■安倍を見捨てた「安倍応援団」

「悪夢」とまで呼んだ民主党政権からの奪還を達成してから7年半、安倍晋三総理がいよいよ岐路に立っている。アベノミクスで雇用や経済を回復し、外交や防衛面で存在感を発揮してきたものの、自民党総裁任期の満了が約1年後に迫る中で支持率が急落しているためだ。

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新型コロナウイルスの「第1波」を乗り越え、態勢立て直しを図るべき局面に入っているが、この間に政権を支えてきた「応援団」の多くは手のひらを返すように離れ、次期衆議院選挙や「ポスト安倍」を見据えて動き出している。政界の裏切りと非情さを感じながら安倍総理の脳裏に浮かぶのは「退陣」か、それとも「衆議院解散・総選挙」かの2枚のカードだ。これまで拙稿は「伝家の宝刀」である解散カードを行使し、国の新しいカタチを問うよう求めてきたが、はたして安倍総理はいかなるカードを選択するのだろうか。

6月初め、ひそかにセットされた政権幹部たちのスケジュールに自民党衆議院議員の1人は動揺を隠せなかった。「いよいよか」。その日程とは、すきま風が吹いてきた安倍総理と菅義偉官房長官との6月19日の会食を指す。

■6月19日、ついに政権が動きだした

政権トップとナンバー2が同じ釜の飯を食うのは当たり前のように見えるが、昨年秋以降にあらわれた2人の亀裂は今年に入って深刻化していたからだ。総理最側近の今井尚哉総理補佐官ら「チーム安倍」と、菅氏側近の和泉洋人総理補佐官ら「チーム菅」の摩擦はコロナ危機下でも目立ち、「両チームは情報共有をしないどころか、陰で互いを批判する険悪な雰囲気」(官邸関係者)になっていたとされる。

この会食が注目される理由は、2012年末の第2次安倍政権発足から一貫して安倍総理を支えてきた麻生太郎副総理兼財務相、甘利明党税調会長(前選対委員長)といった盟友が同席する点にある。この2人と菅官房長官は、消費税増税の判断や地方選への対応などで意見を異にしてきた経緯があり、「ポスト安倍」をめぐる対立も表面化している。安倍総理や麻生副総理らは岸田文雄政調会長への「禅譲」を練るのに対し、菅官房長官は岸田氏を評価せず、他の候補を模索する姿勢を崩していない。

■「もう疲れたよ…」と漏らす安倍晋三

関係がこじれた4人が顔を合わせざるを得ないのは、それだけ安倍総理が危機感を持っていることの証左だろう。そのポイントは3つある。1つ目は、6月17日に閉会する通常国会の直後に、自民党の河井克行前法相と案里参議院議員夫妻への立件が予想されていたことだ。夫の克行氏は菅官房長官に近く、昨年9月の内閣改造時に菅官房長官が法相にねじ込んだとされる「チーム菅」の筆頭格といえる。昨年夏の参議院選挙で地元政界に現金を配った疑惑をめぐり、検察当局は詰めの捜査を急いでおり、6月18日に公職選挙法違反(買収)の疑いで、河井前法相夫妻を逮捕した。

新聞記者らとの「賭けマージャン」発覚で辞任した東京高検の黒川弘務前検事長をめぐる問題や、コロナ対応で支持率が急落する中で河井夫妻の疑惑が直撃すれば、安倍政権を揺るがす大ダメージになるのは必至で、この局面は政権の最重要人物で腹を合わせるタイミングとの判断に傾いたようだ。安倍総理は最近、周囲に「もう疲れたよ……」と漏らすシーンもあり、自身の退任時期や「ポスト安倍」を含めた意向が示されるタイミングが近づいているとの見方が出ている。

■コロナで人気が上昇した日本維新の会に戦々恐々

もう1つのポイントは、コロナ対応で人気が上昇した大阪府の吉村洋文知事が副代表を務める日本維新の会との関係にある。維新の政党支持率は世論調査によっては野党第1党の立憲民主党を抜き、マスコミで吉村氏を礼賛する報道が目立っている。最近では、保守系言論人らが主導する大村秀章愛知県知事のリコール(解職請求)運動に吉村氏が“電撃参戦”し、ツイッター上で大村氏との「バトル」を展開。7月5日投開票の東京都知事選でも、自民党幹部が支援する現職の小池百合子都知事に維新が対抗馬を擁立し、「吉村人気の勢いをかりて、維新が愛知県と東京都を乗っ取りにきている」(全国紙政治部記者)とまでいわれるようになっている。

これまで自民党と維新は、同じ保守政党として立憲民主党や共産党と対峙し、左派勢力との戦いで連動してきたが、政党支持率が高まるにつれて維新が本格的な「全国展開」を目指す中、両党は各種選挙でガチンコ対決を余儀なくされる。菅官房長官は維新創業者の橋下徹元大阪府知事や松井一郎大阪市長との良好な関係を崩していないが、内閣支持率や自民党の政党支持率が低下する今、これまでと同様の対応をしていけば維新を利することにつながり、自民党内にはその反動から「菅包囲網」が出来上がる可能性も指摘される。

