“オルカンの生みの親”が教える「投資で最も損をする人」の共通点…25歳から毎月2万8000円、老後に1億円を見込める「地味に強い」投資手法
2000年代の日本の家計における投資信託の割合は、わずか3%にすぎませんでした。ITバブル崩壊やリーマン・ショックなど大きな下落相場を経験したこともあり、「投資=危ない」という心理が根強かった時代です。その後もコロナ禍や中東情勢など、市場を揺さぶる出来事は数多く起こっていますが、投資は徐々に普及し、特に低コストで分散投資できる投資信託は多くの人に受け入れられるようになりました。本記事では、オルカンの生みの親・代田秀雄氏の著書『オルカン思考:世界経済を味方につける「長期投資」の教科書』(Gakken)より、「長期投資の本質」を紐解いていきます。
かつては「投資=危ない」だった多くの人の認識
私たちが「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」――通称「オルカン」の源流である低コストのインデックスファンド「eMAXIS」シリーズを立ち上げたのは、2009年10月のことでした。
あの頃の日本は、まだ「投資信託」という商品が、広く国民のみなさんに必要とされる存在ではなかった時代です。個人の金融資産に占める投資信託の割合はたったの3%程度といったところでした。
とくに2000年代は、バブル崩壊やITバブル崩壊、リーマン・ショックといった市場の大きな下落を経験し、「投資=危ない」「減るかもしれないから預金がいい」という心理が定着していました。金融広報中央委員会による調査(2010年)では、「金融商品の選択の際に最も重視していること」として“安全性を重視”と答えた人が48%にのぼり、“収益性重視”はわずか16%でした。
このような心理的背景が、投資信託という商品を必要と感じにくくしていたという面がありました。
投資を限られた人だけの「特権」にしておくのはもったいない
しかし、私は、投資を限られた人だけの特権にしておくのは、あまりにももったいない、と考えていました。働きながら家計を支える人も、育児や介護に忙しい人も、少しずつでもいいから世界経済の成長を自分の味方にできるような仕組みがあれば、きっと人生の選択肢は広がるはずだと。
こうした「知識や時間がなくても、安心して世界に投資できる仕組みをつくりたい」。その思いこそが、「eMAXIS(イーマクシス)」シリーズ誕生の原点でした。
そして、その理念をさらに研ぎ澄ませた形として誕生したのが「オルカン」でした。たった1つのファンドで、米国のテクノロジー企業から新興国の成長企業まで、世界中の株式市場に分散投資できる――しかも業界最低水準の運用コストを目指し、長期投資に適した形を追求したのです。
開発当初は疑問の声がなかったわけではありませんが、今では多くの方の人気を集め、投資を始める際、信頼できる最初の選択肢として活用されています。オルカンは設定後8年足らずで残高が10兆円に達しました。これはこれまでの日本の投資信託になかった現象です。
こうして多くの方に受け入れられるようになった背景には、スマートフォンやネット証券の普及により投資のハードルが格段に下がり、投資が「特別な行為」ではなく「人生の選択肢の一つ」として生活に取り入れやすくなったという環境の変化があります。私はこの15年間で、その変化を現場から肌で感じてきました。
普及をあと押しした「新NISA」
さらに、2024年に始まった新NISA制度は、こうした流れをあと押ししました。非課税期間が無期限となり、積み立て金額の枠も大きく拡大。「長期的に資産を育てる」ことを前提とした制度設計が、ようやく整ったのです。
その結果、もはや投資は「一部の人の趣味」ではなく、「多くの人の生活習慣」になりつつあります。
お金を「使う」行為の恩恵
また、お金を「使う」という行為は、単に個人の幸福を追求するためだけのものではありません。そのお金が消費や投資を通じて企業活動を支え、さらに雇用や所得として社会に還元されていく――。つまり、私たち一人ひとりの行動が、経済全体を動かすインベストメントチェーンの一部を担っているのです。
