「仕事辞めたい」。

気まずい人間関係や少ない給料に悩んだとき、そんな思いが頭をよぎることはありませんか?

しかし、辞めたら「甘え」と思われてしまうんじゃないか、履歴書に傷がついてしまうんじゃないかと、結局はズルズルと決断を先送りしてしまいがち。

そこで今回は、就活サイトを運営する「ワンキャリア」のPRディレクターで、社外でも執筆や講演、ソーシャルムーブメントなどを手がける、寺口浩大さんに取材!

「仕事辞めたい」と悩むR25世代に向けて、具体的なアドバイスをいただきました!

〈聞き手=いしかわゆき〉


【寺口 浩大(てらぐち・こうだい)】1988年生まれ。京都大学卒業後、株式会社三井住友銀行にて企業再生、M&A関連の業務に従事。デロイトトーマツグループで人材育成支援後、現在では株式会社ワンキャリアの経営企画でPR DirectorとしてPR戦略設計に従事。その他、社外でも執筆や講演のほか、ソーシャルムーブメント、コミュニティプロデュースなども手がけている

「仕事辞めたい」と思うのは自分の市場価値を確認するチャンス

いしかわ:
今回は「仕事辞めたい」と思ってる一方、「ただの甘えなのかも」と悩んでるR25世代にアドバイスをいただきたいのですが…

寺口さん:
そういう人は、とりあえず「辞めます」って言っちゃえばいいんじゃないですか?


いいんですか!!

寺口さん:
だって、それで「オッケー、わかりました!」って言われたら、その会社では存在価値がないことがすぐにわかるじゃないですか。

逆に止められたら価値があるかもしれないってことだから、条件を提示して交渉できますよね?

いしかわ:
ものすごくわかりやすいけど、それでいいんですかね…!?

寺口さん:
今の時代、「辞めたい」と思えることは逆にチャンスだと思っていますよ。

だって、かつては同じ場所に留まることがリスクヘッジだったけど、今の変化の激しい時代には、終身雇用もないし、安定も保証されていない。

変化のない環境に留まっているほうがよっぽどリスクな場合も多いです。

いしかわ:
留まっているほうがリスク…?

寺口さん:
1つの会社に中途半端に留まっていると、次第に社会のための仕事ではなく“会社のための仕事”をするようになっていきます。

しかも自分が持っているスキルが社外でも通用すると思い込んでしまう。でも、会社で活躍している人が、社会で活躍できる人とは限らないんですよ。

その事実に気付いたとき、年齢を重ねた自分の市場価値は下がっていて、転職するなら年収を下げざるをえず、ますます転職しづらくなってしまう…ってことがよくあります。


こう見えて(?)株式会社三井住友銀行というお堅い会社に5年ほど務めていたという寺口さん

いしかわ:
辞めたくても辞められなくなってしまうのか…

寺口さん:
僕も初めての転職のとき、「すみませんが、もらいすぎですね。200万円は下げないと異業種にはいけないです」と言われてショックを受けたことを今でも覚えています。

とある東証一部上場企業の40代の部長が、自信満々で転職サービスに登録したら、紹介先がないと言われた話もありますね。

だから「会社を辞めたい。でもほかの場所で活躍できるのか?」と、若いうちに自分の市場価値を考えるようになることは、それだけで一歩前進なんですよ。

いしかわ:
なるほど。

寺口さん:
僕は今も転職サイトの「ビズリーチ」などを毎日のように見ています。どんな会社が今の自分を欲しいのか気になるので。

面白いことに、僕の場合は30歳になったらわかりやすくオファーがガクッと減りました。歳をとるほど、チャンスの幅ってなくなっていくんですよね。

だから、毎日モヤモヤと過ごしているくらいなら、スパッと辞めて次に行ったほうがいいですよ。辞めちゃえ辞めちゃえ!



抱いてる不満がコントロール不可なのかはチェックしたほうがいい

寺口さん:
ただ、抱えてる不満がコントロール不可なのかはチェックしておいたほうがいいでしょう。

いしかわ:
どういうことですか?

