「天皇陛下のお車を中心に…」 皇宮警察「白バイ隊員」が“国家公務員のMVP”に選出! 側衛白バイの「レジェンド」が語った理想の警備スタイル
天皇・皇族を守る警察庁皇宮警察本部で、白バイのスペシャリストとして長年活躍した赤坂護衛署(一般の警察署)の藤本龍昌さんが、「国家公務員のMVP」と呼ばれる昨年の人事院総裁賞に選ばれ、天皇陛下が2月26日に御所へ招いて功績をねぎらわれた。白バイ隊員は全国の警察本部で刑事とならぶ花形。箱根駅伝で先導を務める神奈川県警や、出雲駅伝の島根県警、秩父宮賜杯全日本大学駅伝の愛知県警などでは例年、志願者が多数に上る。そんな中でも皇族の身辺を警備する皇宮警察護衛部の皇宮護衛官は、パレードに花を添える漆黒のサイドカー(側車付きオートバイ)も操る“花形の中の花形”と言えそうだ。
刑事とならぶ花形
白バイと聞くと、スピード違反や一時停止違反などの取り締まりで、ドライバーにはあまり良い印象がないかもしれない。とはいえ、その姿としてまず思い浮かべるのは、正月に地上波テレビで生中継される箱根駅伝の先導だろう。

先頭集団や第2集団、第3集団の前を走る姿が、テレビ中継で映し出される。中でも、トップ走者を先導する白バイに憧れる警察官志願者は後を絶たない。箱根路を走る白バイ隊のメンバーに選ばれるのは、狭き門をくぐり抜けたエリート警察官だ。2002年1月2日、東京都大田区と神奈川県川崎市の境に架かる六郷橋に迫った箱根駅伝1区で先輩からのバトンを受け取り、先頭走者と中継車の間に入って先導を開始したのは当時、神奈川県警第1交通機動隊の隊員だった秋山朝子さんだった。箱根駅伝史上、初の女性白バイ隊員のデビューシーンだ。
今では珍しくなくなった女性白バイ隊員だが、当時はまだ箱根駅伝の白バイ先導は「男性隊員の聖域というのが暗黙の了解だった」(県警OB)。だが現在、県警第1交通機動隊には「ホワイトエンジェルス」と呼ばれる女性白バイ部隊がある。
2013年の箱根駅伝で輝きを放ったのは、ホワイトエンジェルスに所属していた倉岡実芳子さんだ。メンバーはわずか5人という、この精鋭部隊を率いるリーダーを任されていた。青森県警の警察官だった父の背中を見て育ち、幼少期から将来の目標を警察官に定めていたという。青森県警ではなく神奈川県警を志願した理由こそが「箱根駅伝を白バイで先導したかったから」だった。
重さ300キロの“相棒”を操り、交通安全を守るため奮闘するメンバーに選ばれるためには体力はもちろん、性格や運転技能に適性があると判断されなければならず、チャンスは一度きり。不断の努力が認められ、選手の先導を任されたという。
こうしたサクセスストーリーは、出雲大社前をスタートする出雲駅伝や、名古屋の熱田神宮から三重の伊勢神宮までを駆け抜ける全日本大学駅伝でも同様に、いくつもある。警察庁関係者はこう指摘する。
「刑事の活躍はドラマや映画で描かれたフィクションの姿が憧れの対象となっているのに対し、白バイは生中継で目の当たりにするノンフィクションの実像に羨望の眼差しが向けられるという違いがある」
皇宮警察のレジェンド
年間で若干名しか選ばれない人事院総裁賞を、個人として皇宮護衛官が受賞したのは今回が初めてのことだ。受賞した藤本さんは、長年にわたって“側衛白バイ”やサイドカーに乗車。皇室の安全確保や、国家行事の円滑な運営に貢献したことが高く評価された。皇宮護衛官として40年間勤務し、20年以上を白バイとサイドカーの乗務員として、皇室行事の護衛業務に尽力してきた。皇警関係者は「まさにレジェンドと言っていいと思います」と話す。