■「安倍・麻生VS菅・二階」の全面戦争

ある自民党中堅議員は「テレビに出ているコメンテーターは『維新寄り』の人物も多く、ワイドショーからスポーツ紙まで維新を持ち上げる報道が目立っている。1日も早く維新と決別し、徹底的に維新を潰しにかかるべきだ」と憤り、自民党ベテラン議員も「自民党が本気で戦わなければならない相手が維新になったのは間違いない。自民党大阪府連を政権や党本部が全力で支え、総選挙で維新と対峙していく必要がある」と語る。

3つ目のポイントは、「ポスト安倍」をめぐる動きが活発化している点だ。各種世論調査で「次の総理にふさわしい政治家」のトップを走る石破茂元幹事長は「けじめがついたら職を辞すのも1つの在り方だ」などと安倍総理批判を繰り返してきたが、最近はその言動が激しさを増してきている。6月8日には党最高実力者の二階俊博幹事長と会談し、石破派の9月の政治資金パーティーでの講演を依頼。今月10日発売の月刊誌『文藝春秋』のインタビューでは、菅官房長官を「地方への熱い思いを持っている」と評し、秋波を送った。菅氏はこの点について6月10日の記者会見で「個々の記事へのコメントは控える」と煙に巻いたが、もしも石破氏が二階派や菅グループの支援を受けて次の自民党総裁選に臨むようなことがあれば、それは「安倍・麻生VS菅・二階」の全面戦争を意味する。

■ポスト安倍について4人が腹を割って話した結果は

安倍総理が推す岸田政調会長は「新国際秩序創造戦略本部」を発足させ、コロナ後の新しい国のカタチを描くことを目指すが、安倍総理の出身派閥・細田派の下村博文選対委員長や稲田朋美幹事長代行は「新たな国家ビジョンを考える議員連盟」を立ち上げ、ポスト安倍の一角に入る土台づくりを始めている。

8月には連続在任記録が最長となる安倍総理の思いとは裏腹に、走り出したら止まらないのが政治家たちの「さが」だ。安倍総理や麻生副総理は、第1次安倍政権や麻生政権時代に反旗を翻してきた政治家や著名人、コメンテーターらのことは忘れておらず、誤解や疑心暗鬼からも政権崩壊につながることも熟知している。支持率低下を受けて著名人らが維新に傾く中、6月19日の「4者会談」で安倍政権の今後やポスト安倍、解散総選挙などの重要テーマについて腹を割って話す覚悟を持ったようだ。

■ここにきて自民党総裁選急浮上

退陣か、態勢をなおして衆議院解散・総選挙を断行するのか。安倍総理の胸中はいまだ定まっていないように映るが、3枚目のカードとなる「ウルトラC」として解散総選挙前に自民党総裁選を実施する妙案がささやかれている。言うまでもなく自民党総裁選は「メディアジャック」が可能なキラーコンテンツで、解散前に総裁選を行い露出が増えれば自民党の政党支持率が回復し、総選挙への環境も整う。コロナの「第2波」到来が予想される前に総裁選と総選挙を断行する「ウルトラC」ならば、先の「3つのポイント」をクリアすることができるとの見方もある。

そのタイミングが今秋ならば、「ポスト安倍」をめぐる党内抗争は早期に収拾できる上、就任直後の高い支持率で解散総選挙を断行すれば、11月の米大統領選で再選を目指すドナルド・トランプ氏とともに日米の新たな通商・外交・安全保障関係の新機軸を打ち出すことができると同時に、維新の悲願である11月1日に予定される「大阪都構想」の住民投票にぶつけることも可能になる。自民党大阪府連は府議団と市議団で「都構想」への対応にバラツキも見えており、その解消にもつながるとの思惑も見える。

■アフターコロナの日本を牽引するのは…

6月19日の会食は4人の「手打ち式」とともに、今後の政局を大きく決める時間となりそうだが、新型コロナウイルスの感染状況や朝鮮半島の不安定化など不確定要素も多く、その決断は7月の都知事選以降、つまり早くて8月ごろになりそうだ。水面下で繰り広げられる政局を経て、「アフターコロナ」の日本を牽引するリーダーは誰になるのか。もはや、何が起きても驚くわけにはいかない局面を迎えている。

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麹町 文子(こうじまち・あやこ)
政経ジャーナリスト
1987年岩手県生まれ。早稲田大学卒業後、週刊誌記者を経てフリーランスとして独立。プレジデントオンライン(プレジデント社)、現代ビジネス(講談社)などに寄稿。婚活中。
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(政経ジャーナリスト 麹町 文子)