寺口さん:
たとえば上司との人間関係に悩んでいたとして、それは本当に転職しなきゃいけないほど解決不可能なことなのかを考えてみるんです。

抱えている不満がコントロール不可なら辞めたほうがいいですね。

いしかわ:
どうやったら「これはコントロールできない」ってわかりますかね? 判断が難しい気がします。

寺口さん:
それを確かめる方法として、「辞めるまでにやってみる100項目」を紙に書き出すのがオススメです。



寺口さん:
たとえば、上司との関係が悪くて仕事を辞めたいと思ったのなら、関係の改善のためにできることをリストアップしてみるんです。

「企画を10回提案して熱意を示してみる」とか、「飲みに誘って本音で話してみる」とか。

行動を書き出してみて、なかなか行動が思いつかなければ、それは今の自分にはコントロールできないということです。

いしかわ:
でも、そんなことする前にスパッと辞めてしまったほうがラクな気も…

寺口さん:
ちょっとした甘えで、辞めてしまったときに起こりうるのは、また同じ不満で辞めたくなってしまうこと。それを予防するための効果があるのでやったほうがいいですよ。

いしかわ:
なるほど。ちなみにリストにするだけでいいんですか?

寺口さん:
もちろん書き出したことを実行することが重要です。このリストを消化することには3つの意味があります。

1つは課題が解決されて辞めずに済むこと。このケースがけっこうあります。

2つ目は転職の理由を堂々と説明できるようになること。仮に転職するとして、面接で「前職を辞める理由」は必ず聞かれます。

もしそこで「改善しようとしなかったんですか?」と突っ込まれて、何も言えなかったら採用してもらえなさそうですよね。

いしかわ:
たしかに…では、リストを消化するもう1つの意味って何ですか?

寺口さん:
心の準備ができて仕事が楽しくなることです。



寺口さん:
「いつでも辞めてやる」って心の準備ができたら、仕事が楽しくなることが意外とあります。

新卒のとき、楽しそうに仕事をしている先輩がいたんです。立場が上の人にもズバズバとものを言って、いい意味でやりたいようにやってました。

その先輩に「どうしてそんなに攻められるんですか?」と聞いたら、「いつでも辞めていいと思っているから」と言われたんですよね。

いしかわ:
ヘンに気を使わずに済めば、前向きに仕事ができるようになるってことですね。

寺口さん:
はい。なので「辞めたい」と思ったら、とりあえずやれることをやってみるのは大事。

辞める気が失せたら、それはそれでいいと思いますし、辞めるとしても自分で決めたことをやりきっていれば、自分を「甘い」と責める必要もなくなりますからね!

「向いていないかも」と感じたら、確信を持てるまでやりきれば開き直れる

寺口さん:
転職するにあたって、注意してほしい点がひとつ。

そもそも100点満点の会社なんてないですからね?


ごもっともです

寺口さん:
会社選びの前提として、少なくとも選択の時点では100点満点の“正解”はないんですよ。

特に新卒のときはあれこれ吟味して会社を選びますけど、仕事って自分の選択を自分で正解にしていくプロセスも楽しむものだと思います。

「100点の会社を選んだぞ!」と思っている時点で、あとは減点法で評価が下がっていくだけです。

いしかわ:
自分で今いる会社を“正解にしていく”んですね…!

寺口さん:
そう。仕事を面白くするのは自分なんです。金もらってますからね。

ただ、仕事内容に向き不向きがあることも事実。まったく向いてない仕事を選んでしまったとしたら、面白くする難易度がかなり高くなってしまいます。それは意思決定のレベルが低すぎたと反省せざるを得ません。

僕がSMBCにいたとき、まさにその経験をしました。



いしかわ:
どんな経験ですか?

寺口さん:
初歩的な事務作業の「普通預金口座の申込書の書き方」が1年間覚えられなかったんです。

でも全力でやってたので、向いていないことに確信が持てました。そこで異動希望先では、できるだけ事務のない仕事を希望し、「明らかに向いていないこと」で苦しまなくなりました。

いしかわ:
「向いてないからしょうがない」と開き直ったんですね。

寺口さん:
本当に向いてないのかをとことん突き詰めたうえで、自信を持って「向いてない!」と誇ることは大事だと思います。

いきなり会社というチームを疑うのではなく、「自分はメッシなのにキーパーをやってないか?」とポジションを疑ってみると、職場への不満は異動という形でも解決できるかもしれません。

今は仕事が多様化してるので、仕事ができる/できないで考えるより、向き不向きで考えたほうが建設的です。

次の転職で失敗しないために「愚痴のイメトレ」をするといい



いしかわ:
もし異動ではなく転職するとして、失敗しないためにはどんなことに気をつければいいんですかね?

寺口さん:
まずは、冒頭でも話した「辞めるまでにやってみる100項目」を作り、やれることは全部やっておくこと。

これをやることで、辞めたい理由がかなり明確になるはず。自分が嫌なことと、今後の仕事に希望することを「言語化する」という行為は、次の会社選びに活きることなんですよ。

特に「ブラック企業」を見極めるのに使えます。

いしかわ:
どういうことですか?

