「シニア向けスマホはダメ」 家電マニア・勝間和代が教える、高齢者が取り入れるべきデジタル技術、家電とは
AI、AIと世間は喧(やかま)しいけど私には関係ない、なんて思ってないだろうか。実はAIをはじめとする昨今の技術革新は、シニア世代にこそ大きな恩恵をもたらすものなのだ。家電マニアでデジタル技術に詳しい勝間和代氏(57)が簡単で安全で快適な導入術を伝授する。
***
【写真を見る】勝間和代が「シニアにこそ」と薦めるデジタルデバイス
〈「今のままで困っていない」「新しいことを覚えるのが面倒だ」。頻繁に最新機種が発売されるスマートフォンや最新家電、ちまたを騒がすAIに興味が持てないシニアも多い。経済評論家の勝間和代氏は、自ら2000以上の家電やデジタルツール、サービスを試したエキスパート。その活用法を著した『仕事と人生を変える勝間家電』(ダイヤモンド社刊)が好評を博している。勝間氏は、シニア世代の「デジタル化」こそが老後の孤独を回避し、家族との絆を結び直す「人生100年の計」の要だと説く。〉

シニア世代がデジタル化に踏み出せない理由は、実は「やらなくても困らないから」なんです。今の生活環境がある程度恵まれているからこそ、現状維持でいいと思ってしまう。子どもは好奇心が旺盛だから、新しいおもちゃを与えられればすぐに使いこなします。しかし、大人は「分からない」という壁にぶつかると、そこで思考を止めてしまうんですね。これまでは、人間が機械のルールに合わせて操作を覚える必要がありましたが、今のスマホやタブレットは、「操作を覚える必要がほとんどない」というところまで進化しています。スマホやタブレットは、人間が何か特殊なことを学習して使いこなす“機械”ではなく、話しかけるだけで言うことを聞いてくれる“執事”のような存在に変わりつつあるのです。
スマホに話しかけるだけ
〈勝間氏が提案するデジタル活用術の入り口となるのが、すでに家族との連絡に使用している人も多いであろうスマートフォンだ。携帯ショップの窓口に行けば、文字が大きく、機能が制限された「シニア向けスマホ」を薦められることが多い。だが、勝間氏はこれに強く警鐘を鳴らす。〉
機能を限定し、選択肢を減らすことで操作を簡単にするという意図は分かりますが、「シニア向けスマホ」を選ぶメリットはありません。あなたが選ぶべきなのは、娘さんや息子さん、あるいはお孫さんと同じ機種。私のイチオシは、iPhoneより安価で性能の良いAndroidですが、ご家族がiPhoneをお持ちならiPhoneでそろえるといいでしょう。理由は単純明快で、「操作が分からない時に教えてもらえるから」です。シニア向け機種は独特の操作体系であることが多く、スマホに慣れている家族であっても教えられません。同じ機種なら、教える側もストレスがありません。もし設定につまずいても、詳しい家族に丸投げしてしまえばいいのです。私の姉はもうすぐ70歳になりますが、困った時には息子がすぐに教えてくれるので、問題なく使いこなしています。
〈それでもスマホの操作に不安があるという人には、話題のAIの進化が大きな助けになる。ここ数年で大きく進化したのが、「音声入力」だ。フリック入力(画面上で指を滑らせる入力方法)などを覚える必要もなく、ただスマホに話しかけるだけで、操作できたり、音声を文字化してくれたりする。勝間氏は、音声入力の精度向上で仕事でもパソコンを開く頻度が大きく減ったという。〉
シニアほど使ってほしい生成AI
以前は、入力にタイムラグがあったり、うまく聞き取ってくれなかったりしましたが、最近の音声入力の精度の向上ぶりは目を見張るものがあります。家族にLINEを送るときでも、音声入力モードにしてスマホに話しかけるだけで、驚くべき精度で内容を文字にしてくれます。
さらにシニア世代にこそ使い倒してほしいのが、生成AIです。AIが何か分からなくても「ChatGPT」なら聞いたことがある人もいるでしょう。
私は、Google社のサービスを多用しているので、同社の「Gemini」を愛用していますが、スマホに向かって「〇〇について教えて」と話しかけるだけで、瞬時に答えが返ってきます。例えば、週末京都に旅行に行くとしましょう。「今の時期の京都の名所を巡るプランを教えて」と話しかければ、即座にお薦めのプランが提案されます。もう少し踏み込んで、スマホを“執事”として活用するなら、「足腰に負担をかけず、休憩多めで京都を回りたい」「人混みを避けて穴場をゆっくり巡りたい」などの要望に添ったスケジュールを組んでくれます。地図アプリと連携してルートを示してくれたり、時刻表に合わせた電車やバスの乗り換え案内などもお手の物です。
