『あんぱん』今田美桜、『虎に翼』伊藤沙莉の愛読書を読んでみた。ドラマ化されたエンタメ小説、人気作家のデビュー作から見る2人の内面
世界で活躍する大谷翔平選手や、NHK連続テレビ小説『あんぱん』で主演を務めた今田美桜さんなど、今をときめく有名人はどのような本を愛読しているのでしょうか。コラムニスト・ブルボン小林さんが『女性自身』で連載するコラムをまとめた『有名人の愛読書、読んでみました。』から一部を抜粋し、愛読書を通して有名人に鋭く迫ります。今回は、今田美桜さん、伊藤沙莉さんの愛読書をご紹介します。
* * * * * * *
今田美桜の愛読書
『本日は、お日柄もよく』
原田マハ
今田さんはテレビCMでよくみる。元気さと落ち着きとを同時に、だんだんでなく一瞬で感じさせるので、あらゆる企業イメージにプラスしかないのだろう。
2022年のドラマ「悪女(わる)」で演じた主人公は、もともと漫画的なキャラクターとして設定されていたのだろうが、その過剰なほどの元気さは彼女自身から迸(ほとばし)っているようにも感じられた(「落ち着き」の方は役柄上セーブされているので、長時間浴びると、元気さにあてられかねない)。
ごん太のろ紙で2ヶ月以上も消臭効果が続くと謳う、大きなボトルの消臭剤があるが(例えが悪くて失礼!)、そんな風に巨大タンクにエネルギーがまだまだ溜まっている、という余裕を彼女には感じる。
主人公・こと葉
愛読書の主人公、こと葉にもそんな元気さを感じ取れる。すでにドラマ化してる(注・主演は比嘉愛未)そうだが、それも納得のエンタメ小説だ。
平凡なOLのこと葉が、幼なじみの結婚式で聞いた感動的なスピーチをきっかけに、人生が変わっていく。

『有名人の愛読書、読んでみました。』(著:ブルボン小林/中央公論新社)
結婚式という定番の始まり方で恋愛小説かと思いきや、仕事小説の比重が高い。会社のブランディングから、果ては国政選挙の演説にまで駆り出される。現実にはあり得ない抜擢だが、構成のうまさで読者をのせ、スピーチの醍醐味を描いていく。
「この本を読んでから、誰かが発した言葉、自分が口にする言葉、双方に対して敏感になりました」と今田さん(「ダ・ヴィンチ」18年8月号)。優等生的というと皮肉っぽくなるが、取り繕いのない、端的な感想だと思う。
こと葉は、心の中のつぶやきは平凡だが、応接する仕事が次々変わってもなんだかんだで全対応できている。どの仕事も成功し、どんどん「見込まれていく」筋運びで、主人公に対していささか「イージーモード」な展開すぎるというきらいはあるものの、個々の場面で発揮される頼もしさが、今田さんのたくさんの仕事ぶりと重なって感じられてくる。

イラスト:死後くん
伊藤沙莉の愛読書
『オーデュボンの祈り』
伊坂幸太郎
伊藤沙莉はこれまでも独特のハスキーボイスで存在感を発揮していたが、大ヒットしたドラマ「虎に翼」では、従来の朝ドラヒロインの「前向き」「明るい」とは少し異なる趣の魅力を醸し出しているようだ。
これまでもサバサバとした人柄の役を求められがちで、その期待にも余裕でこたえながら、もう少し持ち重りのする人物造形をしているように思える。
有名人が読書歴を答える雑誌に「ダ・ヴィンチ」というのがあるが、そこに複数回登場する有名人はその都度別の本を挙げるところ、彼女は同誌に二度目に登場した際、前と同じ本書を愛読書に挙げている。それは珍しいふるまいだし、とても律儀な人だとも思わせられる(愛読書をそうそう変えないということに)。
伊坂幸太郎のデビュー作
高校1年のときに出会って「肌身離さず持ち歩いて、繰り返し」読んだという(「ダ・ヴィンチWeb」21年1月13日公開)。人気作家、伊坂幸太郎のデビュー作だが、読んだら「うわ、デビュー作っぽい!」と声が出た。
決して下手くそということではない。彼女も「頭の中でちゃんと情景が映像になって、登場人物たちが命を持ち始めて」(同前)と絶賛するほどで、文章は安定している。
江戸以後も鎖国を続けてきた東北の島で、未来を見通すことのできるカカシが殺された。こう書くと分かるが、ファンタジーでありミステリーだ。
殺人を許容された男、太りすぎて店から帰宅できなくなった女、出会う人物のいちいちが奇想だが、淡々と、でも欲張りに混沌を書ききるんだという、作家のデビューに発揮されるであろう漲りが感じられ、気圧された。伏線回収もしっかりされるし、執拗なほどに強調された生来の「悪」と、その強い否定も打ち出される。濃いわー。
これを肌身離さず! と思うとき、静かでサバサバした印象の彼女の内面に宿る荒々しい混沌を垣間みたようにさえ思えてくるのだった。
※本稿は、『有名人の愛読書、読んでみました。』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
