再審見直しの法制審、候補者指定の理由は「記録なし」 検察主導の“ブラックボックス人選”浮き彫りに
刑事裁判をやり直す「再審」制度の見直しをめぐり、法務大臣の諮問機関である「法制審議会」の委員らについて、検察官である法務省刑事局長が事実上選定していた問題。
候補者が選ばれた理由や経緯がわかる文書の有無を取材したところ、法務省は「そうした文書はない」と回答した。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●賛成派の学者全員が「刑事局長リスト」に
弁護士ドットコムニュースは4月6日配信の記事で、法務省への開示請求で入手した文書をもとに、検察官である法務省刑事局長が候補としてリストアップした有識者が、そのまま法制審議会・刑事法(再審関係)部会の委員や幹事に任命されていたことを報じた。
さらに、採決に加わった委員のうち、法制審の見直し案に賛成した学者5人全員が、この「刑事局長リスト」に含まれていたことも判明している。
今回の再審制度の見直しは、死刑囚だった袴田巌さんらが裁判のやり直しで無罪を獲得するまでに長い時間を要したことや、検察側による証拠隠しが明らかになったことなどを背景に進められてきた。
こうした中、超党派の議員連盟が先に再審法の改正案をまとめた。これを受けて、法務大臣の諮問を受けた法制審は、急ピッチで議論を進め、わずか1年足らずで見直し案を取りまとめた。
その後、冤罪被害者らから「改悪だ」との批判が相次ぐ中、法制審の部会は賛成多数でこの見直し案を通した。
●選定理由や経緯の文書は「ない」
では、冤罪被害者を救うための制度改正を議論するメンバーは、どのような基準で選ばれたのか。
弁護士ドットコムニュースは2025年12月、次の内容で法務省に行政文書の開示請求をおこなった。
「現在の法制審議会の刑事法(再審関係)部会の委員、幹事、関係官、部会に関わる事務方の職員(以上、「部会の関係者」という)について、その選定の過程で作成された文書と、選定の理由や経緯、基準がわかる文書、候補者となった人のリストや経歴、選定にあたって部会の関係者と法務省側との間でやりとりされた内容がわかる記録の全て(電磁的記録を含む)」
しかし、2026年3月に開示された文書には、選定理由を示す資料は含まれていなかった。
そこで改めて、刑事局長が候補者として指定した人物が選ばれた理由や基準を記した文書や記録の存在について電話で問い合わせたところ、法務省は「開示した文書以外の文書はありません」と回答した。
●制度設計を議論する法制審、人選は「ブラックボックス」
文書の保管期限を過ぎた可能性についても尋ねたが、法務省は「そもそもが(そういった文書を作成して)ない」と説明した。
刑事局長が司法法制部長に依頼した文書には、「候補者本人の内諾を得ていることを申し添えます」との記載があったが、その内諾を裏付けるやり取りも残されていないことになる。
結果として、冤罪を作り出してきた側である検察組織の幹部だった刑事局長が、冤罪防止の制度設計を担うメンバーの選定に関与しながら、どのような理由で選定されたのか外部から検証できない、いわばブラックボックスの状態にある。
●参考にされる「整理合理化に関する基本的計画」
そもそも法制審の委員選定にルールはないのか。
法務省・司法法制部によると、法制審の刑事法部会の委員や幹事は、まず刑事局長が候補者をピックアップし、司法法制部長がその候補者の各所属先の組織に打診する。承諾を得たうえで法務大臣が任命する流れだという。
その際に参考とされるのが、「法制審議会令」と「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」だという。
●法が定める法制審の委員らの「選び方」
法制審議会令は、法制審の委員や臨時委員について「学識経験のある者のうちから、法務大臣が任命する」と定めている。
一方、基本的計画は、中央省庁の改革を進めるため、政府が1999年4月に閣議決定したもので、法制審を含めた広い意味での審議会などが対象とされている。
その中で、選定の基準のようなものがいくつか示されている。
<委員等については、行政への民意の反映等の観点から、原則として民間有識者から選ぶものとする。国会議員、国務大臣、国の行政機関職員、地方公共団体又は地方議会の代表等は、当該審議会等の不可欠の構成要素である場合を除き委員等としないものとする。>
<委員の任命に当たっては、当該審議会等の設置の趣旨・目的に照らし、委員により代表される意見、学識、経験等が公正かつ均衡のとれた構成になるよう留意するものとする。審議事項に利害関係を有する者を委員に任命するときは、原則として、一方の利害を代表する委員の定数が総委員の定数の半ばを超えないものとする。>
●厳格な条件や基準は示されておらず
もっとも、これらの法令や計画には「どんな学識経験者を、どのような基準で選ぶべきか」という具体的なプロセスまでは明記されていない。
開示文書から読み取れる事実を踏まえると、たとえ実際に調整に当たるのが刑事局長よりも下の職員だと考えても、事実上は検察官である刑事局長が委員や幹事を選び、その選定にあたって厳格な条件や基準が課されているわけではないようだ。
熊本大学の岡本洋一准教授は、これまでの弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「なぜ再審制度を研究し、論文や著作を書いている人が選ばれないのか、『検察官(法務省)の言いなりにならないから』としか考えられません」と指摘した。
法制審に対しては、冤罪被害者や国会議員からも疑問や批判の声が上がっている。人選の過程が見えない「ブラックボックス」のままでは、その不信感を拭い去ることは難しいだろう。
