脳梗塞で麻痺が残った「年金6万円の80歳父」、お金がなくて選択した“激安”老人ホーム。あんなに恰幅がよかったのに、入居3ヵ月で骨と皮に…理由を尋ねた50歳長男「施設側の回答」に唖然【FPが解説】
親の介護は、ある日突然始まります。「限られた予算と時間」という追い詰められた状況下で、低価格な施設は有力な選択肢となります。しかし、費用を抑えることだけを優先した即決が、親の健康や尊厳を損なう結果を招くことも……。本記事では、社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏がAさんの事例とともに、安い老人ホームの落とし穴を解説します。※事例は、プライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
現場一筋だった父を襲った脳梗塞、そして「苦渋の選択」
50歳のAさんは、パート勤めの妻と高校生の双子の娘を抱える4人家族です。大学卒業後は、中小企業の製造業で働いてきました。
Aさんの実家は、大工として自営業を営んでいました。Aさんが大学まで行けたのは、「これからの時代は大学まで卒業しないと希望する職業に就けない」という父の思いがあったからです。Aさんも自分の子には大学を卒業させたいと強く思っていました。しかし、双子の教育費を工面するために妻と協力していますが、2人同時期の進学に教育費を工面するのは至難の業。そんな折、Aさんの父が脳梗塞で緊急入院したのです。
手術は成功しましたが、体半分に麻痺が残り、リハビリに通います。父は体を使う職業だったこともあり、体力には自信がありました。幸いにもリハビリを経てからの回復は、多少の麻痺は残ったものの順調でした。しかしながら、Aさんの母はすでに他界しており、父は一人暮らし。家事の不安は拭えませんが、かといって、都内に父を呼び寄せる余裕もありません。
「人様の手を借りるしか……」と苦渋の選択で老人ホームを探しはじめました。
電話一本で即決した理由
お昼の休憩時間や帰宅後の寝る前にネットでいろいろ調べました。Aさんの父は要介護2。原則、要介護3以上であれば入居できる特別養護老人ホームは、要介護3でも順番待ちのようで、要介護2の父は特別養護老人ホームの入居は難しく、あきらめざるを得ない状況です。
「老人ホーム 低価格」で検索するといくつか施設が出てきました。そのなかで予算内に収まるところを候補にあげ、電話をかけると、「ちょうど1部屋だけ空きがある。すぐに埋まってしまうかもしれない」と告げられます。焦っていたAさんは、その場で入居を即決してしまいました。
なんとか賄えた“安い”老人ホームの費用
父の自宅を売って費用の足しにしようかと、不動産会社に見積りをお願いしましたが、現実は甘くありません。建物の老朽化ゆえ、解体して更地にしてから買い取るといわれました。解体費などの合計額は500万円。さらに、駅から離れた立地なので、1,000万円がいいところとのこと。正直、父があと何年生きるかわかりませんが、少しでも足しになるならと売却することに。差し引きすると、実家の売却で手元に残ったのはわずか500万円でした。
自営業だった父の年金は月約6万円。2024(令和6)年における80歳男性の平均余命は8.96年です。父は現在80歳。少しの蓄えと自宅を売った500万円、月6万円の年金――。平均余命で考えるのであれば、なんとか賄っていけそうでした。
3ヵ月後の再会…父の変わり果てた姿
Aさんは仕事が繁忙期に差し掛かったこと、さらに父が入居した老人ホームは交通の便が悪いことから、入居後の面会が遅れてしまいました。3ヵ月後、やっと訪問することができたAさんは、父の変わりように驚きが隠せませんでした。
もともと父は、現役時代に現場での力仕事が多かったため、恰幅もよく食欲旺盛でした。現役を引退しても、それは変わらなかったのです。利き手と利き足が麻痺したあとも、食が細くなることはなかったはずです。それがどうでしょう。Aさんの目には、まるで別人のような父の姿が映っています。わずか3ヵ月。骨が浮き出て、脂肪が落ち、痩せこけています。驚きを隠せず事情を聞くと、父は話しはじめました。
出される食事は常に「刻み食」でした。本来は普通食を食べられる状態でも、スタッフに声をかけると「ちょっと待ってください」と放置され、そのまま食事時間が終わってしまう。やっとの思いで普通食を希望したところ、「ほかの入居者と違う対応には月々の別料金がかかる」と突き放されたといいます。せっかく息子が探してきてくれた施設だから、別料金がかかることは避けたいと、父は、そのまま刻み食で我慢していたそうです。
ショックを受けたAさんが職員に父が激痩せしたことを伝えると、返ってきたのは冗談めかした信じがたい言葉でした。
「少しくらい痩せたほうが、お世話もしやすいですよ」
なぜ激安なのか?「重要事項」に隠された真実
本来、有料⽼⼈ホームの設置者は、⼊居者等に対して、当該有料⽼⼈ホームにおいて供与される介護等の内容、その他の便宜の内容、費⽤負担の額、その他の入居契約に関する重要な事項を「書面」で開⽰する義務があります(⽼⼈福祉法第29条第7項、⽼⼈福祉法施⾏規則)。しかし、ネット上で表記されている「激安費用」には、ほかに追加費用が隠れているケースがあることを知っておきましょう。
老人ホームを探すときに費用を抑えたいと思うのはもちろんのことですが、安さには必ず理由があります。
・立地や建物の古さ
・スタッフ一人あたりの入居者数(質の低下)
・サービスごとの細かな追加課金
「安い=スタッフの目が行き届かない」という構造になっていないか、実際に見学して入居者に合った老人ホームを探しましょう。
さらに、80歳男性の平均余命は8.96年ですが、これはあくまで平均です。実際には90歳、95歳まで存命する可能性も十分にあります。家を売った500万円を約9年で取り崩す計算では、長生きすると資金ショートを起こします。介護資金は、「いつまで続くかわからない」という前提で、月々の赤字を最小限に抑える設計が鉄則です。
目先の月額利用料が安くても、今回のように「普通食への変更が別料金」であったり、医療費や消耗品代が上乗せされたりすることで、結局は高額になるケースが多々あります。また、劣悪な環境で健康を害せば、入院費用や転院費用といった一時的な大出費が発生する可能性も高いです。
実際に入居したあとは、大変かもしれませんが、本人が無理をしていないか、精神的なストレスを抱えていないかを把握するために、できる限り訪問して様子を見守ってあげてください。親を想う気持ちが、かえって親を苦しめる結果にならないよう、慎重な施設選びが求められています。
〈参考〉
厚生労働省:有料⽼⼈ホームの現状と課題について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001592455.pdf
厚生労働省:主な年齢の平均余命
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/dl/life24-02.pdf
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表
