【押し紙裁判会見】新潮社・黒藪氏敗訴「プライドがあるなら言論で主張すべき」 - BLOGOS編集部
※この記事は2011年05月30日にBLOGOSで公開されたものです
週刊新潮が報じた、新聞発行部数を水増しする「押し紙」の記事で名誉を傷つけられたとして、読売新聞東京・大阪・西部の3本社が、新潮社とジャーナリストの黒薮哲哉氏に対し、5500万円の賠償などを求めた訴訟の判決で、村上正敏裁判長は「週刊新潮側の調査は正確性に疑問があり、客観的裏付けもない」とし、385万円の支払いを命じた。新潮誌面への謝罪文掲載要求は却下された。新潮社・黒藪氏は控訴の意思を示し、会見を開いた。【取材・構成 田野幸伸(BLOGOS編集部)】押し紙とは
黒藪:ご存知とは思いますが、「押し紙」について簡単にご説明しておきます。押し紙とは実際に配っている新聞を超えた部数を、新聞社が販売店に送りつけ、買い取らせている新聞のこと。例えば、新聞の読者が1000人いる販売所に1500部の新聞を押し付け、1500部の卸代金を新聞社が取る。
毎日新聞の例で言うと、2007年、大阪府の蛍池の販売所では2320部が卸され、実際の販売部数が746部だった。つまり1574部が余る。7割が押し紙だった。これが新聞社の感覚で言うと、押し付けた部数ではなく販売所が勝手に仕入れた「残紙」「積紙」なんて言う。では、どうやって採算をとるのかというと、2つ方法があって、1つは織り込みチラシを水増しする。チラシの広告費は仕入れに比例するので、2320枚分入る。この儲けで、仕入れ分を相殺する、しかしこれだけではまかない切れないので、もうひとつは新聞発行本社が補助金を出す。月に150万円ほどの額を出して、買い取らせる。なぜこんな紙のムダまでして、買い取らせるかというと、ABC部数(新聞雑誌部数公査機構の部数)にカウントさせて新聞の発行部数を多く見せる。それが媒体価値(広告の価値)になる。
判決を不服として控訴
黒藪:今回の週刊新潮の記事は、滋賀県のチラシ配布の会社が、大掛かりなマーケット調査をした結果を受け、新聞の実配布数などを調べた数値から、押し紙率を計算して、書いた。
データでは読売18.4%の押し紙率だったが、1997年から取材をしてきて、数々の証言や裁判の記録などを鑑みて、18.4%というのはかなり少ない数字で、少なくとも30%~40%は(押し紙率が)あると推測した。滋賀県というのは、新聞販売店の労働組合が強いところ、さらに中心メンバーが読売の販売店なのでなので、読売の押し紙率が18.4%と低かったのかとも思っている。
という内容を新潮に書いた。それが名誉毀損に当たるとして、今回訴えられました。
それと、押し紙によってどれだけ不正な利益を上げているかですが、4社の平均で、1年間で360億円と計算した。これも、争点になりました。
判決ですが、読売側の訴えがほぼ認められ、読売さんの完全勝利となりました。裁判所は、チラシ配布会社の市場調査を「非常にずさんなもの」とし、さらに、押し紙を回収している写真なども、見た目からは部数を判断できないと認められなった。読売新聞は販売店とあちこちで係争中で、その裁判で上がってきた証拠も提出したが、押し紙の裏づけにはならないとされた。
質疑応答
Q:押し紙裁判の特徴は、報道機関が紙面で反論せず、司法の場に判断をゆだねるということがある。それはなぜか?
