芸能界に飛び込んで10年。菅田将暉として生きる自覚が芽生えた。

撮影/平岩 享 取材・文/新谷里映 制作/iD inc.

「コウちゃんはカッコよくなきゃいけない」
――この映画で演じた長谷川航一朗(通称:コウ)は、神主一族の跡取り息子。見た目や行動から尖った青年に見えますが、実はとても繊細なキャラクターでしたね。
原作者であるジョージ朝倉さんほど、コウちゃんのことを理解できたかどうかはわからないですが、漫画原作や映画の台本を読んで感じたのは――自由で、孤独で、品があって、すごく野生味があって、エッジが効いているけど強さだけではない繊細さもあって。地主の息子なので祭りで踊っていたりもする、そういう青年です。
――どこか神秘的でもありますよね?
そうなんです。夏芽(小松菜奈)とコウちゃんって、ロミオとジュリエットとかアダムとイブのような、ちょっと神話的な感じでもある。映画のなかでそういうふたりになれたらいいのかなぁ、というのはありました。ただ、その雰囲気を出すにあたっては、頭でこうしようああしようと考えてもどうにもならないところもあって……。
──では、どのように役作りを?
山戸(結希)監督からシルエットに関して細かくディテールまで要望はあったので、それに沿いつつ、中学校ブロックと高校ブロック、そして事件の境目をしっかり演じて、あとは楽しもうと思いました。あっ、でもひとつだけはっきりとわかっていて確かだったのは、コウちゃんはカッコよくなきゃいけない、ということでした。


――カッコよかったです。目を奪われるってこういうことなのかなぁと思いました。
よかった(笑)。コウちゃんは、誰が見てもカッコよくなきゃならないけれど、気持ち悪いヤツになりかねないキャラクターなんですよね。
――気持ち悪い、というのは?
漫画のなかのコウちゃんの細くて美しい感じも、夏芽とのやりとりも、漫画のなかのふたりだから受け入れられる。現実世界のごく普通の人たちだったら、ふたりで勝手にやってろよってなると思うんです(苦笑)。そうならないためにも、コウちゃんが「神さん」と言われるようなオーラ、カリスマとも違う神聖なオーラ、「そういうオーラよ、出ろー!」っていう気持ちで演じていました。
――夏芽のセリフにもありますよね。コウちゃんが光っている、発光していると。
そのシーンの撮影現場で、小松さんが「どうやってコウちゃんを光らせるの?」って聞いてきて(笑)。

――なんて答えたんですか?
僕はね、ホタルじゃないんだよ、だからどうやって光らせようか? って話していたら、現場のスタッフさんたちが海にライトを当てていて、ああいうことかと(笑)。
――(笑)。でも、発光しているように、見えました。コウちゃんの内側から何か発している感が伝わってきましたが、そのシーンにおいて、先ほど言っていた監督からの“シルエットに関してのディテール”とはどんなことだったのでしょうか?
僕自身はもともと肌が白くて骨も細めなので、痩せたらコウちゃんの見た目のあの感じに近づけるんじゃないかなって。何キロ減量したのかは把握していないですが、あの時期はかなり細かったです。この前、メイキングの写真や映像を見ていたら、ものすごくガリガリでびっくりしました(笑)。


――たしかに、身体のラインはもちろん、頬のあたりはかなりシャープ。雰囲気がぜんぜん違いましたね。
ですよね。痩せることにこだわったのは、原作漫画を初めて読んだとき、初めてコウちゃんの画を見たときに、彼の危なっかしさはどうしてこんなにもヒリヒリするんだろう? どうしてこんなに魅力的なんだろう? と思ったから。気づいたのは、関節と関節のあいだが細くて、でも野生的で、その感じがヒリヒリさせているんじゃないなと。演じるときにそれを表現したいって思ったんです。
――そうやって役に近づいていくことは、面白いこと?
近づいていくというよりも、作品を作れることが面白くて。演じているときは苦しさもありますし、特に今回は17日間の撮影というタイトなスケジュール。毎日、撮影が終わると、みんながみんな「今日も奇跡的に撮影を終えたね」と言い合っていて。だからこうして公開できたことが“奇跡”なんです。それにしても、みんな余裕がなかった……ですね。
――菅田さんも?
僕も、余裕なかったです。

