短期間での転居要請は法的に認められる?

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 賃貸住宅の施工不良を発表したレオパレス21(東京都中野区)が、耐火性能に問題がある物件の入居者などを対象に、原則3月末までの転居要請を始めました。引っ越し費用や新たな住居の礼金などをレオパレス側が負担する、という条件が提示されているようですが、ちょうど引っ越しシーズンに入る上に、ヤマトホールディングス(HD)子会社の受注停止や運送業界の人手不足などで混乱が広がっています。

 レオパレスの件に限らず、家主からの引っ越し要請に関する問題は聞かれます。転居要請を巡る法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

入居者の合意なしでは困難

Q.そもそも、家主や管理者側の都合で、2カ月弱での転居を要請できるのでしょうか。

牧野さん「通常の賃貸契約では、入居者が受け入れて、合意がないと、短期間で立ち退かせることは難しいでしょう。

それぞれの入居者と家主との賃貸契約の契約形態や契約期間にもよりますが、定期借家契約でない通常の賃貸契約では、家主からの解約の申し入れ(退去要求)は、原則として期間満了の6カ月前までに 借家人に対して申し入れをしなければなりません。契約時に特別な期間の定めがない場合、解約の申し入れから6カ月が経過したときに解約の効力が生じます。

こうした事前通知に加えて、解約するには『正当事由』が必要です(借地借家法28条)。正当事由とは『退去してもらわないと家主側が暮らしができない』など、自己使用をする強い理由が貸主側にある場合や、建物の構造に危険があって改築工事が必要な場合などです。それでも、2カ月弱での転居要求はあまりにも一方的ですので、入居者が受け入れて、合意がないと短期間で立ち退かせることは難しいでしょう。

ただし、通常の賃貸契約ではなく、『定期借家契約』の場合は違います。定期借家契約は、契約で定めた期間が満了すれば、更新されずに契約が終了します。『正当事由』は必要ありません。契約終了後であれば立ち退いてもらうことはできますし、入居者は転居を拒否できません」

Q.転居要請を拒否して入居を続けた場合、どのような法的問題が出てくるでしょうか。

牧野さん「建物の構造に危険があって改築工事が必要なのに居住を続けた場合、危険な建物の構造により入居者側に損害が発生しても、その賠償請求を家主へ行うことが難しくなるでしょう」

Q.転居を受け入れた場合、家主や管理者側の都合で転居することに対して、どこまで費用を請求できるのでしょうか。

牧野さん「転居を受け入れる条件として、転居に要する費用の請求が可能でしょう。例えば、新しい物件を借り入れるために必要となる敷金や礼金、仲介手数料、旧賃料との差額、引っ越し費用などです」

Q.住居探しや引っ越しのために仕事を休まざるを得なくなった場合、休業補償などは請求できるのでしょうか。

牧野さん「敷金や礼金など前述の費用に加えて、引っ越しのために仕事を休む必然性がある場合、合理的な休業補償も請求できる可能性がありますが、『土日に引っ越しすれば仕事を休む必要がない』と反論されることが考えられ、実際に休業補償を請求することは難しいでしょう。また、もし入居者が事業を営んでいる人の場合、通常の立ち退き料に加えて、営業損失の補償も請求できる可能性があるでしょう」

Q.転居を要請されたことによる慰謝料は請求できるでしょうか。

牧野さん「慰謝料(精神的な損害賠償)の請求は、転居を強いられたことが原因で精神障害や傷病を患った因果関係を証明する必要があり、一般的には難しいでしょう」

Q.多数の物件を持つ管理者の一部物件で防災上などの問題があり、自分の入居物件に問題があるかどうか分からない状況が長引いた場合、精神的苦痛に対する慰謝料を求めることはできるでしょうか。

牧野さん「人によってストレスを感じる程度が異なるので、『一般人であれば、ストレスから疾病を罹患(りかん)するであろう』という因果関係を証明する必要がありますが、因果関係を証明できれば、民法上の不法行為により、慰謝料(精神的な損害賠償)を請求できる可能性があります」

Q.賃貸住宅の退去要請を巡る判例、事例を教えてください。

牧野さん「立ち退き料の相場を数値化することは非常に難しいのですが、立ち退き要求に当たって、家主は入居者に対して6カ月前までに退去の告知を行う必要があることから、この期間に相当する家賃6カ月〜12カ月分を立ち退き料として支払うことで、『正当事由も備えている』として、転居について和解に至ったケースがあります。

また、老朽木造アパートの再開発計画による立ち退き要求で、賃料30カ月分の立ち退き料150万円を提示して、正当事由も備えていると判断されたケースもあります(2011年6月23日東京地裁判決)」