A:今回は新潮社と私が被告、これ以外にも2つ読売から訴えられた。その2つはすでに私の勝訴で、1つは最高裁で確定、もう1つは高裁で勝って、最高裁に書類が送られているところ。言論に対しては、言論で堂々と反論して欲しい。先に訴えられた2つは、私のブログに書いたことについて、読売が訴えてきた。私のブログは1日に500~600件のアクセス。そういう小さいメディアに対して、1000万部のメディアが、何のために裁判を起こすのか、非常に疑問に思う。今回にしても。45万部の新潮に対して1000万部と遥かに大きい読売が、言論で戦わず、裁判に持ち込むのか。
Q:クロスメディアの問題があり、「押し紙」の問題は他の新聞各紙、テレビも報じない。大きなメディアが取り上げないから、一般の人に問題が伝わらない。さらにこれは、チラシを水増ししている広告主に対しては、詐欺なのではないか?
A:新聞社に対して係争になると、広告を拒否される恐怖感がある。分かっているけど我慢しているのが現状。
Q:読売はなぜ、今回黒藪さんを狙い撃ちで裁判を起こしたのか。
A:福岡県で読売と販売店の係争がずっと続いてきた。私はそれをずっと取材してきた。裁判は販売店が地裁→高裁→最高裁と勝訴したのだが、この裁判を何度も新潮で取り上げた。それが読売にとって頭が痛かったのではないか。
Q:新聞の言論が「押し紙」によって歪められる可能性は?
あると思います。「押し紙」という違法行為をしているため、政府の弱点や不正な点を追及しようとすると、警察や公正取引委員会から、「押し紙にメスを入れるぞ」と脅され、書けなくなる危険性がある。政府は新聞の弱みを握っておくことによって、言論を統制することができてしまう。
敗訴判決直後の会見のためか、時折暗い表情を見せる黒藪氏 写真一覧
A:押し紙は昭和4年~5年ころからあったと記録が残っている。80年前から。
Q:販売部数が徐々に減っていく中で、今までどおりの発行部数を引き取らなければいけない、といったことはあるのか?
A:あります。毎日新聞の例ですが、景気のいいときは部数はどんどん伸びた。ただしこれは景品をばら撒いて増やした数字。昭和30年代には総額2億円の福引企画などを読売もやっていた。毎日新聞はもう景品を配る体力がなくなり、どんどん部数が落ちて行き、押し紙が増えていった。
Q:朝日も日経に続いて電子版を始めた。個別宅配制度から電子版に移っていけば、
押し紙はなくなるのでは? この不正なビジネスモデルはどれくらい続くのか?
A:長くないと思います。限界に来ていると思います。ですが、読売1000万部、朝日800万部、この数字を電子版で継続するのは難しいと思います。
Q:コンビニや駅売りの新聞にも「押し紙」制度はあるのか?
A:ちょっと、知らないんですが、たまたま読売の「即売部数(駅やファミリーレストランなどの部数)」を調べていたら、ここ数年でかなり増えている実態がある。これは押し紙ではなく、見本紙として入れているんだと思う。
Q:ファミレスやビジネスホテルでも新聞が配られているが、あれは?
A:今、この問題を取材している。まだ取材途中だが、すかいらーくグループのファミレスは「見本紙として置かせてくれ」と言われて置いていた。この部数は即売部数に含まれる。東横インにも読売が入っている。これを問い合わせたが、東横インは「回答しない」との事で、どこから新聞が入っているかはわからなかった。
Q:押し紙が2割から3割ある、という事は、それをやめれば輪転機は2割~3割の節電になるのでは?
A:電力は詳しくないですが、常識で考えればそうなるでしょう。それに新聞は森林を伐採して作りますから、環境保全のためにも押し紙はやめたほうがいいでしょうね。
Q:裁判で原告側から言われて印象に残っている言葉は?
A:特にないが、理不尽だなと思ったのはメディアの問題、言論表現の自由を、司法にゆだねるというのが、世界を代表するメディアのすることかと。非常に不愉快だった。読売の紙面で、論争をしたかった。
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黒藪氏は「情けない。物を書いている者として、プライドがあるなら言論で主張すべきだ」と、メディアとしての読売新聞を痛烈に批判した。数十年後には「木を切って紙にして印刷して家に配る」という非効率なシステムは絶滅しているかもしれない。その日が来るまで、新聞社との戦いは続くのであろうか。