1990年代まで自国中心にしか投資を考えてこなかった米国人でさえ、今や、グローバル分散投資を重視する時代です。個人が世界の成長に参加しながら、自らの未来を形づくる。そうした投資の広がりこそが、より豊かな社会をつくる力となるのです。
35年間、毎月2万8000円をコツコツ積み立てると…
ここで、実際に長期でコツコツと積み立てを続けた場合、どれほどの成果が期待できるのか、具体的な数字で見てみましょう。
オルカンが設定されたのは2018年であり、ファンドとしての運用実績はまだ長期とはいえません。ただし、このファンドはMSCI ACWI[アクウィ](全世界株式指数)に連動するものです。その年次リターンをまとめたのが次のグラフです。
[図表1]MSCIACWIの1年のリターン推移 出所:MSCIデータより著者作成
これを見ると、2000〜2002年のITバブル崩壊、2008年〜のリーマン・ショック、2010〜2012年ごろの欧州債務危機といった、世界経済に大きな打撃を与えた局面をすべて含んでいます。それでも、この期間の年平均リターンは9.72%となっています。長期で見れば、世界経済の成長が株式市場を押し上げてきたことは、データ上でも確認できるわけです。
たとえば、この9.72%という過去の平均リターンが今後も続くと仮定すれば、25歳から60歳までの35年間、毎月2万8000円を積み立てることで、投資元本約1180万円が、最終的に約1億円に到達する計算になります。
しかし、ここで注意すべき点があります。この試算はあくまで「過去の平均値を、そのまま未来に当てはめた」ものであり、現実の投資とは大きく異なります。実際には、リターンは年ごとに大きくばらつき、平均通りに積み上がることはありません。
仮に目標を「1億円」と明確に定めた場合でも、前提とするリターンによって、必要な積立額は大きく変わります。たとえば、年率7%を想定すれば毎月約5万5000円、5%を前提にすれば約8万8000円が必要になります。つまり、同じ目標額でも、前提次第で負担は大きく変わってしまうのです。
このように、投資とは、将来の成長を期待して「不確実性を引き受ける行為」であり、あらかじめ特定の金額に到達することを約束してくれるものではありません。にもかかわらず、目標額だけを固定してしまうと、リターンのブレに一喜一憂しやすくなり、投資行動そのものが不安定になります。
もちろん目標額を設定すること自体は悪いことではありませんが、それよりも重要なのは、長期・分散で市場に居続けること、そして無理なく続けられる積立額を設定することです。
結果としてどこまで増えるかは、市場が決めます。その不確実性を受け入れたうえで時間を味方につけることこそが、投資運用の本質だといえるでしょう。
「20年投資するとマイナスになりにくい」といえる根拠
過去のデータでは、20年程度の保有期間を取るとマイナスになりにくい傾向があります。長期投資の期間について問われたときに20年は投資しましょうと答えることが多いのも、そういった背景があります。
オルカンはMSCI ACWIという指数に連動していると説明しましたが、このデータが取れるのは1998年からです。1998年から10年のローリングリターン(測定期間を1カ月ずつずらして計測したリターン)と20年のローリングリターンを測定すると、10年のローリングリターンはマイナスとなる期間もありますが、20年のローリングリターンはおおよそ4%から10%の間に収まっています。
[図表2]25歳から60歳までで1億円積み立てるのに必要な積立額 出所:編集部作成
このことは、市場の大きな下落に遭遇すると、10年という期間では必ずしも回復する余裕はないものの、20年の期間があれば、回復する期待が持てるということを示しています。
利益が出ても、急落しても「市場に居続ける」
ここで注意したいことは20年の“長期投資”の意味です。20年間の長期投資というのは、オルカンやS&P500といった市場と連動する分散された株式ファンドを一度買ったら、20年間持ち続けるということです。つまり、利益が出たから売却するとか、急落したから売却するとか、途中でそういうことをしてはいけません。売却するということは、一時的に市場を離れてしまうことになります。
