日本の刑事裁判は「なんちゃって当事者主義」…刑事裁判の主体であるはずの被告人が、法廷で「客体」として扱われる無力感

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約1分の勾留質問で164日間勾留、検事の作文で作られる供述調書、証拠改竄や捏造……。

おどろきの刑事司法 “犯罪者”の作り方』(村木厚子 著)では、冤罪に巻き込まれた著者がみた驚愕の刑事司法の実態が明かされています。

本記事では、〈有罪率99.9%の日本で無罪を勝ち取るための「6つの条件」…日本の刑事司法が「絶望的」と言われる納得の理由〉に引き続き、日本の刑事裁判の「なんちゃって当事者主義」について詳しくみていきます。

(※本記事は村木厚子『おどろきの刑事司法』より抜粋・編集したものです)

「当事者主義」はどこへ

2010年1月27日の初公判当日、生まれて初めて法廷に足を踏み入れた私は、裁判官のいる法壇がひときわ高く感じられ、自分が擂り鉢の底に立っているような気持ちになりました。

正面中央奥の法壇には、横田裁判長を中心に3名の裁判官が並んで座り、法壇より一段低いところに検察官と弁護人が左右に向かい合って座っています。

裁判官も検察官も弁護人も、客観的証拠と「被告人はこう言っている」という事実しか知りません。「村木厚子は無実だ」という真実を知っているのは、私一人だけです。

けれど、裁判のなかでは、真実を知っている私がいちばん弱い立場にいて、自分で自分の運命をコントロールできない。真実を知っている被告人の運命を、真実を知らない人たちが決める仕組みが裁判であり、その理不尽さを象徴するのが、擂り鉢の底に置かれた感覚なのかもしれません。

仕事でよく行っていた国会の委員会室では、皆が同じフロアに立ち、向き合っていました。裁判官や検察官とも普通に向き合えれば、「同じ立場で自分の意見を言える」と思うこともできるでしょうが、擂り鉢の底にいると、自分が主体ではなく客体になっている感覚、自分で主体的に何かができるわけではないという無力感に、強くとらわれます。その心理的影響は、かなり大きなものです。

日本の刑事裁判は、基本的には「当事者主義」を原則としています。当事者主義とは、どの証拠を法廷に出すか、何を主張し、どう立証するかといった公判運営の主導権を、当事者である検察官(国家)と被告人に委ねる仕組みを意味します。つまり、被告人は刑事裁判における一方の主体です。これに対して、本来、裁判官は提出された証拠を評価し、結論を下すという“審判者”の役割に徹することが予定されています。

ただし、日本の刑事裁判は純粋な当事者主義ではありません。これを補う形で「職権主義」が併存しています。職権主義とは、裁判官が自らの権限で公判の手続を進め、必要とみれば当事者が申し立てていない証拠を取り調べるなど、主導的役割を果たすことを認める原則です。したがって、日本の刑事裁判は、制度上は当事者主義を基盤にしつつ、必要に応じて裁判官が職権を発動し、真相解明に関わることができる“折衷的な構造”になっていると言えます。

残念ながら、日本の刑事裁判は、形ばかりの「なんちゃって当事者主義」になっているように思えます。それは、被告人席の位置についても表れているのではないでしょうか。

当時、少なくとも東京で行われる一般的な刑事裁判では、弁護人席の前に長椅子があり、被告人をそこに座らせていましたが、なぜか大阪では裁判官の正面に座らせていました。まさに時代劇に出てくる「お白州での吟味」のようです。その根底には、被告人を客体とみなす意識、つまり、当事者主義の考え方に反する意識があったように思えます。

刑事裁判の一方の主体は被告人なのに、その被告人を、援助者である弁護人と切り離して裁判官の正面に座らせれば、弁護人から時宜を得た助言を受けることができず、一方の主体である検察官と対等に闘えません。裁判のあいだじゅう、被告人にひどく心細い思いをさせることにもなります。

こうした状況が問題視されていたことと、「郵便不正事件」が社会的に注目されていたこと、なおかつ裁判長が進歩的な人だったこともあり、弁護団が要求したところ、私はすんなり弁護人の隣に座ることができました。その意味で私は幸運でしたが、「被告人を弁護人のそばには座らせない」という意識の裁判官は、当時、少なくなかったそうです。

その後、裁判員裁判では、裁判員に予断を生じさせないために、被告人は弁護人席の隣に座れるようになりました。近年では裁判員裁判以外でも、弁護人席の隣、もしくは弁護人席の前に置かれた長椅子に座れるようになっています。

しかし後者の場合、長椅子だけで机のない法廷も多く、被告人の姿は傍聴席から丸見えですし、裁判のなかで気付いたことなどをメモするにも不便です。被告人の人権擁護や当事者主義の原則からすれば、これはおかしなことだと思います。

さらに〈誠実な公務員だったのに突然の逮捕…村木厚子氏が驚き、怒り、絶望した日本刑事司法の「暗部」〉では、村木氏が逮捕された経緯を詳しくみていきます。

●特に言及のない限り、登場人物の所属・肩書、法律や制度の名称・内容は、すべて当時のものである

【つづきを読む】誠実な公務員だったのに突然の逮捕…村木厚子氏が驚き、怒り、絶望した日本刑事司法の「暗部」