【COP26】「脱石炭」に踏み切れない日本のジレンマ 気候変動の現実に背を向けるな - 木村正人
※この記事は2021年11月02日にBLOGOSで公開されたものです
英首相「石炭、車、金、木について行動を起こそう」
[英北部スコットランド・グラスゴー発]地球温暖化対策に取り組む国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が10月31日、ジョー・バイデン米大統領ら世界の政治指導者約120人、各国の代表団など数千人を集めて英北部スコットランドのグラスゴーで開幕した。11月12日まで開かれる。
2015年に採択された国際的な枠組「パリ協定」は産業革命前に比べ世界の平均気温の上昇を摂氏2度未満、できれば1.5度以内に抑えることを目指している。
ホスト国のボリス・ジョンソン英首相は11月1日の開幕セレモニーで「人類は気候変動の問題に取り組んできた。(気温上昇を1.5度以内に抑えるための最終列車が出発する)深夜零時まであと1分。私たちは今すぐ行動を起こす必要がある。日付が変わって子供たちが取り組んだとしても遅すぎる」と危機感を募らせた。
「私たちは石炭(脱石炭)、車(電気自動車への切り替え)、現金(気候変動対策資金)、木(光合成で二酸化炭素=CO2を吸収する森林破壊の阻止)について話し合いや議論から協調した現実的な行動に移らなければならない。希望や目標、願望ではなく、明確な約束と変化のための具体的なタイムテーブルが必要だ」
ジョンソン首相は、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)が温暖化対策に取り組むと誓ったこれまでの大人たちの言葉を「くだらない、くだらない、くだらない」と切り捨てたフレーズを引き、トゥンベリさんに代表される若い世代の期待を裏切らないようCOP26を意味ある会合にしようと誓った。
国連によると、現時点で各国が表明している排出量の削減目標では世界の平均気温は2.7度上昇する。しかし10月30、31日にローマで開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の首脳宣言では「今世紀半ばごろまでに排出量のネットゼロまたはカーボンニュートラルを達成することの重要性を認識する」という表現にとどまった。
「カーボンニュートラル」は温室効果ガス排出量から植林、森林管理のほかCCSやCCUSなどCO2回収・貯留技術を含めた吸収量を差し引いて実質ゼロにすることを指す。排出量の正味ゼロを目指す「ネットゼロ」とは、まだ実用化のメドが立ったとは言えないCCSなどの吸収量を勘定に入れ、排出をある程度認めるか否かという微妙なニュアンスの違いがある。
石炭火力発電についてG20首脳宣言は「新しい排出削減対策が講じられていない石炭火力発電に対する国際的な公的資金の提供を2021年末までに終了する」としたものの、国内での石炭火力発電の段階的廃止には触れなかった。60年までに「カーボンニュートラル」を目指す中国や世界の原油確認埋蔵量の17%を占めるサウジアラビアなどに配慮するかたちとなった。
G20首脳宣言への失望感
世界の排出量の8割を占めるG20の首脳宣言に対し、アントニオ・グテーレス国連事務総長はツイートで「G20が地球規模の解決策に再コミットしたことを歓迎するが、希望が叶わないままローマを後にする。しかし少なくとも死んではいない。グラスゴーでのCOP26に向け1.5度目標を維持し、人々と地球のため約束を実行していこう」と失望感を隠さなかった。
「炭素(化石燃料)を燃焼させる古い開発モデルが自国経済と地球にとって死刑宣告だと認識する必要がある。今すべての国の全セクターで脱炭素化が求められている。アマゾンの一部では吸収量より排出量の方が多くなっている。海面上昇は30年前の2倍になった。未来と人類を救うため野心と連帯感をもって今すぐ行動しなければならない」と訴えた。