市場を離れたときに、大きな値上がりをすることもあるかもしれません。そして、その大きな値上がりがいつあるのかは、誰も予測できないのです。「過去30年間(1995〜2024)でS&P500に全期間投資していた場合、最も上昇した10日を逃したらリターンがほぼ半分になった」というレポートがあります。このように、“ほんの数日”を逃すだけで、長期投資の成果が大きく変わる可能性が高いのが株式投資です。
「市場が好調のときだけ市場に入ればいい」「暴落時に逃げて、回復を待てばいい」といった“タイミング重視”の戦略は、実際には成果を出すことが難しい投資手法であるといわざるを得ません。
したがって、私たちは短期的な値動きを予測しようとするより「市場に居続ける(Time in the Market)」ことを重視すべきです。市場に出たり入ったりを繰り返す行為は、一見するとリスクを避けているようですが、実際には、相場が大きく回復する局面や、リターンの大部分を生み出す限られた「上昇日」を逃してしまうリスクを高めます。
株式市場の長期リターンは、毎日の平均的な上昇の積み重ねで生まれているわけではありません。ごく一部の大きな上昇局面が、全体の成果を左右しています。感情に流されて市場から離れてしまうことは、その最も重要な瞬間に立ち会えない可能性を高めてしまうのです。
だからこそ、投資において本当に重要なのは、「当てること」ではなく、「続けること」です。“Time in the market beats timing the market.”(市場のタイミングを計ろうとするよりも、市場に居続ける時間のほうが、はるかに大きな成果をもたらす)という投資の格言があることも、それを証明しているといえるでしょう。
長期投資とは、相場を完璧に予測する技術ではありません。変動を受け入れながらも、市場との関係を断たずに持ち続ける姿勢そのものが、最終的なリターンを決定づけるのです。
長期投資では、逆境の時ほど後の成果が大きくなる
また、長期投資で大切なのは、途中でやめずに積み立てを続けることです。これは、相場が下がったときに積み立てをやめてしまうと、せっかくの“安く買える時期”を逃してしまうためです。毎月一定額を投資する定額積み立てであれば、相場の上下にかかわらず着実に投資を続けられ、長期的な成果につながります。
もちろん、相場が急落すると不安になるのは自然なことです。「このまま積み立てていて本当に大丈夫だろうか」と感じたことのある人も多いでしょう。しかし、長期投資では、逆境の時ほど後の成果が大きくなるという逆説的な仕組みがあります。だからこそ、定額積み立てを継続することが重要なのです。
ここで、2つのシナリオを比較してみましょう(図表3・図表4参照)。
シナリオA:10年間、相場が一直線に上昇して価格が1.5倍になった場合。
シナリオB:最初の5年間で価格が半分になり、その後5年間かけて元の水準に戻った場合。
[図表3]株価シナリオ(シナリオA、シナリオB) 出所:著者作成
[図表4]積立投資をした場合の投資元本と資産評価額の推移(シナリオA、シナリオB) 出所:著者作成
この2つのシナリオのもとで、毎月1万円を10年間積み立てることにします。多くの投資家はシナリオAのように、ストレスなく上昇してほしいと考えるでしょう。しかし、実際にはシナリオBのように大きな下落が起こることもあります。興味深いのは、シナリオBでも毎月定額で積み立てていた場合、価格が安いあいだに多くの口数を手に入れられるため、最終的なリターンはシナリオAを上回るという点です。
つまり、下落局面でも慌てず、定額で積み立てを続ける――その地味な行動が、知らず知らずのうちに未来の大きな成果につながるのです。そして、相場が下落したときにどのように行動するか、そのことが将来の運用の成果を大きく左右します。
オルカンを通じて世界中の企業の成長に参加するということは、いい換えれば、世界経済と一緒に自分の人生を歩むことです。毎月の積み立てという小さな一歩を重ねるだけで、未来の大きな成果につながります。
世界経済は長期的に成長を続け、その果実は確実に私たちの資産として実を結びます。地味な行動に思える積み立ても、人生の自由やワクワクに直結する――それが、長期投資の最大の魅力です。
代田 秀雄
三菱UFJアセットマネジメント 前常務
シロタ・ウェルス・アンド・ウェルビーイング・アドバイザーズ 代表