特に高度な技術とバランス感覚を必要とする側車を操っての護衛では、突出した実績を持つ。また後進の育成や技術の伝承にも力を注いできた。藤本さんは受賞に伴い、追い求めてきた理想の警備のスタイルを「一枚の絵」にたとえ、「天皇陛下のお車を中心に、側車6台が一体化する時」と述べている。
一方で皇警の白バイ隊では過去、不祥事スレスレの事故も起きている。
2003年7月、北海道富良野市の国道38号で、地方視察に訪れられていた在位中の上皇上皇后両陛下のお車に、後方から対向車線を猛スピードで走ってきた軽自動車が急接近した。皇警の白バイ隊が両車の間に割り込み激突を塞いだが、容疑車両と接触した弾みで白バイが両陛下のお車に衝突。お車が壊れる事故が起きたのだ。
最終的には直接の衝突を阻止できたことから、皇宮警察と北海道警に対する処分は見送られたが、車列妨害で実被害が出たケースは初だったため、警察庁内部では処分を求める声もあった。車列の後方から接近してくる不審車両に無防備であった点について、当時の佐藤英彦警察庁長官が定例記者会見で「今後に向けた改善点」と反省の弁を述べている。
警察用語では重要人物(要人)への警備を通常の「警備」ではなく、「警衛」や「警護」と呼ぶ。警護は大臣など政府の要人や、来日した外国の要人の身辺を警備すること。これに対して警衛は皇室の警備を意味する。警衛を専門とするのが警察庁の外局に位置付けられる皇宮警察本部だ。また、全国47都道府県にある警察本部には、皇宮警察とタッグを組む警衛担当が配置されている。
ちなみに東京は東京都警察本部ではなく、明治時代に命名された警視庁の名称が使われていることはよく知られる通りだ。管内に皇居があり、皇室のお膝元を守る警視庁には警衛を担当する警衛課と、警護を担当する警護課がそれぞれあるが、多くの道府県警では警衛警護課や警衛警護室など、要人警備は兼務の部署が置かれている。
福岡県警に新部隊
また、2022年に安倍晋三元首相が銃殺されたテロ事件を受けて、担当者はいても課や室はなかった警察本部でも体制強化にともなう新部署の設置が相次いでいる。
秋篠宮家の長男・悠仁さまが、2025年4月に茨城県つくば市の筑波大に入学されたことを受け、警察庁は茨城県警の警衛部門を強化。ご入学直前の県警人事で、警備部長に異例となる警察庁警備局から出向したキャリア官僚を起用している。皇位継承権のある男性皇族が学習院以外の大学に通う初のケースであることを踏まえ、前任のノンキャリアを水戸署長にスライドさせ、同県警としては1998年以来、27年ぶりの警察キャリアの警備部長誕生となった。
茨城県警は、全国白バイ安全運転競技大会の団体「男性の部」で、第1、第2の2ランクのうち、技術力上位の第1部に入る。団体第1部は茨城県警に加え、警視庁と埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪、兵庫、福岡各県警の9都府県警察で構成。皇宮警察関係者も「悠仁さまの警衛では、白バイが必要となる場面で常に、高いレベルで協力関係が構築できる」と自信をのぞかせる。
福岡県警では2024年2月、交通機動隊に「警衛・警護対策要員」を新設。交通機動隊員およそ100人の中から24人が選抜され、天皇皇后両陛下の“行幸啓”や、皇族方の“お成り”の際などに、急な要請でも白バイで身辺の警衛業務に当たれる体制を整備している。
日本自動車工業会によると、オートバイ(バイク)の販売台数は1980年の236万台から2020年は約37万台と、40年間で激減。若者のバイク離れも指摘されて久しい。側衛白バイの皇室儀式での華やかな活躍は、果たしてバイク人気の復活につながるのだろうか。
朝霞保人(あさか・やすひと)
皇室ジャーナリスト。主に紙媒体でロイヤルファミリーの記事などを執筆する。
デイリー新潮編集部
