■候補者は「石破氏に敗れた人たち」

9月22日、自民党総裁選が告示された。衆参で過半数割れという、いよいよ崖っぷちの自公政権をどう立て直すのか、自民党の命運をかけた熱い戦いが始まった。

と言いたいところだが、何とも代り映えのしない顔ぶれに新鮮味が感じられない。各候補の訴えも、自民党をどう再生するとか、日本経済を強くする、あるいは野党としっかり連携する等々、どうにも陳腐で惹きつけられるものがない。

写真=時事通信フォト
自民党総裁選の共同記者会見を前に、写真に納まる(左から)小林鷹之元経済安全保障担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安全保障担当相、小泉進次郎農林水産相=23日午前、東京・永田町の同党本部 - 写真=時事通信フォト

考えてみれば、出馬した5人が全員去年の総裁選で石破茂首相に敗れた候補だ。少数与党で綱渡りの政権運営を続けた挙句、参院選でも過半数を失った石破首相が全責任を背負って退陣するのは仕方ないとしても、その石破氏よりもマシな政権運営ができると胸を張って言える候補がいるのだろうか。

自民党というコップのなかの争いなのだが、肝心のコップに大きくひびが入っている。あまり激しく争うと、コップが真っ二つに割れてしまいかねない。だから総裁選の熱気も感じられないのだ。

■暗躍する「闇将軍」

参院選の後、石破首相辞めろ、辞めないの騒ぎから、ようやく総裁選の実施が決まり、ここまで2カ月月以上。ともかく総裁選は告示され、小林鷹之、茂木敏充、林芳正、高市早苗、そして小泉進次郎の5氏が正式に立候補した。

やや食傷気味ではあるが、情勢はどうだろうか。報道各社の各種の調査も出そろい、大方の関心は、知名度が高い高市氏と小泉氏のどちらが勝つのか、三番手の林氏が、これに絡むことがあるのかどうか、ということだろう。

各種の世論調査でも、「次の首相にふさわしい人」で常に高市、小泉の両氏がトップを競い合っている。22日発表の朝日新聞の調査では、全体では高市氏28%、小泉氏24%だったが、自民党支持層に限ると小泉氏が41%、高市氏は24%と逆転した。林氏は全体支持率9%、自民党支持層に限ると10%と小林氏、茂木氏の2人より上位に近づいている。

いずれにしても現時点では、高市、小泉両氏が先行し林氏がこれを追う構図だ。

「しかし、これでは当たり前すぎて面白くもないよね。前回は、トップを走る高市を最後に石破が大逆転した。そんなドラマがないとエネルギーも湧いてこない」

ある自民党の元衆院議員は、いかにもつまらなさそうな顔をして、そう言った。

そしてこうも続けた。

総裁選自民党のなかの闘いだ。その趨勢を決めるのは知名度ではない。やはり数の力、派閥の力なんだ。麻生派だけじゃない。旧岸田派は、いまも岸田が一声かければ40人は動かせる。菅のグループも結束が固い。石破は現職の首相で地方にも影響力を持っている。最後は、この4人が誰を推すかで決まるんだよ。その力を見せつけるのがキングメーカーだし、令和版闇将軍だ」

■キングメーカーは誰だ

では、そのキングメーカーを目指すのは誰なのか。

はっきりしているのは菅義偉元首相だ。前回の総裁選でも、「小泉氏はまだ経験不足。次を狙うべきではないか」という周囲の声を抑え、小泉氏を担いだ。その後は、石破政権を支える立場だったが、石破辞任を巡って、最後に引導を渡したのは菅氏と小泉氏だった。

こうした経緯もあって、小泉氏の擁立には慎重論もあった。菅氏と石破氏の双方に近い関係者からは、「前回の総裁選でも経験不足が敗因の一つだ。まして石破を止めさせて自分がなるのでは筋が通らない」といった声があったという。

しかし小泉氏は立った。「ほかに高市に勝てる候補がいるのか」そう周辺に言っていた菅氏にとって、小泉氏は最後で唯一のカードだ。党内に最高実力者として権力を揮い続けるには、何としても小泉氏を勝たせなければならない。

