サッカーはスタンドのどの位置で観戦するのが一番か。ピッチ全体を最も均等に見渡しやすい場所は、正面スタンド、あるいはバックスタンドの、ハーフウェーラインの延長上あたりになる。その上階席からピッチを俯瞰すれば、おのずと試合のゲーム性は明らかになる。

 熱烈なサポーターは「ゴール裏が一番」と言うかもしれないが、そこでは105mある縦幅をイメージしにくい。68mある横幅の方が広く見えてしまう。

 どこで観戦するかは、その競技の本質を探ろうとしたとき、重要な問題になる。そしてそのベストポジションは競技毎で違う。スタジアムの造りによっても変わってくる。

 ラグビーはどうなのか。ここだ! と言い切るほどラグビーに詳しくないが、サッカーほど俯瞰にこだわる必要はなさそうな気がする。展開もさることながら、接近戦もまたラグビーの魅力だからだ。その接触プレーには、サッカーより見るべきものがある。ラグビーの迫力を堪能したいなら、スタンドの上階席より、ピッチサイドの方が観戦に適している。

 しかし、ピッチとスタンドとの間にトラックがあるスタジアムでは、その魅力は減退する。スタンドとピッチとの距離が近い、トラックのない専用競技場を欲しているのは、ラグビーの方なのかもしれない。サッカーが一番に欲しているのは、俯瞰に適した角度、視角になる。

 したがって、トラック付きの総合競技場のゴール裏最前列あたりで観戦することになったら、僕はチケットを誰かに譲るかもしれない。

 来年、無事に開催されるのか予断を許さない状況にある東京五輪だが、そのチケットの販売方法は、いささか殿様商売的だ。座席を選択できない所に問題がある。

 当たったか、外れたか。チケットの当選確率はかなり低いので、当たった人はその分だけ得意げに報告してくる。「男子サッカー決勝のカテゴリーAが当たった」とか「女子サッカー決勝のBが当たった」とか。

 千円や2千円ではない。価格は万単位だ。にもかかわらず、その先、具体的な観戦ポジションは明らかになっていない。トラック付きスタジアムのゴール裏最前列付近に座らせられる可能性を残している。

 視野、視界、カメラ的に言うところの画角に対して、サッカーのカバーエリアが広すぎることも、観戦場所にこだわりたくなる問題に思える。生観戦するには、サイズ的に少し大きい。

 一方、視野、視界に対して、ちょうどいい大きさに感じるのはテニスだ。スタンドのどこに座ることになっても、あるレベルを保っている。泣きたくなるような席はない。

 アイスホッケーもそれに近い。サッカー同様、スタンドの上階に座れば展開はよく分かる。しかし、リンクサイドでの観戦もそれはそれで悪くない。氷上の格闘技なので、ラグビー同様、選手が激突する迫力を、間近で堪能することができる。

 同じサイズの中で行われるショートトラックもしかり。スタンドのどこで見ても楽しめる。当たり外れの振り幅が狭い競技だ。テレビ観戦より現地観戦をオススメしたくなる。一方、フィギュアスケートは、現場ではちょっと閑散として見える。それは特にシングルについて言えることだが、1人で演技するには舞台が広すぎる。余白が目立つのだ。

 アーティスティックスイミングにも似たことが言える。デュエットより、チームの方が現場では映える。96年アトランタ五輪まで行われていたソロになると、かなり寂しく見えた。50mプールが必要以上に広々と見えてしまった。現場観戦向きと言うより、テレビ向きのスポーツに見える。 その究極は卓球だ。台の大きさは274センチ×152.5センチ。決勝は、それが場内に1台だけ置かれることになる。東京五輪では東京体育館が、その会場に充てられているが、1万人以上を収容するスタンドと、わずか1台の卓球台との関係はアンバランスだ。2階席に座る観衆が、双眼鏡なしに試合の推移を見守ることは難しい。バードウォッチングするような構えで試合を見なくてはならないのだ。入場料がどれほどなのか定かではないが、卓球は現地観戦に適さない一番の競技かもしれない。