COP26でグテーレス事務総長は「私たちは墓穴を掘り続けている。失敗は死刑宣告を意味する。途上国を支援するため年1千億ドル(約11兆4200億円)の気候変動対策資金の約束を実現しなければならない。最も苦しんでいる人々、途上国や島嶼国は緊急の資金を必要としている」と呼びかけた。
ロンドンの有力シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)のレナータ・ドワン副所長は「G20サミットが気候変動問題で進展しなかったことはCOP26の課題の大きさを浮き彫りにしている。多国間主義の断層が明らかになった。一つは国内政治と国際的な優先事項との間の緊張だ。これは石炭依存度を減らすという野心の欠如に現れている」という。
「もう一つは先進国と途上国の緊張関係だ。G20は50年までに排出量をゼロにするという先進7カ国(G7)の公約を支持することも気候変動対策資金の動員を加速することもできなかった。グラスゴーが成功するかどうかはこれらの断層をどれだけ埋めることができるかにかかっている」と指摘する。
2024年に石炭火力発電を全廃するイギリス
英政府は従来の目標を1年繰り上げ、24年10月に石炭火力発電を全廃する方針を掲げる。昨年、電力構成における再生可能エネルギーの割合は風力24.2%、バイオエネルギー12.6%、太陽光4.2%、水力2.2%の計43.1%。原発は16.1%。石炭火力発電はわずか1.8%だ。石炭火力発電への依存度は12年には40%を占めていた。
石炭を原動力に産業革命を起こしたイギリスは今では「脱石炭」の先頭集団を走る。日本の電気事業連合会の「主要国の電源別発電電力量の構成比」(18年時点)によると、G7の石炭依存度は、「脱原発」を宣言しているドイツが最も高く37.2%、次いで日本の32%、アメリカ28.6%、イタリア10.7%と続く。
東日本大震災の福島原発事故で原発が使えなくなり、日本の石炭依存度は一気に増えた。しかし福島事故は石炭火力発電プロジェクトを海外に輸出する言い訳にはならない。国際環境団体「エンドコール(脱石炭)」によると、最大の海外支援国は中国で4万2220メガワット、第2位が日本で2200メガワット。チェコ、ロシア、韓国は各1200メガワットだ。
日本の菅義偉前首相は昨年10月、バイデン大統領主催の気候変動サミットで「温室効果ガス排出量を30年度までに13年度比で46%削減する」と宣言した。しかし環境NGO/NPOのネットワーク「気候ネットワーク」は「日本政府は国内で石炭火力発電の新増設を容認し続けており、既存の石炭火力を今後も維持する方針だ」と指摘する。
「10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画は30年時点の発電量のうち19%を石炭で賄う方針だ。今年のG7サミットで海外の石炭事業支援を21年末で終わらせるという合意がなされたが、既存案件であることを理由にバングラデシュのマタバリとインドネシアのインドラマユにおける石炭火力発電事業を撤回していない」
「今もなお脱石炭方針を持たない日本政府は今回のCOP26でも厳しい批判にさらされることになる。日本が脱石炭の国際的コンセンサスを打ち出そうとするグラスゴー会議の努力に水を差すことは許されない。日本はこのCOP26でこそ脱石炭の覚悟を決め、30年までの国内の石炭火力フェーズアウトを決断し、海外2案件の中止を発表すべきだ」という。
ジョンソン首相は先進国は30年までに石炭火力発電の廃止、途上国も40年までの廃止を呼びかけている。10月13日に行われた岸田文雄首相との電話会談では「COP26サミットに向け再生可能でクリーンなエネルギーへの世界的な移行を支援するため国内の石炭火力発電の廃止に関する日本の新たな誓約」を期待した。
総選挙で単独過半数を確保した岸田文雄首相はCOP26に“弾丸出席”するものの、「50年ネットゼロ」が焦点となるG20やCOP26の日程より、支持率が下がらないうちに選挙をしたい思惑を優先したのは否定し難い。日本は脱炭素経済にコミットできるのか。
COP26で「脱石炭」を鮮明に打ち出すことができなければ、日本の国際社会における存在感がますます薄れていくことを筆者は恐れる。
(おわり)
