「月夜行路」異色のロードミステリーの「心地よいフィクションの型」「“人情ミステリー”の余韻」【第1話レビュー】

次回4月22日(水)よる10時 第3話を放送 日本テレビ系水曜ドラマ「月夜行路 ―答えは名作の中に―」(毎週水曜よる10時放送)。
数々の名作ドラマレビュー記事を手掛ける「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平氏は、4月8日(水)放送の初回をどう見たか?第1話の場面写真とともに紹介する。
(※以下、第1話のネタバレを含みます)
<難しい現代テレビドラマへの“解”を提示する、異色のロードミステリーが誕生>
波瑠と麻生久美子がW主演を務める新ドラマ『月夜行路 ―答えは名作の中に―』が8日にスタートした。
本作は、文学オタクで洞察力に優れたバーのママ(波瑠)と、家族から蔑ろにされ寂しさを抱える専業主婦(麻生久美子)が出会ったことから始まるロードミステリー。謎解きのミステリーに一風変わった凸凹バディ、さらには文学の引用や、友情と大人の青春、果てはロードムービー的な要素まで加わるという、いわば“要素過多”な一作だが、視聴後は不思議とそれらがきれいに収束し、むしろ爽やかな余韻すら残す快作であった。
とかく最近のテレビドラマは難しい。年々エンターテインメントと現実の境界が曖昧になり、視聴者の目も厳しくなっているからだ。創作とはわかっていても、トリッキーな設定やキャラクターに頼り過ぎれば“現実味がない”と捉えられてしまうし、一方でリアル過ぎれば、物語の飛躍がなくなり、娯楽としての魅力が薄れてしまう…。そのバランスは、極めて繊細になっているのだ。
特に“殺人事件”を扱う作品においてはなおさらだろう。刑事ドラマという確立されたフォーマットがあるとはいえ、そこから外れた途端、なぜ人の死をエンターテインメントとして描くのか?という問いが顔を出してしまう。リアルの世界が困窮し、逼迫している今だからこそ、そうした違和感に敏感になってしまうのかもしれない。
では、本作はどうだっただろうか。結論から言えば、そんな(どこか野暮にも思える)問いに対して一つの“解”を提示する作品だった。




<観る側を軽やかに引き込む、心地よいフィクションの型>
『月夜行路』という古典的なタイトルからは想像もつかない、外国車が駆け抜ける意外なほどスタイリッシュなオープニングにはじまり、家庭内で静かに疎外感を募らせる涼子の描写は過度な生々しさを排し、カジュアルな温度感にとどめていた。そのうえで、文学マニアのバーのママ・ルナと“偶然”出会い、“突然”旅に出て、“たまたま”心中とおぼしき遺体に遭遇し、やがて事件を解き明かしていく――。
こうして並べると、あまりにもスタイルがバラバラで、思いがけない展開が続き、そんなことある?と身構えてしまいそうなあらすじだ。けれど本作は、“そんなことある?”を無理に現実へ引き寄せようとはしなかった。むしろ早々に“これはこういう物語”と観る側に宣言し、その様式の中へと軽やかに引き込んでいった。
この感触は、かつての定番サスペンス枠「火曜サスペンス劇場」などにあった思わず身を委ねてしまうような安心感や、作中にも言及された『犬神家の一族』をはじめとする横溝正史ミステリーと同じ、独特の世界観への誘い方だ。現実では起こり得ないかもしれないが、フィクションとしての“型”に身を委ねることで、むしろ心地よく楽しめる。そんな古き良き娯楽性が、本作には確かにあったのだ。