AIは最強のコーチ
趣味のゴルフのアドバイスが欲しければ、自分のスイングをスマホで動画に撮ってアップロードするだけです。「バックスイングで体が開いている」「インパクト時の重心が後ろに残っている」。世界中のコーチの知恵を統合したAIから、実際の映像の分析に基づいた助言が返ってきます。人間相手だと、何度も同じことを聞くと嫌がられたり、指摘を受けた側も感情的になったりしますが、AIは文句も言わず、何度でも、こちらの気が済むまで付き合ってくれます。絵を描くのが趣味なら絵のアドバイスをもらえますし、他にも楽器の弾き方、花の育て方……AIは最強の“自分専用コーチ”にもなります。
写真を趣味にされている方は、よりダイレクトにスマホとAIの恩恵を感じられるのではないでしょうか。これまでは、高性能のカメラほど重くて大きいというのが相場でしたが、最新のスマホ、特にGooglePixelやiPhoneのカメラ機能は、一昔前の一眼レフに迫る画質を誇り、もはや単なるカメラといえないほど多機能です。例えば、暗い場所での撮影でも、AIが手ぶれを補正してくれたり、明るさを自動調整してくれたりします。観光地で集合写真を撮る際、後ろに関係ない人が写り込んでしまっても、「消しゴムマジック」のような機能を使えば、一瞬で不要な通行人だけを消すことができます。構図も明るさも、全部AIが判断して「奇跡の一枚」に仕上げてくれる。思い出を写真に残したいという気持ちは、スマホを積極利用し、AIの効果を感じるきっかけになるはずです。
一昔前なら、パソコンがなければできなかったことがスマホさえあればできるようになっています。今から20万円のパソコンを買うくらいなら、そのお金で最高級のスマートフォンを買ってください。画面が小さくて見づらいというなら、ケーブル一本、あるいは無線で大画面のディスプレイにつなぐ方法もあります。私は仕事の調べものも、執筆活動ですらほぼスマホの音声入力で行っています。Geminiは私専用の優秀なリサーチャーであり、秘書であり、コーチであり、公私共になくてはならない存在になりました。
パソコン教室でマウスの「ダブルクリック」から習う時間とお金があるなら、スマホの使い方を孫に習う方が、よほど現代的で生産的でしょう。
スマートウォッチは“お守り”
〈デジタルの恩恵は「楽しみ」だけではない。人生100年時代における「健康」と「安全」を守るための投資としても、テクノロジーは必須だ。勝間氏が「全員着けるべき」と断言するのが、スマートウォッチだ。通常の時計機能に加えて、健康管理やキャッシュレス決済など、日常生活を便利にする機能が搭載されているという。〉
スマホ以外で特にシニアにお薦めしたいのが、スマートウォッチです。腕に着けているだけで、心拍数や歩数、消費カロリー、睡眠時間などを測定、記録してくれるスマートウォッチは、新時代の健康管理に必須の便利アイテムです。中には激しい転倒を検知すると、本人に確認を促し、一定時間反応がない場合は自動的に緊急通報する「転倒検出」機能が搭載されているものもあります。通報時には、位置情報が共有されるため、転倒後に意識を失った高齢者が実際に救急搬送され、早期治療につながった事例が国内外で報告されています。
自身の健康の変化をチェックするためなら5000円程度のエントリーモデルで十分です。医療機器ではありませんが、日常的なモニタリングにより「異変に気付くきっかけ」をつくる役割を果たします。スマートウォッチは、いわば命の“お守り”。血圧や、血糖値、心電図などの計測が可能な機器も登場していて、将来的には自分の健康状態を記録するカルテとして活用できる可能性もあります。
ジム代を払うよりも……
健康維持のための運動にも最新の機器を積極的に活用しています。雨の日にジムに行くのはおっくうだし、単純な筋トレは続かない。そんな面倒くさがり屋の私でも続いているのが、VR(仮想現実)ヘッドセットを使った運動です。
