスクマネーの厚み、そして実装速度で、米中に大きく遅れているのは否定しがたい。

それにもかかわらず、日本市場では「AI関連」というだけで株価が何倍にも化ける銘柄がある。だが、実が伴っていない“なんちゃってAI関連銘柄”は、相場の逆回転が始まれば、真っ先にメッキを剥がされるだろう。

防衛能力そのものが、世界水準から大きく遅れている

AIは本物の産業革命である。しかし、本物であるからこそ、偽物も大量に生まれる。

鉄道ブームでも、インターネットバブルでも、再生可能エネルギーでも、必ず同じことが起きた。テーマが本物であることと、すべての関連銘柄が本物であることは、まったく別の話なのである。

サイバーセキュリティも同じだ。日本企業はランサムウェア攻撃に晒され、業務停止、情報流出、信用失墜に苦しんでいる。しかも、実際の現場は、政府や市場がイメージするほど“強固”ではない。

私はセキュリティ分野の当事者から直接話を聞いたが、現場では「約8割の企業が最終的に身代金支払いに応じている」と言われている。もちろん表には出ない。公表できない企業も多い。

しかし現実には、復旧停止期間、信用低下、顧客離れ、業務麻痺を考えれば、「払ったほうが損失が小さい」という判断に追い込まれるケースが少なくないという。

つまり、いま日本企業で起きていることは、“防衛”というより、“やられた後の損失処理”なのである。しかも深刻なのは、そのための予算を、事実上あらかじめ織り込む企業まで出始めていることだ。

これは、もはやAIやセキュリティを成長産業として語る以前に、日本企業の防衛能力そのものが、世界水準から大きく遅れていることを示している。

円安をも味方につけたバフェット

バフェットは、そういう“言葉で膨らむ物語”には簡単に乗らない。彼が買うのは、現金を生む事業であり、実物資産であり、長期にわたって社会から必要とされ続ける仕組みである。

商社は資源と物流の要であり、東京海上はリスクを引き受ける装置である。どちらも、地味で、古く見えて、実はこれからの時代に極めて強い。

しかも、彼は円安も味方につけた。日本全体から見れば、過度な円安は購買力を奪い、輸入価格を押し上げ、物価高倒産を増やす。しかし、外貨収益を持つ商社にとっては、円安が利益を押し上げる面もある。

さらにバークシャーは円建て債を活用し、低コストの円資金で日本株に投資するという、実に巧みな構造を作った。日本人が円安で苦しむ一方で、バフェットは円安を利用して、日本の外貨獲得企業を買っていたのである。これは皮肉だが、投資としては見事と言うほかない。

いまの市場はAIに酔っている

私は、バフェットが戦争を予言していたと言いたいわけではない。

しかし、彼は少なくとも、平和と低インフレとグローバル化が永遠に続くとは考えていなかったのではないか。世界はもっと荒れる。資源はもっと重要になる。物流はもっと詰まる。保険はもっと高くなる。リスクを引き受けられる資本の価値は上がる。

そう考えれば、総合商社と東京海上への投資は、きわめて整合的である。

いまの市場はAIに酔っている。だがバフェットは、AIの夢ではなく、AIを支える電力、資源、保険、物流、現物の世界を見ていた。多くの投資家が空を見上げている時に、彼は地面を見ていたのだ。そして、その地面こそ、いま静かに揺れ始めている。

日本では既に、物価高倒産の連鎖が静かに始まりつつある。しかし、多くの人はまだ、その深刻さを実感していない。なぜなら、倒産には必ずタイムラグがあるからだ。

企業は原材料価格が上がった瞬間には倒れない。まず内部留保を削る。借入を増やす。値上げを我慢する。支払いサイトを延ばす。つまり、“体力で時間を買う”。だから、いま表面化している倒産件数は、数カ月前の原材料高、燃料高、物流費高騰の結果に過ぎない。

秋口にかけて、倒産の連鎖が一段と現実味

しかも現在は、そこへ中東情勢による原油高、ナフサ高、海運保険料上昇、円安、人件費高騰まで重なってきた。つまり、本当の物価高倒産ラッシュは、まだ完全には始まっていない可能性がある。

私はむしろ、猛暑による電力コスト上昇、物流逼迫、資材高騰が本格化する夏以降から秋口にかけて、倒産の連鎖が一段と現実味を帯びてくると見ている。

そして、その時に初めて多くの人は気づくのではないか。株価だけが上がっていた一方で、日本の実物経済の体力そのものは、静かに削られ続けていたことに。

株式市場では「日本復活」が叫ばれるが、実物経済では供給能力が摩耗している。この乖離こそが、いま最も危険なのである。

バフェットの投資を見ていると、彼が買ったのは日本株ではなく、日本の“供給網”であり、日本の“リスク引き受け能力”だったように思える。

総合商社は、世界からモノを持ってくる力である。東京海上は、世界のリスクを引き受ける力である。どちらも、平時には地味だが、有事には国家の背骨になる。そして、ここにこそ、いまの日経平均を見るうえでの重要なヒントがある。

バフェットが見ていたもの

AI関連という看板だけで買われた銘柄は、相場が逆回転すれば剥げ落ちる。しかし、資源、物流、保険、エネルギー、食料、インフラに根を張る企業は、世界が不安定になるほど存在感を増す。バフェットはそこを見ていたのではないか。

結局、相場とは、派手な物語を買うゲームではない。最後に残るのは、現金を生み、社会に必要とされ、有事に強い事業である。

皆がAIの夢に酔っている時、バフェットは現実を買っていた。

そして私は、その判断こそが、これから訪れるかもしれない日経平均の逆回転を読み解く、最も重要な補助線になると思っている。

文/木戸次郎