事件発生の2時間後、緊急会見に臨んだトランプ氏

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事件を逆手にとってアピール

 4月25日、トランプ米大統領が出席したホワイトハウス記者会主催の晩餐会で銃撃事件が発生した。トランプ氏をはじめ政権の重要閣僚は無事だったが、事件は世界に大きな衝撃を与えた。

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 米国社会の分断を象徴する事件が起きたにもかかわらず、トランプ氏の発言はいつも以上に強気だった。

 トランプ氏は事件発生から約2時間後に行われた記者会見で、「私は暗殺についてよく研究してきた」と述べ、リンカーン元大統領を例に出して、「最も多くのことを成し遂げる人々、最大の影響を与える人々こそが、彼らが狙う相手だ」と説明した。

 トランプ氏はさらに、ホワイトハウスに「大きく、安全で、確実に守られた」宴会場が必要であることが証明されたと主張した。トランプ氏肝いりの宴会場の建設は昨年10月に始まったが、全米歴史保存信託が訴訟を起こし、連邦地裁は3月、建設停止を命じた。トランプ政権が控訴し、現在審理中だが、計画が頓挫する可能性がある。

事件発生の2時間後、緊急会見に臨んだトランプ氏

 暗殺未遂事件を逆手にとって、自身の偉大さと計画中のプロジェクトの正当性を主張したのはトランプ氏の真骨頂だと言っても過言ではない。

「口は禍の元」が続く

「鋼の心臓」を持つトランプ氏だが、自身の発言で求心力を失う状況が続いている。

 ローマ教皇レオ14世との対立で、2024年の大統領選でトランプ氏の勝利を後押ししたカトリック教徒の支持離れが広がっている。プロテスタントの福音派からは目立った批判は出ていないが、トランプ氏の言動を快く思っていないことはたしかだろう。

 トランプ氏は先週、米国で最も著名な黒人であるジャクソン最高裁判事とジェフリーズ下院民主党院内総務を攻撃する際、「低IQ(知能指数)」という侮辱的な表現を使ったため物議を醸した。白人至上主義者が「黒人の知能は低く肉体労働に適している」と主張してきた歴史を踏まえると、この発言がいかに不適切かがわかる。

 海外でもトランプ氏の言動に対する批判が強まっている。その急先鋒はフランスのマクロン大統領だ。

 ギリシャ訪問中のマクロン氏は24日、欧州と“正面から対立する世界の指導者”として、トランプ氏とロシアのプーチン大統領、中国の習国家主席を同列視した。対イラン軍事作戦をめぐり、トランプ氏は参加を拒む欧州への怒りを露わにしている。マクロン氏は憤懣(ふんまん)やるかたないのだろう。

「トランプ語録」に批判集中

 米国の「裏庭」でも同様だ。コロンビアのペトロ大統領は、異議を唱える中南米の指導者に対する米国の圧力は、同地域での「反乱」につながりかねないと警鐘を鳴らした。

 インドも反発している。インド政府は23日、トランプ氏がアンカーベイビー(外国人が国籍取得を目的に米国で生んだ乳児)批判に関連してインドを「この世の地獄」とSNS上で発言したことを不適切と批判した。米印関係はこのところ悪化しており、今回の発言でインドの対米不信に拍車がかかる可能性がある。

 経済界からもトランプ氏の言動を危惧する声が上がっている。

 著書『ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質』(ダイヤモンド社)で有名なナシーム・ニコラス・タレブ氏は、日本経済新聞に掲載されたインタビューで、トランプ氏こそブラック・スワンとの見解を示した。

 ブラック・スワンはタレブ氏の造語で、想定外の出来事が社会や金融市場を揺さぶる事象を意味する。金融危機やパンデミックなどが典型例だ。世界で最も権力を有する大統領という職に就いているトランプ氏のきまぐれこそが、世界の政治経済にとって最大の脅威になったというわけだ。

陰謀論に飲み込まれるトランプ氏

 トランプ氏の言動に世界が振り回される中、筆者が注目したのは、トランプ氏と陰謀論の関係が変わりつつあるとの指摘だ。

 CNNは23日、「トランプ氏が育てた陰謀論という怪物、今や本人に襲いかかる可能性」と題する論説記事を掲載した。記事によれば、トランプ氏ほど陰謀論を主流派の言論に持ち込んだ人物はいないが、自身が作り出した「怪物」が今や自身に降りかかろうとしているという。

 その例として挙げているのが、2024年に起きたトランプ氏の暗殺未遂事件にまつわる疑惑だ。事件に不審な点がみられるため、暗殺は仕組まれた可能性があるとの主張が広まっているのだ。

 今回の晩餐会襲撃事件でも同様の現象が起きている。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は26日、襲撃事件の発生直後からSNS上で陰謀論や責任追及の動きが始まったと報じた。NYTによれば、“支持率低下やイラン戦争などから大衆の関心をそらす目的でトランプ陣営が企てた”とする陰謀論が広まっているという。

最も有害な陰謀論は選挙関連

 トランプ氏が歴代大統領の中で最もSNSを駆使していることも陰謀論をあおる要因になっているのかもしれない。「策士策に溺れる」だ。

 トランプ氏が流布した陰謀論で最も有害なのは、民主党の悪だくみのせいで2020年の大統領選挙で自身が敗北したというものだと思う。トランプ氏の主張が広く浸透したため、米国で選挙に対する不信感が高まっているからだ。

 ロイターなどの最新の世論調査で、約46%が「米国の選挙で非市民による不正投票が多数行われている」という意見に「同意」と回答した。党派別にみると、共和党支持者の82%に上っている。

 11月の中間選挙に向けてこの傾向がさらに強まれば、米国の民主主義の根幹が揺らぐ事態になりかねない。悩める超大国の動向について、引き続き高い関心をもって注視すべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。2026年3月末日で経産省を退職。

デイリー新潮編集部