『地獄に堕ちるわよ』Netflixにて世界独占配信中

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 Netflixシリーズの最新作にして、2026年上半期一の問題作『地獄に堕ちるわよ』が早くも話題を呼んでいる。本作で細木数子をモデルにした“悪女”を怪演しているのが、俳優の戸田恵梨香だ。

参考:戸田恵梨香の怪演で際立つ虚実の境界線 『地獄に堕ちるわよ』が傑作と言える3つの見どころ

 古代中国から伝わる統計学をベースにした「六星占術」と歯に衣着せぬ物言いで、昭和から平成にかけてテレビ界や出版業界を席巻した人気占い師・細木数子。表舞台から去り、2021年11月に呼吸不全で亡くなったことも報じられたが、その影響力は消えていない。かくいう筆者も2026年から運気が低迷するという「大殺界」に突入し、密かに怯えているところだ。

 子どもの頃、バラエティ番組『ズバリ言うわよ!』(TBS系)で観ていた彼女はグラマラスで貫禄があり、いつも怒っている、ちょっぴり怖い存在だった。戸田はスレンダーで親しみやすい雰囲気があるため、SNSでは「役に合っているか、合っていないか」論争が起こっているが、あくまでも本作は事実を基にした“フィクション”という位置付け。戸田自身も自分は適任じゃないと思ったそうだが、プロデューサーと監督に「モノマネはしなくていい、容姿も喋り方も、自分自身が脚本から感じて思う細木数子像を作ってくれたらいい」と言われ、オファーを受けたという。(※)

 実際に、戸田は役への徹底した追求と鬼気迫る圧巻の演技で独自の細木数子像を作り上げている。とはいえ、YouTube動画などで細木数子本人について研究し、仕草や口調などを取り入れており、特に何かを企むように指で唇を拭いながらニヤリと笑う瞬間などは、実際にその場面を見たことはないのに「細木数子だ!」と思わせるようなシンクロ感があった。 

 本作を「占い師のドラマ」として観始めると、もしかしたら肩透かしを食らうかもしれない。細木数子が占い師になってからの歩みよりも、そこに至るまでの背景が重点的に描かれているからだ。貧しさから抜け出すために高校からキャバレーで働き始め、ナンバーワンの座を掴むも、オーナーに騙されていたことが判明。おにぎり屋をオープンしたのち、店を売却したお金でナイトクラブを開き、“銀座の女王”と呼ばれるまでに上り詰める。お金持ちの常連客に見染められ、嫁入りするが、わずか3カ月で結婚生活は破綻。再び夜の街に返り咲くも、ロマンス詐欺に遭って多額の借金を背負うなど、壮絶すぎるエピソードの数々に驚きを隠せない。

■17歳から67歳までを演じ分ける戸田恵梨香の凄さ どこまで史実かは分からないが、前半は男に人生を狂わされた女性という印象を受けた。また「昔から貧乏くじを引くのはいつも女」「男に復讐しているの」という台詞からも、このドラマにはフェミニズム的要素が含まれていることは明らか。しかしながら、主人公の数子を一方的な被害者として描いているわけではない。特に昭和のスター歌手・島倉千代子(三浦透子)とのくだりに関しては、ヤクザもびっくりの悪党っぷりだ。結局のところ、彼女は“搾取される側”から“搾取する側”に回っただけで、過去に経験した苦しみから弱者に手を差し伸べることはしなかった。転んでもただでは起きない強靭な精神には感心するが、決して尊敬はできない。ただ最後の最後で憎みきれないのは、やはり戸田の力に依るところが大きいだろう。

 17歳から67歳までの数子を演じている戸田。特殊メイクの効果もあるが、NHK連続テレビ小説『スカーレット』でも女性の一代記をほぼ1人で担っただけあって、各年代ごとの演じ分けは流石の一言に尽きる。少女時代は快活さを全面に押し出しており、一見すると普通の女の子に思えなくもないが、戦後の焼け野原で極度の餓えを経験した彼女はやっぱり一味違う。涙を武器にキャバレーの同僚から客を奪い取ったり、知人の経営者にナイトクラブの開店資金を賄ってもらったりと、目的のためなら手段を選ばないところも。だが、この辺りはまだ邪気は薄く、末恐ろしくも純真さを残すバランスが絶妙である。

 戸田の出世作と言えば、2006年に初めて実写映画化された『デスノート』シリーズだ。同作で演じた、ツインテールがトレードマークのアイドル“ミサミサ”こと弥海砂は、戸田の愛らしさとともに、今なお人々の記憶に刻まれている。主人公・夜神月(藤原竜也)に心酔し、すべてを捧げようとする海砂の純粋さと表裏一体の狂気を戸田は見事に表現していた。2018年のドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)で演じた主人公・北澤尚は医者の彼と婚約中の身で、売れない小説家と運命的な恋に落ちる役どころ。彼女もまた真っ直ぐだが、世間知らずでどこか危ういところがあった。そして今回の作品と、それぞれ10年ずつ期間が空いているが、いずれの時代も戸田はチャーミング。無自覚に周りを振り回すが、放っておけない小悪魔っぽさのあるヒロインを演じさせたら、やはり彼女の右に出る者はいない。

 だが、今回は年齢を重ねるたびにどんどん業を深めていく役柄だ。回を追うごとに可憐さは失われ、際限のない欲望で“喰らった”人の数だけ凄みを増していき、最終的にはモンスターとしか言いようのない存在が完成する。その中で唯一人間的な何かがあるとしたら、愛への渇望ではないだろうか。自分の心は決して誰にも明け渡さない一方で、幾度となく裏切られても、どんな痛い目に遭っても、また誰かを愛さずにはいられない。そのアンバランスさが時折、もの悲しさとなって立ち現れ、コロッと同情しそうになるが、彼女の術中に嵌まっているだけのような気もする。『リブート』(TBS系)の幸後一香(早瀬夏海)役もそうだったが、印象が変わり続け、評価が定まらないのだ。この役は戸田にキャラクターの本質を見極めようとする視聴者を煙に撒きつつ、最後まで引っ張り続ける力があればこそ成立する。まだ未視聴の方はどうかこのゴールデンウィークにでも、戸田が提示する細木数子像に翻弄されてほしい。

参照https://www.wwdjapan.com/articles/2390431(文=苫とり子)