タランチュラ星雲が輝く天空へ向けて照射された4本のレーザービーム ESOの天文台で撮影
星空にかかる雲をつらぬいてきた4本のビーム光線…のように見えるこちらの画像。一見するとSF映画かアニメのワンシーンのようですが、現実の光景を捉えたものです。

画像の中央に写っているのは、かじき座の方向・約16万光年先の輝線星雲「かじき座30(30 Doradus)」、別名「タランチュラ星雲(Tarantula Nebula)」。天の川銀河の衛星銀河(伴銀河)のひとつ「大マゼラン雲(大マゼラン銀河)」にあります。
そのタランチュラ星雲から発射されたように見えるオレンジ色の光の筋は、実は天体観測のために地上から上空に向けて照射されたレーザービームなのです。
補償光学を支えるレーザービームの輝き
画像が撮影されたのは、ESO(ヨーロッパ南天天文台)が運営するチリのパラナル天文台。ここには口径8.2mの大型望遠鏡4基で構成されたVLT(超大型望遠鏡)がありますが、レーザービームは4基の望遠鏡それぞれから照射されたものです。

地球には大気があるので、地上から天体を観測しようとすると、大気のゆらぎの影響を受けて像がぼやけてしまいます。このゆらぎの影響を打ち消すために、VLTや国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」といった地上の大型望遠鏡では、補償光学(Adaptive Optics: AO)という技術が活用されています。
補償光学では、明るい星を目安にして大気のゆらぎを測定しつつ、望遠鏡の反射鏡をリアルタイムに変形させることでゆらぎの影響を打ち消すことで、天体を鮮明に捉えることができます。

とはいえ、そのような明るい星がいつでも利用できるとは限りません。そこで登場するのが「レーザーガイド星」です。地球の上層大気にあるナトリウム層に向かってレーザーを照射し、励起したナトリウムの光を“人工の星”として利用することで、ゆらぎを測定する方法です。
タランチュラ星雲はGRAVITY+試験観測の対象
VLTではこれまで1基の大型望遠鏡にのみ補償光学用のレーザー発振器が搭載されていましが、「GRAVITY+」と呼ばれる最新システムへのアップグレード計画の一環として、他の大型望遠鏡にも各1基のレーザー発振器が搭載されました。
4基の大型望遠鏡が放つレーザービーム 強化されたVLT干渉計が試験観測で16万光年先の連星を捉えた(2025年11月15日)
GRAVITY+は、パラナル天文台の干渉計「VLTI(Very Large Telescope Interferometer=VLT干渉計)」の能力向上を目的としたプロジェクトです。VLTIはVLTの大型望遠鏡4基と、口径1.8mのVLTI補助望遠鏡4基で構成される干渉計で、捉えた光は観測装置「GRAVITY」などに送り込まれて処理されます。

干渉計とは、複数の望遠鏡を連動させて同じ対象を観測することで、単一の望遠鏡で観測する場合よりも高い解像度を得るための仕組み。電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」などでも利用されています。
VLTIでも記事前半で触れた補償光学は利用されてきましたが、レーザー発振器を搭載するVLTの大型望遠鏡は4基のうち1基だけでした。そのため、VLTIで補償光学を用いて観測できる天体は、天然のガイド星を利用できる一部に限られていたのです。
しかし、VLTIを構成する4基の大型望遠鏡すべてににレーザー発振器が搭載されたことで、GRAVITY+では補償光学を用いた観測範囲が南天全体へ一気に拡大されることになりました。そのGRAVITY+の試験観測で最初に観測された天体のひとつが、冒頭のタランチュラ星雲だったのです。
撮影したのは、試験観測に参加した天文学者のAnthony Berdeuさん。4基の望遠鏡から照射されたレーザー、高度90kmの人工星、そして16万光年先のタランチュラ星雲まで、壮大な距離に隔てられた世界を科学が美しく結ぶ様子を捉えた作品となりました。
冒頭の画像はESOから2026年4月20日付で公開されています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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