Image: The University of Basque Country

火星の石から、ボールペンのインクの成分が見つかりました。

え?となりますよね。「もしかして、火星に地球のような文明があった証拠なのかな」なんて思って一瞬ワクワクするかもしれません。落ち着いてください、全然違います。

研究プロセスが原因で、火星隕石のサンプルからボールペンやプリンターインク、さらにはポリエステル繊維まで検出されてしまったのです。

こう聞くと、今度は「それってダメなんじゃない? 」と思うかもしれませんが、それも違います。これは、宇宙サンプルの研究が思っていた以上に難しいということを明らかにした研究の結果なんです。

宇宙サンプルの研究は難しい

インクは、NASAジョンソン宇宙センターから提供された隕石サンプルの前処理過程で付着したものでした。

もちろんNASAをはじめ、多くの研究機関は不要な汚染を防ぐため細心の注意を払っています。それでも宇宙サンプルは、想像以上に汚染物質を取り込みやすいのです。今回の発見は、汚染防止がいかに難しいかを改めて浮き彫りにしました。

この研究はスペイン・バスク大学の研究チームによって行われ、学術誌『Applied Geochemistry』に掲載されています。

そもそもサンプルは「完全な状態」で届かない

そもそも、火星や月などから届く試料が完全に元のままの状態で地球に到達することは、ほぼ不可能です。

宇宙を旅し、大気圏に突入するだけでも岩石は変化します。地球の大気圏を通過する際、岩石は高温や高圧の影響を受け、表面に外皮のような層が形成されます。この外層は変質しているため、本来の鉱物組成を正確に判断できません。そのため科学者は通常、この外皮を取り除いたうえで内部を分析します。

そして、この前処理の工程が非常に複雑なんです。

隕石の洗浄や加工には、超音波洗浄、ダイヤモンドソーによる切断、溶媒への浸漬、ポリマー潤滑剤の使用など、さまざまな手法が用いられます。試料の種類によって方法が異なるため、標準化された汚染対策プロトコルは十分に整備されていません。

その結果、サンプルから見つかった化学物質が本当に宇宙由来なのかを判断する作業が、より複雑になってしまうのです。

それでも研究の信頼性は揺らがない

今回の分析では、2001年から2014年に収集された火星隕石の加工済み試料6点と、未加工試料1点が調べられました。

研究者は、それぞれの試料がどのような前処理を受けたのかを確認したうえで、ラマン分光法を用いて化学組成を分析しました。その結果、前処理や取り扱いに由来する7種類の汚染物質が検出されました。

ダイヤモンド粒子やエチルアルコールのように、特定の処理工程に由来する物質もあります。さらに、ボールペンやゲルペンのインクに使われる合成有機分子、プリンターインク由来とみられる樹脂、銅化合物、そして繊維製品に由来すると考えられる青色ポリエステルなども見つかりました。

とはいえ、これらの汚染物質が火星由来と誤認される可能性は低いと研究は強調しています。現在の分析手法は、汚染物質と本来の成分を十分に区別できるため、火星隕石研究の信頼性は保たれています。

ただ、研究者たちは、より慎重な取り扱いと洗浄プロトコルの統一が必要だと指摘しています。

バスク大学の研究者たちは、将来NASAの探査車パーサヴィアランスが持ち帰る新たな火星サンプルを受け取る予定のチームの1つです。貴重な試料が届くときまでに、万全の準備をしてほしいですね。

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