主役交代!ブロードコム・エフェクトでAI相場はどう変わる?<今中能夫の米国株ハイテク・ウォーズ>
さらにこの発表は、より広い視野で見ると、AI半導体セクターの大きな地殻変動を映している。現在、エヌビディアとブロードコムのAI半導体では、およそ2倍の価格差があると思われる。エヌビディアが生成AIから自動運転、ロボティクスに至るまで、AIのさまざまな用途に対応する汎用的なAI半導体を開発しているのに対して、カスタマイズ仕様のブロードコムのAI半導体では、それほどのスペック(仕様)は必要ないからだ。
これが何を意味するのか。まず両社の業績への影響だ。ブロードコムが100億ドルの受注をしたということは、裏を返せばエヌビディアは200億ドル分以上の受注機会を失ったということだ。さらにAIの技術革新をリードするオープンAIが、フルスペックのAI半導体ではなく、よりコストを抑えることができるカスタム半導体を採用したという事実が大きな意味を持つ。AIを開発する企業が最先端技術を詰め込んだ高価なエヌビディアの半導体を購入しなければならないという、これまでの常識が変わるきっかけになるかもしれないからだ。
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOがこれまで語ってきたのは、2020年代の末までにAIインフラの市場が3兆ドルから4兆ドル規模に成長するという展望だった。年率で50%から60%、市場が拡大していけば到達するという計算だが、現実的に考えればこの金額は、現在のAIムーブメントをけん引する大手クラウド企業やAI開発企業などの投資額の許容範囲をはるかに超えている。したがって、フアンCEOが語るような市場成長を続けることは容易ではなく、ある時点で市場拡大のスピードが鈍化すると見るのが妥当ではないだろうか。
◆エヌビディアとブロードコム、AI半導体の両雄への投資判断は?
では今後、AI関連企業は具体的にどのように動いていくかと言えば、投資額を競うのではなく、投資コストを抑えて効率的なAI開発を求めるようになる可能性がある。そうした動きの具体例を示したのが、今回のブロードコムの発表だったのだ。
ただし今後、ブロードコムがシェアを伸ばし、エヌビディアを脅かすライバルになるのかと言えば、一概にそうとは言えない。ブロードコムのカスタム半導体は、採用する企業が基本設計を行うため、半導体設計で高い技術力が求められる。したがって、どの企業でも採用することができるものではないからだ。同社の主要顧客と目される4社は、いずれも独自仕様のAI半導体を開発できるほどの高い技術力を持っている企業ばかりだ。
マイクロソフト が今のところ同社の顧客と目されていないのは(見込み客にはなっているかもしれないが)、半導体の設計能力が4社と比較すれば相対的に低いためだろう。したがって、エヌビディアが広範囲に市場拡大を進めるに対して、ブロードコムは技術力の高い大手企業をターゲットとして、エヌビディアの高額AI半導体によって膨れ上がった市場を、価格の安いカスタム型AI半導体で食うことで事業の拡大を目指すという図式になるのではないか。
では両社の今後の投資判断はどのように捉えればいいのだろうか。株価についてはエヌビディアが決算後、上値が重い推移となっているのに対して、ブロードコムは、300ドル前後から350ドル前後の水準まで、一気に急騰している。今期の予想PER(株価収益率)を試算すると、エヌビディアの40倍台に対してブロードコムは70倍超と、ブロードコムに割安感はなくなっている。