<二人の主演と脚本が織り成す“人情ミステリー”の余韻>
そして、そんな世界観を成立させてしまった最大の要因は、やはり主演二人の魅力だろう。トリッキーかつミステリアスでありながらもどこまでもチャーミングで、視聴者を惹きつけて離さないルナというキャラクターを魅力的に体現した波瑠。そして、結婚し子どもが大きく成長した今でも過去の恋を引きずっている…にも関わらず、その感情を過度に湿らせることはなく、独特の距離感を演出した麻生久美子。二人の存在が、物語の“非現実”を違和感ではなく“味わい”へと変換したのだ。
また脚本のバランス感覚も見事だった。多くの要素を抱えながらも、それらを過不足なく整理し、一本の“人情ミステリー”という筋道を提示した。とりわけ印象的だったのは、トランスジェンダー女性であるルナの描き方だ。その属性を殊更に強調することなく、ごく自然なものとして物語に溶け込ませた。そのさりげなさが、本作全体のトーンと調和しながら、多層的な要素を一つにまとめ上げている。思えば今作と同枠のヒット作『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』(2016年)にて登場した同性愛カップルも、“当たり前の日常”として溶け込ませていた。このドラマ枠にはその土壌がすでに出来上がっていたのだろう。
さらに、ラストの“キャンディー”と“バースデーケーキ”の使い方も実に巧みだった。単なる謎解きだけで終わらせることなく、その奥にある人の感情や関係性にそっと光を当てることで、物語にやさしいぬくもりを与えてくれた。この“人情”の描写こそが、どれほど“そんなことある?”な設定であっても本作を成立させた最大の要因だろう。そしてこの“人情”の描き方は、同枠同脚本家の清水友佳子氏『リバーサルオーケストラ』(2023年)で見せた、シンプルなサクセスストーリーの中に染み入るような温もりを彷彿とさせるものでもあった。その作風が、本作にも確かに息づいている。
また、縦軸として提示された涼子の抱える“過去の恋”も興味深い。専業主婦の追憶という本来であれば生々しさがつきまとう題材でありながら、どこか軽やかで瑞々しく描写されており、だからこそ全話を通して見守りたくなる魅力を備えている。
こんなことある?とは思いつつも、どこまでも“人情”で包み込んでくれる。荒唐無稽とリアルのあわいを軽やかに行き来しながら、物語としての楽しさと人の感情の確かさを両立させた第1話。今後の展開にも大いに期待が高まる、好発進と言えるだろう。


<番組情報>
原作:秋吉理香子『月夜行路』(講談社)
脚本:清水友佳子
音楽:Face 2 fAKE
チーフプロデューサー:道坂忠久
プロデューサー:水嶋陽、小田玲奈、松山雅則
トランスジェンダー表現監修:西原さつき、若林佑真、白川大介
演出:丸谷俊平、明石広人
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
番組公式SNS、ホームページ
・X:@getsuyakouro
・Instagram:@getsuyakouro
・TikTok:@getsuyakouro
・ホームページ:https://www.ntv.co.jp/getsuyakouro/
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<原作情報>
『月夜行路』
四十五歳の誕生日、孤独な主婦の沢辻涼子は家を出た。偶然出会った美しいバーのママ・野宮ルナは、深い文学知識と洞察力を活かした推理で、かつての恋人への涼子の思いを言い当てる。最愛の彼はなぜ涼子のもとを去ったのか?二人が始めた元彼探しの旅先で、明らかになる秘密とは。涙のサプライズエンディング!
4月15日発売 講談社文庫
『月夜行路 Returns』
元彼探しの旅から戻った涼子が再びルナを訪ねたとき、店に届いた古いノートパソコン。誰が、何のために送ってきたのか。涼子は、パソコンを開くパスワード探しを手伝うことに。行く先々で事件に巻き込まれながら、パスワードを試していく二人。願いを込めた仕掛けに挑めるチャンスは、5回。鍵を握るのは、1冊の本。
4月22日発売予定 講談社
【秋吉理香子 プロフィール】
兵庫県出身。早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学大学院にて映画・TV番組制作修士号取得。2008年、第3回Yahoo! JAPAN文学賞を受賞し、2009年に『雪の花』でデビュー。主な著作に『月夜行路』『悪女たちのレシピ』『終活中毒』『無人島ロワイヤル』『暗黒女子』などがある。
