レコード店やレーベルに大打撃、音楽業界で起きている流通システム破綻の実情
昨年秋、テネシーに拠点を置く音楽ソフトの総合ディストリビューターIngram Entertainmentに務めるSteve Harkinsは、いつものように届いたレコードとCDのチェックをしていた。だがその日、Ingramのサプライヤーから送られてきたのはレコードではなく、車のワイパー用洗浄液のボトルの山だった。「カスタマーサービスに電話すると、向こうは平謝りしてた」Harkinsはそう話す。「こう言ってやったよ。『どうせならカーワックスも一緒に送ってくれりゃ良かったのに』ってね」
こういった経験をしたのはHarkinsだけではない。今年1月、ニューヨークのポキプシーにあるレコード店のオーナーは予期せぬ事態に直面した。その日、Darkside Recordsの駐車エリアに予定されていない配送トラックが到着した。「運転手がこう言ったんだ。『風変わりなお届けものですよ』」オーナーのJustin Johnsonはそう話す。店の前に停められた大きなトラックから運び出されたのは、わずか4枚のレコードだった。それは2カ月半前に発売された、ストーンズの『レット・イット・ブリード』の50周年記念盤だった。
オレゴン州ポートランドにあるレコード店、Music MillenniumのオーナーTerry Currierは、昨年10月1日にUniversal Music Groupに約700点の商品を注文した。ホリデーシーズン前に入荷するよう余裕を持って注文したつもりだったが、そのどれひとつとしてクリスマスの繁忙期までに届くことはなかった。
過去10カ月の間にCDやレコードの販売店の多くが、こういった不可解で腹立たしく、商売を脅かす出来事を経験している。彼らの大半は、そういった状況が昨年4月にWarner Recordsがとった行動に端を発していると考えている。同社はレコードやCDの流通業務をDirect Shot Distributingという、既にUniversal Music GroupとSony Music Entertainmentの両社と提携していた企業に一任した。その時から、アメリカ市場におけるCDとレコードの大部分の流通をいち企業が担うという状況になった。20人以上のマネージャー、レコード店オーナー、レーベルのエグゼクティブ等に取材を行ったところ、残念なことに、Direct Shotのオペレーションは当時既にパンク寸前だったことが判明した。「システムが崩壊してしまった」15年にわたってレコード販売に従事しているDavid Azzoniは、長年見過ごされてきた流通ネットワークの脆弱性についてそう話す。
結果として、メジャーを含む多くのレーベルが現在、かつては基本中の基本だったアルバムをレコード店に納品するというタスクの達成に悪戦苦闘している。その影響は過去のクラシックと新作の両方に及んでいる(取材に応じたあるレコード店オーナーによると、去年はブラック・キーズやベック、シガレッツ・アフター・セックス等の新作が入荷しなかったという)。4月にはレコード・ストア・デイを控え(編注:新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、6月20日に開催延期)、各レコード店は1年で最も売上が見込める日に商品が不足するのではないかと不安に思っている。またメジャーに比べてフィジカル版のセールスに頼る部分が大きいインディレーベルやアーティストたちは、現在の状況に伴う損失の埋め合わせや、作品のリリースプランの変更等を強いられている。