運動といっても、本格的なトレーニングではなく、ゴーグルのようなヘッドセットを着け、目の前に広がる仮想空間で遊ぶゲームをするだけです。以前、ひどい五十肩に悩まされたことがありましたが、私の場合、VRゲームで腕を振り回していたら、いつの間にか治ってしまいました。「運動のために数秒間腕を上げてそのままキープ」と言われるとつらいですが、ゲームで「目の前にいる敵にパンチして」と言われれば、痛みも忘れて腕が上がるものです。
必要なスペースは、畳2枚分ほど。自宅の寝室のちょっとしたスペースが、冒険の舞台やボクシングジム、ダンススタジオに早変わり。月額数千円のジム代を払うより、5万円程度で買えるVR機で運動をする方が、手軽に、しかもコスパ良く健康寿命を延ばせるのです。私が使用するMeta社(旧Facebook)の「Meta Quest(メタクエスト)」シリーズでは、スマホのアプリと連動して消費カロリーや運動時間が自動で記録されるので、モチベーション維持にも役立ちます。
VRに限らず、ゲームには副次的な効果もあります。クロスワードパズルや、数独(ナンバープレース)などのゲームをいわゆる“脳トレ”として楽しんでいる人も多いと思います。これもスマホのアプリであれば、次々と新しいものにチャレンジすることができます。無料の麻雀やパズルゲームなどもあり、夢中になって遊んでいるうちにスマホの操作を覚えるという思わぬ効果もあります。スマホを使いこなそうと指を動かし、新しい概念を理解しようと頭を使うことは、それ自体が知的好奇心を刺激し、脳の老化を防ぐことにつながります。
現金よりかえって安全
〈生活のライフラインである「買い物」や「お金」に関しても、思い込みを捨てるべき時が来ている。「ネット決済は詐欺が怖いから」という現金至上主義の人も依然として存在するが、現代において現金払いはむしろリスクしかなく、キャッシュレスのメリットは想像以上に大きいと勝間氏は指摘する。健康同様、安心・安全な生活も、もはやテクノロジーなしでは成立しない。〉
重いお米や飲料水をスーパーから運ぶのは、重労働ですし、年齢を重ねれば免許返納問題、転倒のリスクもあります。玄関先まで荷物を届けてくれるAmazonやネットスーパーは、まさにシニアのためのサービスともいえるのです。現在では、生鮮食品をその日のうちに届けてくれるサービスもありますし、必要な物を必要なときに必要なだけ購入することができます。
ネット通販で物を買うのに抵抗がある人は、「ネットでクレジットカードを使うのは怖い」と言います。同様に、目に見えないキャッシュレス決済を警戒し、現金を頼る人もいまだに多くいます。しかし、実態はまったく逆です。
現金で物を買った場合、それを証明するのはレシートだけです。仮にスーパーで買った野菜が傷んでいたときは、レシートを持って店まで行き、現物を見せて交渉しなければ返金されません。しかし、キャッシュレス決済なら、購入の履歴が詳細にデータとして残されているため、店頭に出向くことなく、返金や返品処理を行えるのです。Amazonや楽天市場などの大手通販なら、アプリ上で「商品に不具合があった」と報告するだけで、即座に返金処理がなされたり、自宅まで集荷に来てくれたりします。私も先日、購入したノートパソコン用の台がグラグラしていたので、すぐに返品手続きをしました。事情や理由を説明したり、嫌な思いをして交渉する必要がないのです。クレジットカードを利用する場合は、不正利用時の補償もあるため、使ったらおしまいの現金よりかえって安全なのです。
特殊詐欺などの被害も増えていますが、何かトラブルがあった時には、記録が残らない現金より、履歴が残るデジタルの決済手段の方が安全というわけです。
特殊詐欺被害を防ぐために
現金かキャッシュレスか以前に、特殊詐欺被害に遭わないために気を付けたいのは、固定電話。悪いことは言いませんから、固定電話は解約するか、残すなら常に留守番電話設定にして、知らない番号には絶対に出ないことです。昔は家の固定電話が連絡の要で、固定電話の番号を持つことがある種の信用のような側面もありましたが、今は家族間の連絡はLINEなどのメッセージアプリや無料通話が主流です。親しい人なら個人の番号にかけてきます。固定電話にかかってくるのは、セールスか詐欺!くらいの気持ちでいた方がいいでしょう。留守電にしておけば、必要な連絡であれば用件だけ知ることも、後から折り返すこともできます。特殊詐欺の被害者はだいたい「まさか自分が」と言いますが、固定電話に出ないことでそもそものリスクを回避することになるのです。
