老舗鰻店「みなと」

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4月28日、兵庫県の神戸・三宮にある雑居ビルに鰻店「鰻 川田」がオープンした。それ自体は喜ばしいことなのだが、この店は開業前から波紋を呼んでいた。

発端は同店のオーナーであり、YouTubeの人気リアリティ番組「令和の虎」への出演経験もある実業家の佐藤和也氏のSNS投稿。同氏は4月17日にXで、同店のオープンを予告するとともに、同じビルの隣に別の老舗鰻店「みなと」があることを明かし、“挨拶に行くの気まずい”とも綴り、その後、こう報告した。

《挨拶行ったらめちゃくちゃ怒られました。鰻屋の隣に鰻屋だすなんて何考えてるんや、大家もOKしてないだろって門前払いされそうになりながらなんとか理解してもらおうと説明しましたが理解は得られませんでした》

この呟きがSNS上で拡散すると、わざわざ既存の鰻店の隣に新規の鰻店をオープンする是非を問う声が続出し、《マジで理解できないんだけど、何がしたいの?》《喧嘩売ってる側が仲良くしようとか言い出す意味不明な状態だから、まあ当然のリアクション。》など批判的な意見が多数あがっていた。

その一方で、《隣は怒るかもしれないけど、別に隣に出すのがおかしいと思わない。日本には職業選択の自由があるから》など擁護する意見も見られた。

その後、再び話し合いの場がもたれたようで、4月22日に佐藤氏は自身のXで、「みなと」の関係者から、《こちらが一方的に怒ったような書き方になってしまっている、経緯をきちんと書くべき》と指摘されたことを明かし、《誤解をまねくような書き方をしてしまい申し訳ございませんでした》と謝罪。そのうえで経緯を説明していた。

それによると、昨年12月に鰻居酒屋として管理会社へ出店を申し込み、審査を経て3月1日から物件を契約。しかし、店舗名がなかなか決まらなかったこともあり、近隣への挨拶が遅れてしまったという。オープン直前に急いで備品を発注すると、挨拶ができていなかった「みなと」に誤って配達されるトラブルが発生。

そういった状況で、突然佐藤氏が「隣で鰻店を始める」と挨拶したため、「みなと」サイドを驚かせてしまったと釈明していた。

佐藤氏は、「みなと」について、常連の紹介、口コミでの来店が多いことを理由に《うちが出店したところで影響がでないような盤石な運営をされていると思います》と持論を述べ、《当店はそれを横取りしようなんて考えはまったくなく、違う手法で集客していき最終的にはビル自体にお客様が増えるという状態を作っていきたいと思います》と意気込んでいた。

さらに最終的には「みなと」サイドから、《いがみ合いたいわけではないし、お互いがんばりましょう》という言葉をもらったと綴っていた。

コンビニや牛丼店のように、店舗数の多い業種と比較すると、日本全国での鰻店はさほど多いわけではない。にも関わらず、一体なぜ、既存の鰻店の隣にわざわざ鰻店を開店しようと思ったのだろうか。佐藤氏がオーナーを務める「鰻 川田」の店主に話を聞いた。

--なぜ鰻店を出店しようと。

「もともとここは炉端焼き店が入っていまして、その店舗を居抜きでつかえる業態は何がいいのかを考えた時、この場所の客層などを考えて、老若男女問わず来てもらえる鰻屋かいいのではとなった訳です」

--隣に鰻店があるのは気にならなかったのか?

「それはなかったですね。隣に鰻屋があってもなくても、いずれにしても鰻屋をオープンしていました。また30年続く老舗とは 焼き方も、値段も違います。うちは1900円からの低価格設定ですから。客層はぶつからないと思いますし、鰻屋さんが並ぶ、相乗効果でお互いがよくなればと思っています」

「鰻 川田」にもきちんとした言い分はあるようだが、果たしていきなり隣に“競合店”を出される側の「みなと」はどう思っているのだろうか。

東京に本店がある江戸前鰻の一流店で料理長を務めたのちに、30年前から三宮で「みなと」を営んでいる店主に話を聞いた。

「たしか4月の半ば頃でした。ネット通販で頼んでいない荷物が何個も届き始めたのです。『鰻屋はここですか』って。よくみると、“鰻 川田”と書いてあったんですが、そのときは別のお店と間違えたのかなぐらいに思っていたんです。

その後、何日かして『アルバイトの募集を見てきました』という人かうちに来るようになって、『いや、アルバイトなんて募集してませんよ』と。

そういった人が4〜5人うちを訪ねてきました。これは何かおかしいなと思ってたら、店の人が挨拶に来たのです、『新しく隣で鰻屋をしますのでよろしく』と。その時に初めて隣に出来ることを知りました」

共に「みなと」を切り盛りする店主の妻が続ける。

「主人が『鰻屋の横に鰻屋を開店する。それは常識的にないやろ』と言ったんです。隣は以前、居酒屋さんでしたそれがまさか鰻屋になるなんて考えてもみませんでしたから。それで、ビルの大家さんに確認の電話をいれたんです。

すると大家さんが『いや、うちは居酒屋をやると聞いたので、契約した』とおっしゃっていました」

佐藤氏がXに《挨拶行ったらめちゃくちゃ怒られました》などと投稿していたことについて、店主の妻は心情を吐露する。

「私たちは、鰻を食べたいという人においしい鰻を提供できたらいいなという気持ちで、30年やってきた店です。これからも静かに店を続けられたらいいなと、それだけを思ってやってきたのです。

けれど、あの文章だけを見た人は、うちの店主が挨拶に来た人に対して、一方的に激怒し、門前払いしたまるで人の意見を聞かない乱暴な人物と受け止められかねません。

世間一般の人々に誤解されてしまうのではと、すごく心配になりました。あの文章を表に出すならこれまでの経緯をちゃんと丁寧に書いた上で出すべきです。そうでないと誤解されかねないので」

それでも佐藤氏の投稿を見ると“和解”したようだが、果たして本当にわだかまりはなくなったのだろうか。店主の妻はこう打ち明ける。

「先日、向こうの鰻屋さんの店主らしき人物と店の前でたまたま会って、『直接いきなりあの内容をXに出すのはおかしくないですか。どういう経緯があったのかをちゃんと書いてもらわないとうちが誤解されてしまう』と伝えました。すると『配慮が足りませんでした。すみません』と謝ってはくれましたが……」

店主本人もこう不信感をあらわにする。

「人としての一般常識の問題なんです。たしかに鰻屋のとなりに鰻屋を出してはいけないなんて法律はありません。だからといって、同じビルの同じ階に同じ鰻屋を開店させるのは、どうなんだろうということなのです」

店主夫妻の話を聞くと、問題はまだ全て解決したかのように思えないが……。完全な“雪解け”を迎える日はくるのかーー。