菅内閣で官房長官をつとめ、自民党の保守派にも人脈をもつ加藤勝信財務相をお目付け役にし、小泉氏と当選同期で政策通として知られる斎藤健氏を加えたチーム小泉を作った。菅氏にとっても背水の陣なのである。

首相経験者の3人。右から麻生太郎氏、菅義偉氏、岸田文雄氏(写真=首相官邸ホームページより)

■どちらに転んでも岸田氏が最終決定者に

もうひとりの首相経験者、岸田文雄氏もやる気満々だ。解散したとはいえ、旧岸田派の議員とは定期的に会合を重ね、石破政権の政策にも意見を言ってきた。

その旧岸田派の将来を担うと目されている林芳正官房長官が出馬することも容認した。一方で、側近の木原誠二氏は小泉陣営に加わっている。派閥の力が分散されているようにも見えるが、勝負は何が起きるか分からない。

上位2人の決選投票で高市に勝つには、小泉、林両陣営が最後に連携する必要がある。そのときカギを握るのは岸田氏になるだろう。どちらに転んでも、岸田氏が最終決定者になれる。岸田周辺には、そんな計算がある。

複雑なのは前回、高市氏に乗って敗れた麻生氏だ。石破首相に最高顧問という名誉職に祭り上げられ、露骨に不快な態度を示したことが話題になったが、最後の勝負勘が鈍ったか、石破憎しの感情に負けたのか、いずれにしても同じ轍を踏むわけにはいかない。

前回は土壇場で高市支持を決断し、派内に指示を出した。この決定には疑問を持つ議員も多く、麻生派内の足並みの乱れを露呈する結果に終わった。

■注目を集める石破票の行方 

今回、麻生氏は、誰を支持するか明らかにしていない。麻生派の議員の間では、勝ち馬に乗るために今回は小泉支持ではないかという声もある。

一方で、高市陣営に加わっている麻生派の議員もいる。安倍政権以来、常に政権の中枢で影響力を行使してきた麻生派だが、自前の総裁候補を持てない派閥は苦しい。石破降ろしの局面では、派閥の力を見せつけた麻生氏だが、決定的な影響力を行使できる可能性は低下している。

むしろ、引きずり降ろされたとはいえ、現職首相の強みを持つ石破氏こそ、次のキングメーカーになり得ると見る自民党関係者もいる。前回の総裁選では議員票では小泉、高市両氏に遥かに及ばない結果だったが、党員票は、高市氏とほぼ肩を並べる108票、実際の票数でも20万2000票と高市氏の20万3000票に肉迫していた。

結局、この石破票がどう動くかが総裁選の行方を左右する。石破氏自身は、中立を宣言しているが、林氏の陣営には石破氏の盟友とも言える中谷元防衛相が参加した。石破氏の路線継続を訴えるとしている。小泉氏との微妙な関係もあり、党員票はかなり林氏に流れるのではないか、という見方もここにきて強まってきた。

石破氏を支持して来たある閣僚経験者は、「誰が考えても林しかいない。知名度が低いのが弱点と言えば弱点だが、小泉や高市では党がまとまらない。穏健な『中道保守』の復権を望んでいる党員は多いはずだ」と、大逆転劇を期待している。

■公明党の側面支援

その石破は沈黙を守っている。退陣表明後も外交日程を精力的にこなし、野党との協議も進めている。

石破氏と気脈を通じる立憲民主党の野田佳彦代表の呼びかけに応じて、立憲と自民、公明3党の党首会談を開いた。立憲が主張する給付付き税額控除の導入に向けて協議することを確認した。これまでの自公立の枠組みを継続する狙いだ。連立の拡大よりも政策ごとの協議で国会を前に進める狙いがある。

総裁退陣を発表した石破首相(写真=首相官邸ホームページより)

選挙で負けた3党首(立憲も先の参院選を「事実上の敗北」と認めている)が顔をそろえるというのも奇妙な光景だが、総裁選の各候補とも、この3党の枠組みは維持するとしている。

日本維新の会か国民民主党かという連立拡大の議論も活発だが、今の自公に野党が協力するだけでは、結局世論の支持は得られないことははっきりした。政策の実現といっても結果的に自民党の延命に手を貸せば、政局のプレーヤーとしての資格は持てないのだ。いまの野党の限界はそこにある。

