「子ども1人に1100万円」韓国企業が破格の少子化対策で出生数倍増 90年代前半生まれが押し上げ
少子化が深刻化する韓国で、大企業による大胆な出産支援策が相次いでいる。ビデオゲーム開発大手のKrafton(クラフトン)は、昨年子どもを出産した従業員に対し、1人当たり最大1億ウォン(約1100万円)を支給する制度を導入した。
同社は出産時に6000万ウォンを一括支給し、その後8年間にわたり毎年500万ウォンを追加支給する。さらに最長2年間の育児休業制度や在宅勤務制度も整備した。
韓国メディアからは「破格の支援策」と注目を集めたが、その効果にも驚きが広がっている。
同社が今月発表した資料によれば、制度導入後の2026年1~4月の出生児数は、前年同期の23人から46人へと2倍に増加した。また同社が専門家の協力を得て実施した調査では、単なる現金支給以上の効果も確認されたという。
社員の間では、「会社が出産や育児を本気で支援している」という安心感が広がり、結婚や出産をためらっていた若い世代を後押ししたとの分析が出ている。
こうした現金支援は他企業にも広がっている。建設大手のブヨングループも、子ども1人につき1億ウォンを支給する制度を導入した。さらに、第3子を出産した社員に永久賃貸住宅を提供する構想も打ち出している。
アパレル企業のサンバンウルも、勤続5年以上の社員を対象に、第1子から第3子まで段階的に奨励金を支給している。3人の子どもについて支援を受けた場合、総額は1億ウォンに達する。
出生数回復の背景に「エコブーム世代」
韓国では長年低下を続けてきた出生率が、ここにきて下げ止まりの兆しを見せている。ただ、専門家の多くは、企業支援だけが要因ではないと指摘する。
背景には、1991~95年前後に生まれた「エコブーム世代」の存在がある。この世代は年間70万人規模で生まれた比較的人口の多い層で、現在30代前半となり、結婚・出産期を迎えている。出産世代そのものの人口増加が、出生数を押し上げている側面が大きい。
さらに、新型コロナウイルス禍で延期されていた結婚が、この数年で相次いで実現していることも影響している。
若年層の意識変化もみられる。結婚や出産への拒否感が以前より弱まり、「子どもを持ちたい」と考える人が増えているという調査結果もある。
また、祖父母世代による経済支援も拡大している。50~60代が産後ケア費用や育児用品購入を支援する「孫消費」が広がっている。
2030年代に再び人口危機も
もっとも、現在の出生数回復を「一時的な現象」とみる専門家は少なくない。背景には、2030年代に韓国社会が直面する急激な人口構造の変化がある。
現在、出生数を押し上げている1990年代前半生まれのエコブーム世代は、2030年代には出産適齢期を過ぎていく。一方、その次の世代は、すでに少子化が進行していた時期に生まれているため、人口規模自体が小さい。若者の「母数」が急速に減少するため、結婚や出産を増やそうとしても増やせないのだ。
専門家は、2030年代には現在以上の速度で人口減少と高齢化が進み、地方消滅や労働力不足、年金財政の悪化が深刻化する可能性を警告している。
さらに、高騰する住宅価格や教育費、長時間労働といった韓国社会の構造的問題も依然として重い。高額な現金支援を実施できるのは、一部の大企業に限られているのが現実だ。
そのため韓国政府と企業は、単発の現金支援だけでなく、住宅支援や柔軟な働き方、育児休業制度の定着など、長期的に子どもを育てやすい社会づくりを急いでいる。
韓国に比べ少子化の進行が緩やかな日本では、高額な現金支援を打ち出す企業はまだ少数派で、支援額も数十万円程度が中心だ。代わりに、育児休業や働き方改革、住宅支援などを組み合わせた「仕事と子育ての両立支援」に重点を置く傾向が強い。
もちろん、こうした取り組みは重要だ。ただ、韓国企業のように大胆な現金支援を通じて、「企業が本気で少子化対策に取り組んでいる」という姿勢を社内外に明確に示すことも、今後は必要になるだろう。
文/五味洋治 内外タイムス