寺口さん:
「ブラック企業」と言っても、世の中で言われている「ブラック企業」が自分にとって「ブラック」とは限らないじゃないですか。

僕も今の会社で遅くまで働くこともありますが、自由にやりたいことをやらせてくれるので超ホワイト企業だと思っています。

自分にとっての「ブラックの基準」をちゃんと理解していないと、またすぐに辞めることになってしまいますよね。

いしかわ:
なるほど。とはいえ、「いい転職になるだろう」という期待はどうしても抱いてしまう気が…

寺口さん:
それが心配なら、愚痴のイメトレをするといいですよ。



寺口さん:
「その会社に転職して3カ月後に居酒屋で自分が言ってそうな愚痴」のイメトレをするんです。

たとえば、「上司がこういうタイプで合わなかった」とか、「やりたいことがやれなかった」とか。

恋と同じで、一度「入りたい!」と思うと盲目になりがちですけど、このイメトレをすれば過剰に期待せずに済む。入ってからいざ不満に直面しても、想定の範囲内なのでそれほどダメージを受けないはずです。

いしかわ:
最初に期待しすぎると、ちょっとした不満でまた「辞めたい」なんて考えてしまうかもしれませんしね。イメトレ、とても良さそうです!

辞める罪悪感を和らげる「退職者の美学」

いしかわ:
でも、いざ辞めるとなると罪悪感を抱いてしまいそうです。せっかく採用してここまで育ててもらったのに、迷惑をかけるような形になってしまうわけですし…

寺口さん:
理解できます。一方で、僕のなかには「退職者の美学」があります。それは、会社でもらった借りは社会で返すこと。

たとえば僕が活躍して、「SMBC出身」と名乗ることで前職に恩返しができていると思っているんですよ。大切なのは、自分の名前で、社会で活躍している姿を見せること。そこでの経験で得たものがあるのは事実ですし、感謝しています。だから健全にリベンジしたい。

人材を採用・育成するのにはお金がかかりますから、辞めるときはちゃんとペイできていないことも多い。でも、それを過剰に申し訳なく感じる必要はないと思っています。

自分の意思決定レベルの低さを反省して、ちゃんと社会で返せばいい。

いしかわ:
そうか、そう考えると気が楽になりますね。



「社会不適合者」にしかイノベーションは起こせない

寺口さん:
ここまで自信満々に話してきましたが、実は「自分は社会不適合者なのかなぁ」と悩んでたことがあるんですよ。

いしかわ:
えっ、ご活躍されているのに。

寺口さん:
新卒で入ったSMBCでは、決まった時間に決まったことをするとか、マニュアルに沿って業務をこなさないといけないとか、そういうことがものすごく窮屈だったんです。

自分は「仕事そのもの」に向いてないんじゃないかな、いわゆる社会不適合者というやつなのかなって。そんなとき、キャリアアドバイザーに言ってもらえた言葉があるんです。

「社会不適合者しかイノベーションは起こせませんよ」って。



寺口さん:
要するに、システムを守る人は必要だけど、それを変えていく人も世の中には必要だということ。

SMBCのような既存の大きなシステムを守る仕事には、決まった業務を正確にこなす人が必要で、現職のワンキャリアでは既存のシステムに疑問を持ちアップデートできるような人が必要だったんです。

自分は後者の人間なんだと気づけました。

いしかわ:
社会不適合者だと思っていたけど、ワンキャリアが目指す社会ではむしろ“社会適合者”になれたってことですね。

寺口さん:
そうなんです。今では時代に合った新しいルールを、ソーシャルムーブメントで民主的につくっていくような仕事をしていて、社会不適合者だった自分を存分に誇っています。僕みたいなやつでも生きづらくない社会に近づけたいなと。

だから、ほかの社員が当たり前にやれていることができなくても、自分をダメだと責めないでください。

環境ひとつで、社会不適合者にも“社会適合者”にもなれるわけですから、自分をよく知って、最適なキャリアを選んでいってほしいな、と思います。



「仕事辞めたい」というのはネガティブな感情だと思っていましたが、実は自分自身を見つめ直すチャンスとしても捉えられるのだと考えさせられました。

今いる環境がすべてだと信じ込み、「自分は社会不適合者だ」と落胆するのはまだ早い。

この記事を読んだあなたが、自分にとってより良いキャリアを歩んでいけますように。

〈取材・文・撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)/編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉

寺口 浩大 F.... for liberty(@telinekd)さん | Twitter
https://twitter.com/telinekd?lang=ja

Kodai Teraguchi|note
https://note.mu/telinekd