むしろ石破氏の側面支援に動いているのは公明党だ。斉藤鉄夫代表は、総裁選の候補について「保守中道路線で理念に合った方でなければ、連立政権を組むわけにはいかない」と発言した。

■精彩を欠いた高市氏

前回の総裁選で首相就任後も靖国神社への参拝を公言するなど、強硬保守の主張を繰り返した高市氏を牽制したものだが、これには当然、高市陣営だけでなく他の自民党議員からも、「他党の総裁選に介入するのは不見識だ」といった反発も出た。

斉藤氏も「あくまで一般論で申し上げたもので、総裁選に口を挟む意図は毛頭ない」と釈明したが、もちろん政治的な効果を計算したものだ。斉藤氏の周辺は、「特に創価学会員の間に高市さんの言動に不満があったし、高市さんを支援する旧安倍派の裏金議員を推薦したことで公明党執行部は激しい批判を受けている。その危機感の表れだ」と解説している。

そうしたこともあったのだろうか。立候補にあたっての演説会で高市氏は精彩を欠いた。日本の伝統を大切にする、外国人の規制を強化する。あるいは皇統を男系男子に限定することや自衛隊を憲法に明記することなど、安倍政治を継承することを訴えた。

しかし、前回は明言した首相就任後の靖国神社参拝は封印した。自民党の保守層の期待を背負う立場にしては、奥歯にものが挟まった言い方に終始していた。

幅広い支持は得るため穏健保守の支持を少しでも増やしたい。しかし今になって態度を変えれば、逆に高市に期待してきた強硬保守の支持者たちに不満が溜まっていく。その迷いが出ているように見えた。世論調査で自民党支持層の支持が振るわないのも、そうした背景がありそうだ。

■台本がないと話せない小泉氏

小泉氏の演説も、相変わらず歯切れは良いが内容は曖昧模糊としていた。衆参で過半数を失ったのは国民の声を聞く力を失ったからだ、これからは「ナマ声」を聞くのだという。しかし物価高で苦しむ国民の声を聞いて、何をするのか。

その点はあいまいなままだ。いわゆる裏金議員を要職で処遇するかどうかについても、明言を避け続けている。同時に、自民党には幅広い考え方があるので、総裁選は互いの違いではなく一致点を見出して実現することだとも述べた。

一つのチームにまとまって自民党を立て直すというが、与党として具体的に今何をするのか、やはり分からないままだ。

夫婦別姓問題で保守派の反発を買った反省から、政策通で保守派にも人脈を持つ加藤財務相を陣営幹部に据え、岸田前首相の「新しい資本主義」を進めた木原氏をブレーンに入れた。しかし、その結果、網羅的・総花的な話しかできなくなっている。

自民党ホームページ

■総裁の顔を変えても意味はない

このように知名度の高い高市氏・小泉氏が先行する構図は変わっていないが、助走期間が長すぎたためか、二人とも、スタートと同時に息切れし始めたように見える。

その間隙を縫うように地味で目立たない林氏が少しずつ距離を縮めている。総理経験者や石破首相の思惑も絡んで自民党内の力学は複雑さを増し、総裁レースの行方はさらに混沌としてきた。

繰り返しになるが、自民党は、石破氏に変えて新しい総裁を決めるだけでは、信頼を取り戻すことはできない。衆参の国政選挙で、民意は二度も自公政権に対して明白にNOを突きつけた。例え自民党総裁が人気者の小泉氏や高市氏になろうが、あるいは林氏に代わろうが、その選挙結果を取り戻すことはできないのである。

新総裁は、連立の枠組みを大胆に変えるか、解散して信を問い直すか、そうでなければ潔く下野するか。そのいずれかしか選択肢は残されていない。それが自民党に残された厳しい現実だ。

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城本 勝(しろもと・まさる)
ジャーナリスト、元NHK解説委員
1957年熊本県生まれ。一橋大学卒業後、1982年にNHK入局。福岡放送局を経て東京転勤後は、報道局政治部記者として自民党・経世会、民主党などを担当した。2004年から政治担当の解説委員となり、「日曜討論」などの番組に出演。2018年に退局し、日本国際放送代表取締役社長などを経て2022年6月からフリージャーナリスト。著書に『壁を壊した男 1993年の小沢一郎』(小学館)がある。
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(ジャーナリスト、元NHK解説委員 城本 勝)