安全・安心でいえば、自宅のセキュリティーには「スマートロック」が有効です。安いものなら6000円程度で購入でき、既存の鍵の上から被せるように取り付けるタイプなら工事不要、ご自身でも簡単に装着できます。スマホをかざせば解錠、施錠が行えるのが基本で、顔認証機能が付いた上位機種も登場しています。これを使えば、鍵の開閉が常に監視できるため、「鍵を閉め忘れたかも」という外出先での不安から解放されます。合鍵を作るのにも、別途費用がかからず、一定時間鍵が開きっぱなしなら自動で施錠する設定も可能です。従来の物理的な鍵で解錠もできるので、スマホを落として家に入れないなんてこともありません。遠隔で履歴を確認することもできるので離れて暮らす家族の見守りにも有効です。セキュリティー面の不安を取り除くための投資として導入してみてもいいでしょう。
スマホが深める親子の絆
〈シニア世代がスマホを持つ理由の第1位は、言うまでもなく家族との連絡だろう。離れて暮らす子どもとの連絡や、たまにしか会えない孫の顔を見る手段として、デジタルツールは頼もしい味方になる。スマホをはじめとするデジタルツールや最新テクノロジーは、長年硬直化していた親子関係や家族との向き合い方にも変化をもたらす可能性があると勝間氏は言う。〉
89歳で亡くなった私の母もデジタル機器には疎かったのですが、それでも一応、携帯電話のメールだけは打つことができました。母にとっての携帯電話は、ただの機械ではなく、「家族と交流するための道具」だったのです。
「子どもと関わりたい」「孫と話したい」という目的が先にあれば、そのために必要な道具は多少のハードルがあっても案外使えるようになるものです。今の時代なら、LINEで話したり、ビデオ通話で孫の顔を見たりすることが、孤独を防ぐ手段にもなっています。離れて暮らす孫の七五三の動画を見るためにスマホを手にしたという話も聞きます。
シニア世代の方には、あえて“下から目線”でお子さんやお孫さんに頼ることをお勧めします。親子というのは、その立場ゆえに関係がこじれることもあります。特に、「親が子どもに教わる」という構図に慣れていない世代には、せっかくのアドバイスを「そんなものは必要ない」とはねつけてしまっている方もいるでしょう。しかし、子どもにとって、親から「教えてよ」と頼られることは、決して嫌なことではありません。むしろ、普段は頑固な親御さんが「分からないから教えて」と素直に弱みを見せてくれることは、愛らしさや親しみやすさにつながります。「分からないから」と敬遠するのではなく、「分からないからこそ教えてもらう」。まずはお子さんやお孫さんに「教えて」とスマホを差し出してみてください。
論理的な説得ではなく、成功体験をプレゼン
反対に「勧めてもなかなかスマホやデジタル機器やサービスの活用を検討してくれない」と悩む子どもの立場では、「便利になるよ」とか「月5000円安くなるよ」といった論理的な説得ではなく、具体的なメリットと成功体験をプレゼンするといいでしょう。一番簡単なのは「家族のLINEグループ」をつくることです。ペットの写真やお孫さんの動画、旅行のお土産話などが日々共有される場があれば、自分もそこに能動的に参加したいという強烈な動機になります。
目的はデジタルを活用することではなく、テクノロジーをうまく使って、便利に、健康に、安全に、そして今より彩り豊かな生活を送ること。デジタルは若者の専売特許ではなく、むしろ、残された時間を誰よりも豊かに、そして安全に過ごしたいと願うシニアの可能性を広げるものなのです。
(構成・大塚一樹)
勝間和代(かつまかずよ)
経済評論家。1968年東京都生まれ。慶應大学在学中から監査法人に勤め、アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。3女の母。経済・教育・キャリア形成に関する発信に加え、合理的な暮らし方を追求するライフスタイル提案でも支持を集める。著書多数。YouTubeやSNSでも積極的に発信中。
「週刊新潮」2026年3月26日号 掲載
