「もう無理!」と家を飛び出したら、もらえるはずのお金が消えた――熟年離婚「準備不足」の代償【解説:夫婦問題カウンセラー 岡野あつこ】
夫婦問題カウンセラーとして35年以上・約4万件の相談実績を持つ岡野あつこ氏が、熟年離婚を考える女性に向けて書いた一冊、『その熟年離婚、妻は絶対「損」します!』。今回はその中から、感情的に動いたことで思わぬ「損」を招いてしまった妻たちのリアルと、もし万が一のときのために知っておきたい「夫婦のお金の話」をご紹介します。

(本記事は『その熟年離婚、妻は絶対「損」します!』から一部を抜粋・編集して掲載しています)


F子さん(58歳)の話を聞いた時、思わず「あ〜〜やってしまった」と声が出そうになりました。

定年退職してから毎日家でゴロゴロ、「飯」「お茶」しか言わない夫についに限界が来たF子さん。ある夜の些細な口論をきっかけに「もう顔も見たくない!」とバッグ一つで実家へ飛んで帰ったのです。「せいせいした」と思ったのも束の間、2週間後に冷静になって弁護士相談しに行ったF子さんは、そこで想定外の言葉を聞くことになります。

「婚姻費用(別居中の生活費)は、請求した月からしか遡れないんですよ」

婚姻費用とは、別居中であっても夫が妻に払い続けなければならない生活費のことで、法律で義務付けられています。夫の年収によっては月8〜10万円になることも。つまりF子さん、家を飛び出したその日から請求していれば、2週間どころか以降ずっと毎月もらえていたお金が、「知らなかった」だけで消えていたわけです。

さらに弁護士にこう続けられました。「先に家を出たのがF子さんという状況ですので、今後の交渉で夫側の弁護士に『家を出たのはあなたからでしょう』と言われる可能性があります」。

怒りに任せて飛び出した一日が、その後の交渉を大きく不利にしてしまう――。F子さんはまさか自分がそんな落とし穴にはまるとは、夢にも思っていませんでした。

「でも私、今すぐ離婚するつもりじゃないし、関係ない話でしょ」と思ったあなた。実はそれが一番危ないのです。

感情のまま家を出ると、法的に「不利な立場」になることがある

今すぐ離婚を考えていなくても、夫婦のあいだで「もういい加減にして!」という瞬間は誰にでも訪れます。そしてそういう瞬間に、感情のまま動いてしまうと、後から「しまった」では取り返せないことがあるのです。

婚姻費用は、請求した月からしか遡れません。これは、離婚を決意している人だけでなく、「別居はしたけど離婚は考えていない」という人にも同じように適用されるルールです。別居したその日に申請するかどうかで、受け取れるお金がまるで変わってくることを、まず頭の片隅に入れておいてください。

また、「家を出たのはあなたから」という事実は、その後どんな話し合いになるにせよ、妻側に不利に働きがちです。怒りに任せて先手を打ってしまうより、落ち着いて動いた方が、長い目で見てはるかに有利になります。離婚を考えているいないに関わらず、「売り言葉に買い言葉で飛び出す」だけは、やってはいけないのです。

勢いで離婚は「丸腰で冬山に登る」ようなもの

少し先の話として聞いてください。もし将来、「やっぱり別れようかな」という気持ちが固まったとしても、その時に勢いで動くのは「丸腰で冬山に登るようなもの」だと私は言い続けています。

財産の記録も、専門家のサポートも、別居のタイミング計算も、何も持たずに動いてしまえば、待っているのは自由ではなく「もらえるはずだったお金が消えた老後」です。

だからこそ大切なのが、「完全なるポーカーフェイス」という考え方です。「いざとなれば動ける」という知識と準備を静かに持ちながら、夫には決してそれを悟らせない。腹の中に「いざとなればいつでも出ていける」という余裕が生まれるだけで、日々の夫婦関係のストレスも、不思議と少し和らいでくるものです。「準備している自分」が、あなたの心の支えになるのです。

万が一のために知っておきたい3つのこと

「すぐに動くつもりはないけれど、いざという時のために」という温度感で、ぜひ知っておいてほしいことが3つあります。

【知識1】夫の財産は「別居した時点」の残高が基準になる

財産分与の対象となるのは、原則として「別居した時点」での夫婦の共有財産です。別居後に夫が財産を動かしてしまっては、後からの証明はほぼ不可能。だから、何かあった時のために、同居中から給与明細・通帳・保険証書などの「記録」を自分でも把握しておくことが、将来の自分を守る第一歩になります。

【知識2】婚姻費用のタイミングは「その日」が命

繰り返しになりますが、別居後の生活費は遡れません。「とりあえず実家に帰って、後でゆっくり考えよう」では、気づかないうちに損をしていることがあります。感情的な瞬間に飛び出したとしても、翌朝には専門家に連絡する――そのくらいのスピード感が必要です。

【知識3】弁護士は「離婚を決意してから」選ぶ――でも「誰でもいい」は危険

もし本当に動くことになった時、弁護士選びで勝負の9割が決まります。私が大切だと思う選び方の基準を5つにまとめるとこうなります。

1: 離婚問題の「エキスパート」であるか弁護士にも得意・不得意があります。離婚実績が豊富な専門家を選んでください。

2: いきなり裁判ではなく「交渉」から始めてくれるか。最初から対立を深める方向に進める先生には注意が必要です。

3: 威圧的でなく、あなたの痛みに「親身」になってくれるか。法律の話だけでなく、あなたの不安に寄り添える相性が大切です。

4: 「絶対勝てる」ではなく「リスク」も正直に話してくれるか。最悪のシナリオまで教えてくれる先生が、本物のプロです。

5: 探偵やカウンセラーなど、他業種の「チーム」を持っているか弁護士一人では解決できない場面は必ず来ます。

「今すぐ使う知識」じゃなくても、知っているのと知らないのでは大違い。夫への不満が大きかろうと小さかろうと、「自分の人生のお金のこと」は、自分が一番よく分かっていなければならないのです。

他にも本連載の原案書籍『その熟年離婚、妻は絶対「損」します!』では

・「年金分割で半分もらえる」という甘い罠
・妻が節約して貯めた「へそくり」も夫に半分取られる理不尽
・賢い妻は「籍」を抜かない!遺族年金と住まいを確保する「損得勘定」
・コスパ最強!賢い妻が使いこなす「魔法の五文字」とは?
・夫が得する・妻は損する「絶対に言ってはいけない」NGワード

など、熟年離婚を考えているすべての女性に感情より先に読んでほしい内容が詰まっています。


著者情報


岡野あつこ(おかの あつこ)


立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院修士課程(社会デザイン学)修了。夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー・公認心理師。35年以上にわたり約4万件の夫婦・離婚・男女関係の相談に向き合ってきた。「結婚・再婚のアツコブライダル」「離婚相談救急隊」主宰。YouTube「岡野あつこチャンネル」登録者7万人以上。岡野あつこのオンラインコミュニティ「卒婚塾」主宰。一般社団法人離婚相談連盟 理事。目白大学短期大学部 非常勤講師。

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