守秘義務が課されている検事が「自分たちにとって有利な情報」を「故意に」マスコミにリークしている、異常な実態

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約1分の勾留質問で164日間勾留、検事の作文で作られる供述調書、証拠改竄や捏造……。

おどろきの刑事司法 “犯罪者”の作り方』(村木厚子 著)では、冤罪に巻き込まれた著者がみた驚愕の刑事司法の実態が明かされています。

本記事では、〈「脅しの常套句」により、「身に覚えのない罪」を認めてしまう…検事が行う「マインドコントロール」〉に引き続き、検察が「自分たちに有利な情報」を故意にリークし、メディアを操作する恐るべき実態について詳しく見ていきます。

(※本記事は村木厚子『おどろきの刑事司法』より抜粋・編集したものです)

マスコミは捜査機関の広報部?

取調べを受けるようになってから気付いたことですが、「郵便不正事件」についてのマスコミ報道は、私が逮捕される前から、大阪地検特捜部の見立てに沿う記事ばかりでした。

たとえば、私が「凜の会」のC会長に問題の証明書を手渡したとするストーリーは、逮捕の20日ほど前に、複数の新聞がCさんの供述として報じています。その後も、私がCさんの面前で郵政公社の担当者に電話をして「凜の会」を郵便料金割引の対象として承認しても大丈夫だと伝えたという、Cさんの虚偽の供述内容がそのまま報じられました。逮捕の3日前には、元部下のBさんが「作成した偽証明書は当時の課長(村木)に渡した」と供述していると、各紙が一斉に報じました。

こうした報道ぶりから、大阪地検が捜査情報をマスコミに盛んにリークしていたのは明白です。フリージャーナリストの江川紹子さんは、「『リーク』どころではなく、検察が各段階で世間に伝えたい情報を、積極的にレクチャーしていたことすら窺える」と指摘しています。

「検察が世間に伝えたい情報」とは、自分たちにとって有利な情報、世論を味方に付けるために有効な情報です。それが大々的に報じられれば、検察の見立てに沿った事件のストーリーが世間に浸透していき、事件を見る市民の目はどうしても曇ってしまいます。さらには、裁判になった時、裁判官に予断を与えてしまう危険性もあります。結果的に、「検察の思う壺」になってしまうわけです。

逮捕当日には、大阪地検の周囲に朝から記者が集まっていました。検察の呼び出しを受けたことは私と弁護士と検察しか知らないのに、なぜ記者がいるのか不思議でしたが、これも、「村木逮捕」の情報を検察が事前にリークしたとしか思えません。

逮捕翌日には、新聞各紙の夕刊に、「敏腕キャリア なぜ 村木容疑者 障害者問題に強い関心」(朝日新聞)、「局長逮捕 厚労省は動揺 『将来の次官候補』なぜ 不正生んだ『上意下達』」(読売新聞)、「厚労省 村木局長逮捕 女性キャリアの星なぜ 無責任体質 巨額損失生む」(産経新聞)などと、スキャンダラスな見出しが躍りました。拘置所の中にいる私には知る由もなく、のちに事件がどう報道されたのかを確認して知りました。

これらの記事が出た時点では、取調べは始まったばかりで、しかも私は嫌疑を否認していました。にもかかわらず、メディアは、検察のリーク情報を鵜呑みにして、私が犯罪者であることに何ら疑いを持たなかったようです。さらに、「将来の次官候補」「女性キャリアの星」などの言葉を用いて、「自らの出世のためには、部下に違法行為を行わせることも厭わない人物」というイメージを作り上げ、世に拡散する役割を果たしていたことになります。

検事の「作文」がそのまま記事に

逮捕後の報道には、Bさんの供述について、次のような記事もありました。

「04年6月初め、Bは村木から、『凜の会』への証明書について、『早く出してあげて。決裁のことは気にしなくていいから』と催促されたという」

「Bが6月初めに偽の証明書を村木に手渡すと、『ご苦労さま、この件はもう忘れてください』と言われたという」

生々しいセリフですが、もちろん私はそんなことを言っていません。そもそも当時、私とBさんは立ち話をしたことさえありません。裁判後にBさんと一度だけ会った時、「私たち、職場で口をきいたこと一度もないですよね」と確かめ合って苦笑いしました。

実は、右に挙げた私のセリフは、検察がBさんから無理やり取った自白調書とまったく同じでした。Bさんが取調べ検事の圧力に屈服させられ、事実と異なる自白調書、つまり「検事の作文」にサインをした翌日に、その「作文」の内容がそのまま記事になっていたのです。当時のBさんは接見禁止になっていたので、メディア関係者は彼に接触できません。もちろん調書を見ることもできません。

ならば、この記事はどこから情報を得て書かれたものなのか。情報の出どころは、大阪地検特捜部の検事以外に考えられません。彼らは、国家公務員法によって守秘義務が課されている捜査情報(供述調書の内容)を、故意に流出させたことになります。何より、これは重大な人権侵害であり、とうてい許されることではありません。

「報道の自由」の保障の下、私たち市民がマスメディアに期待するのは、権力機関の監視と事実の追究です。報道に関わる方々には、ぜひ、犯罪に関する取材のあり方を見直していただきたいと思います。捜査機関の情報や視点に偏らず、また、捜査機関からの便宜供与や圧力に屈せず、事実を追究してほしいと心から願っています。

私たち市民も、こういうことが二度と繰り返されないよう、捜査機関やメディアに対してもっと厳しい目を向けるべきでしょう。

さらに〈誠実な公務員だったのに突然の逮捕…村木厚子氏が驚き、怒り、絶望した日本刑事司法の「暗部」〉では、村木氏が逮捕された経緯を詳しくみていきます。

●特に言及のない限り、登場人物の所属・肩書、法律や制度の名称・内容は、すべて当時のものである

【つづきを読む】誠実な公務員だったのに突然の逮捕…村木厚子氏が驚き、怒り、絶望した日本刑事司法の「暗部」