組織の力を引き出すには? 鳥取三津子さん(日本航空代表取締役社長執行役員)の「金言」とは。【栗山英樹さんがインタビュー】
異例ずくめのトップとして注目を集める鳥取三津子さんに、栗山英樹さんがインタビュー
侍ジャパンを優勝に導いた栗山英樹さんが、柳井 正さん、三木谷浩史さんらトップ経営者に対峙し、いかに逆境を乗り越え、強い組織を創り上げてきたかを語り合う、NHK「栗山英樹 ザ・トップインタビュー」。
この度、その書籍化作品『栗山英樹がトップ経営者から引き出した 逆境を突破するための金言』が発売となりました。
今回は発売を記念し、本書第四章「経営と現場の一体感を軸に」より、日本航空代表取締役社長執行役員・鳥取三津子さんへのインタビューを一部公開します。
『栗山英樹がトップ経営者から引き出した 逆境を突破するための金言』書影
初の女性、初のキャビンアテンダント出身という異例ずくめのトップとして世間から注目を集める。現場を知り尽くした鳥取は、何を感じて、どのように人を育てようとしているのか、その素顔とは、そして「金言」とは──
鳥取三津子日本航空代表取締役社長執行役員。1985年、日本航空の前身である東亜国内航空にキャビンアテンダントとして入社。成田第二客室乗員部長、客室安全推進部長、客室本部長、カスタマー・エクスペリエンス本部長などを歴任。2024年より現職。2024年正月に羽田空港で起きた衝突事故では責任者の一人として乗客のケアに奔走。コロナ禍で仕事が激減し苦境に陥った際は社員たちを異業種へ出向させピンチを乗り切った。
日本航空株式会社
年間の利用旅客数、国内第2位を誇る日本の航空大手の一つ。2010年に経営破綻するも、翌期には営業利益1884億円をあげ、世界の航空会社で最も高収益となった。
・設立:1951年
・社員数:14431名
・企業理念: JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、
一、お客さまに最高のサービスを提供します。
一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。
組織の力を引き出すには?
栗山 2010年の経営破綻のニュースには僕らも衝撃を受けました。実際にJALが倒産するという方向のことが分かったときにはどんなことを思われたんですか?
(※2010年、JALは会社の経営破綻という危機に直面した。当時、鳥取はキャビンアテンダントを率いる管理職。パイロットや整備士など専門職の多い組織で縦割りの弊害を痛感することになった。)
鳥取 なるべくしてなったのだろうというふうに思いましたね。いまだから言えるというところはあると思うんですけれども、その当時は、いま理解しているような状況まで自分が分かっていたかというとそうではなかったので、やはりただの渦中の人だったなと思うのですよね。倒産したことは事実なのですが、飛行機は毎日動いていて、部下がそこから乗務に行くのを送り出して、また帰ってきたら迎えるという現実が並行してありました。ですので、冷静でいないと仕事はできなかったというところはあったかなとは思います。
栗山 僕ら、何があってもJALが潰れると思ってないんですよね。ですから会社の中にも、「そうは言っても……」みたいなのは多少あったんですか?
鳥取 あったと思います。誰かがやるだろうという責任転嫁の部分と、採算をいまひとつきちんと、見ているようで見ていなかったっていう部分もありました。あとは、いま考えたら、経営と現場がすごく遠くて、かつ部門間もそれぞれ壁があって、そういう意味では相互理解ができていなかった。この3つが大きかったなと思いますし、その中に自分自身もどっぷりつかっていたのだと思います。
栗山 再建のために、「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫(いなもりかずお)さんがいらして、社内改革をされて、そのときに考えられた「フィロソフィ」がたいへん大きな役割を果たしたと。
鳥取 はい。みんなそれぞれの現場ではもちろん頑張っているんですね。本社ももちろんそうなんですけど、結局バラバラに頑張っているということがありましたので、「フィロソフィ」によって、共通の価値観に立ち返れるということは非常に大きかったですね。先ほど言った壁がいくつもありましたけれども、「フィロソフィ」の勉強会が始まると部門を越えてみんなで集まって話をして、別部門の人と「そういうお仕事だったんですね」みたいなところから始まって、お互いの理解を深めていきました。こういう、普通にできてなきゃいけないところからまず整備して、みんなが共通のマインドを持つところまでできたということが非常に大きかったんだと思います。勉強会はいまも1年に3回、全員がオンラインで参加できるようになりましたので、継続してやっています。
栗山 「JALフィロソフィ」、鳥取さんは普段からずっと持ち歩いていらっしゃるんですね。見せていただくと、いろいろ書き込みがあるんですが、これは何ですか?
鳥取 これは最初に「フィロソフィ手帳」をもらったときの自分が書いたことなんです。
「私は日本航空プロフェッショナル・ホスピタリティの体現者として以下のことに努力し続けることを誓います。
1 お客様に自分の思いを伝えるためにできるかぎりことばで表現するように努めます
2 同僚の素晴らしい部分を少しでも多く見つけ、笑顔で接し続けます」
栗山 そのころから人を生かすんだという思いでやってらしたんですね。そういう自分の誓いとかって、自分のことを書くことが多いと思うんですね。やっぱりグループみんなの組織力で勝負するというのを含めてということなんですね。
鳥取 やはり自分の強みももちろんありますけど、自分に足りないところはたくさんありますので。しかも本当に会う人会う人すばらしいものを持っているので、そこはできるだけ吸収したいと。今日も栗山さんのすばらしいところを吸収する気満々でここにいますけれども、その気持ちは常に持っています。
栗山 「フィロソフィ」ができてみんなでやっていくと、こんなことが大きく変わるなというのはどんなところですか。
鳥取 幅はもちろんあると思うんですけど、同じ方向を向いて進んでいけるということですね。いままでは本当に四方八方だったと思うんですが、方向はこっちには向くようになった。方向の角度の差は多少あるべきで、あっていいと思うのですけれども、大まかな方向が定まったことによって、何倍もの力が出せるようになったのは、「フィロソフィ」の力が大きかったと思います。
インタビュー風景より
栗山英樹(くりやま・ひでき)北海道日本ハムファイターズCBO。1961年、東京都生まれ。東京学芸大学を経て、84年にドラフト外でヤクルトスワローズに入団。89年にゴールデングラブ賞を獲得。90年に引退し、解説者、スポーツジャーナリスト、白鷗大学教授などを務める。2011年11月に北海道日本ハムファイターズの監督に就任し、監督1年目でリーグ制覇。16年に2度目のリーグ制覇と日本一に輝き、正力松太郎賞を受賞。21年11月に日本ハムファイターズ監督を退任し、12月に野球日本代表監督に就任。23年3月にWBC優勝、5月に日本代表監督を退任。
◆本書はNHK「栗山英樹 ザ・トップインタビュー」より
「ファーストリテイリング会長兼社長 柳井正」(2024年1月4日放送)
「伊藤忠商事会長 岡藤正広」(2024年1月5日放送)
「日本製鉄 橋本英二会長」(2024年8月24日放送)
「日本航空社長 鳥取三津子」(2024年8月31日放送)
「楽天グループ社長 三木谷浩史」(2025年2月15日放送)
「サンリオエンターテイメント社長 小巻亜矢」(2025年2月22日放送)
の内容を再構成したものです。なお、各種データは取材当時のものです。
