いっそ孫なんていなければ…年金月18万円・72歳祖父、可愛い孫8人に囲まれて幸せな“じいじ”のはずが、減り続ける通帳残高に滲み出る「不穏な感情」【CFPが解説】
「こんなこと思うなんて、自分でも嫌になるが……」 そうつぶやいたのは、72歳の山上正一さん(仮名)。 妻と二人で静かに暮らしている正一さんには、3人の子どもと8人の孫がいます。お盆や正月になると家族が集まり、家の中は笑い声でいっぱいに。本来なら、それは幸せな光景のはずでした。しかし正一さんの胸の奥には、誰にも言えない複雑な思いがありました。その内容とは? ファイナンシャルプランナーの小川洋平氏が、事例とともに、老後資金と孫にかけるお金のバランスの考え方について解説します。
8人の孫に囲まれたにぎやかな老後
山上正一さん(72歳・仮名)は、妻の美智子さん(70歳・仮名)と二人暮らし。二人には3人の子どもがいて、それぞれ家庭を持っています。孫は全部で8人で、上は中学生、下はまだ生まれたばかりの赤ちゃん。お盆や正月、連休になると子どもたちが家族を連れて帰ってきます。
「じいじ!」
「ばあば!」
そんな声が家中に響き、居間は子どもたちの笑い声でいっぱいに。食卓には料理が並び、孫たちは走り回り、まるでお祭りのような賑やかさです。
「やっぱり家族が集まるのはいいもんだな」
そう思う一方で、正一さんの胸の奥には、ある不安がありました。それは、孫が増えるたびに増えていく「お祝い」の出費でした。
「孫差別」と思われないか…祖父母の見えない気遣い
最初の孫が生まれたのは、正一さんがまだ現役で働いていた頃。小学校入学のときには、奮発して20万円のお祝い金を包みました。子どもや初孫が喜ぶならと、つい財布の紐も緩みます。しかし、そのときはまだ想像していなかったのです。その後、孫が次々と増えていくことを。
3人の子どもたちはそれぞれ家庭を持ち、やがて孫は8人に。入学や進学のタイミングが重なると、お祝いの出費も重なります。入学祝いだけでも数十万円。現金だけでなく、ランドセルを買ってあげたり、学習机を買ってあげたりすることも。すると、思わぬ問題に直面することになりました。
「上の孫には20万円渡したのに、下の孫には10万円しか渡していない」――最初は余裕があったため奮発しましたが、孫が増えるにつれて同じ金額を出すのが難しくなってきたのです。
「今さらやめるわけにもいかないしな……」
誰かが何か言ったわけではありません。それでも、「うちの子だけ少ない」と思われないか、正一さんは気を遣うように。それにより“孫費用”の支出は加速していきました。
気づけば資産は半分に―孫のいないご近所さんとの会話でよぎった感情
正一さんは60歳で定年退職しました。そのときの金融資産は約3,000万円。夫婦二人なら十分だと思っていました。しかし、退職から約12年。通帳の残高は、いつの間にか1,500万円ほどに減っていました。
もちろん減った理由は生活費の取り崩しもあります。しかし、節目ごとに渡してきた孫へのお祝い金の影響も決して小さくありません。年金は夫婦合わせて月18万円ほど。生活はできていますが、夫婦ともに、あと10年、20年生きる可能性を考えると、資産が減っていくのを見るのは大きなストレスでした。
そんなある日、同年代のご近所さんと立ち話をしていたときのことです。
「うちは孫がいないんだ。静かで楽だけど、寂しいよ。山上さんが羨ましい」
そう言われても、正一さんは素直に受け止めることができなくなっていました。孫がいることで、自分たちの老後が脅かされている現実。「逆に羨ましい部分もある。いっそ孫がいなければ、こんな心配もしなくて済むのかもしれない」――そんな考えが一瞬頭をよぎりました。
もちろん孫は可愛い存在です。それでも通帳の残高を見るたびに、ため息が出ることも事実でした。
孫へのお祝いは「計画」が大切
初孫が生まれると、嬉しさのあまりお祝いを奮発してしまう人は少なくありません。しかし、孫が1人とは限りません。その後、孫が増えると出費は想像以上に膨らむことがあります。
入学祝い、進学祝い、誕生日、クリスマス……。節目ごとのお祝いが積み重なると、かなりの金額になります。そこで大切なのが、家計の将来予想です。
まず、自分たちの老後生活に必要なお金を計算し、いくら資産を残しておけば安心なのかを「見える化」します。 そのうえで「孫にはいつ、いくら渡すか」 というルールを決めておくことが大切です。
例えば、入学祝いは一律○万円 ・成人祝いだけは多めに渡す など、あらかじめ決めておけば、後から悩む必要もありません。もしも予定よりも孫の数が多くなるようであれば、途中で金額を見直せば問題ありません。
また、老後資産を運用しながら取り崩したり、利子や配当を活用することで資産寿命を延ばすこともできます。長期的な計画を立てておくことで、孫へのお祝いも無理なく続けることができるのです。
孫の笑顔を心から喜べるように
孫の存在は、多くの祖父母にとって大きな喜びです。しかしその一方で、正一さんのように「嬉しさ」と「お金の不安」の間で揺れる人も少なくありません。
大切なのは、孫にお金を使うことを我慢することではなく、「いくらなら気持ちよく出してあげられるか」 をあらかじめ考えておくこと。老後資金を守りながら、家族との時間も大切にするために、長期的な視点で家計を見える化し、無理のない範囲でお祝いをしていくことが大切です。
孫の笑顔を心から喜べるようにするためにも、 祖父母世代の家計には、ちょっとした計画が必要なのです。
小川 洋平
FP相談ねっと