「コウちゃんと夏芽の“唯一無二感”を出すために」
――きっと、その余裕のなさもうまく映画に取り込まれているというか、だって恋をすると余裕なくなりますからね(笑)。
そうですよね(笑)。お芝居においての恋愛感情って、すごく難しいんです。その人(相手役)を好きになれば成立するかというと、そうでもなくて。しかも(自分にとって)初めてのラブストーリーは、こういうちょっと変わったラブストーリーだし……。
――王道ではないかもしれないですが、すごく菅田さんらしいラブストーリーだなって思いました。
あ、それは嬉しいです。
――若さゆえの“身を焦がす”ような恋の感情については、自分のなかから引っ張ってきたのでしょうか?
初めてふたりが出会って恋に落ちる設定であれば、順撮りであれば、「よーい、スタート!」から始められるけれど、映画の撮影はそういうわけにはいかなくて。そもそも順撮りではないですし。お互いが惹かれあっていたとしても、恋愛感情は人それぞれなので、(相手の気持ちを)確認しあっているように見えて、実は共有できていないものなんじゃないかなとも思う。それを役として作ろうとすると、すごく難しい。

――コウちゃんと夏芽の恋愛としては、どう意識されました?
お互いに(出会った瞬間に)運命めいたものを感じているけれど、さっき言ったみたいに、コウちゃんと夏芽はどこか神話的。なので、海中で首を絞めたりとかそういうところでふたりの独特な恋愛観が出せていると思います。
――水中のシーンは、たしかに神秘的で独特な愛の表現でした。
あと、あの海もそうですけど、ロケ地、和歌山という土地に助けられました。那智勝浦の海と山はすごくキレイだったし。泊まっているホテルは山間にあって、朝起きて窓を開けると、目の前に山と海が広がって見える。そういう環境にいて、空気を吸っていると、自然に(この役に)身体を委ねられたというか、そんな現場でした。
――ハードな現場だと、なおさら自然が癒しになりますよね。観客としては、コウちゃんと夏芽に憧れたり、自分の初恋を重ねたりしますが、菅田さんは?
演じるうえで、たとえば初恋のときに抱いた感情を引っ張り出してきたり……という作業も少なからずありました。でも、この作品に限っては(自分を重ねるというよりも)やっぱりコウちゃんと夏芽の唯一無二感を出さなくてはならなくて。ただ、神話めいたラブストーリーであっても、そのなかに、浴衣のほどけかけた帯を結び直してあげたりとか、現実的なかわいいシーンもたくさんあって。その折り合いが、ファンタジー感とリアル感のバランスが難しかったです。


――現場では、常にコウちゃんでいたんですか? それともオンオフをしっかり分けている?
自覚的なスイッチは「よーい、スタート!」でカメラがまわる瞬間に入ります。ただ、今回は体型もそうですし、このビジュアル(金髪)なので、常にどこかコウちゃんモードではあったのかもしれません。
――そんなコウちゃんを含めて、今年は9本の映画が公開。ドラマを含めると相当な数のキャラクターを演じていますが、どんどん蓄積されていくキャラクターをどう消化しているんですか?
どう……しているんでしょうね(笑)。でも、この『溺れるナイフ』のように、地方に泊まり込みで役に陶酔していける場合は、自然と身体が(役に)仕上がっていく。そういうときは環境に身を委ねたりします。短期間にパパッと何本か演じなければならないときは、撮影と撮影の合間、美容室に行って髪形や髪色を変えているときに、自分の見た目が変わっていく過程を見ていることが切り替えになっているのかもしれない。あとは自分のなかにキーがあるので……。

――キーというのは?
テンションとかモード、テンポというか。この役は音楽的な感じでいうとテンポが120ぐらいで5カポ(カポタスト)かなとか、こっちはカポなしでテンポ90ぐらいのバラードのイメージかなとか、曲調でイメージする感覚ですね。
――それは音楽をやっているからこそのイメージでもあるんでしょうね。
かもしれないです。
――数年前から趣味はギター、カメラだと言っていましたよね。ギター、ずっと続けているんですね。
はい、続けてます。



「菅田将暉としての人生を考えるようになった」
――デビューしたての頃は「大阪から上京するときにぜんぶ捨ててゼロにして来たので、芝居にのめり込むしかなかった」と語っていましたが、今、飛び込んだその世界はどう見えていますか?
あのときは、本当に飛び込むしかなかったんですよね。今は、少し自覚が生まれました。
――それはどんな自覚?
「菅田将暉」としての人生を考えるようになったというか。たしか『王様とボク』(12)の頃だったと思うんですが、「本名に戻したいです」と言ったことがあるんです(笑)。デビューして、自覚のないまま「菅田将暉」という芸名で動き出していたので……。

――本名のほうがよかったということですか?
というよりも、芸名というものが何なのかわからなかったんですよね。撮影現場に行くとその作品の役名で呼ばれるので、菅田将暉という名前は、こうして取材を受けるときとかバラエティ番組に出るときに使う記号のような感覚。当時はそれに違和感を持っていたと思うんです。何だ? 菅田将暉って? と(笑)。
――素敵な名前ですけどね。
ですよね。「戻したい」って言ったら事務所の社長に「そんなに簡単につけてないのよ」って怒られました(苦笑)。
――さすがに、もう慣れましたか?
それが……いまでも「菅田」では振り向けるけど、「将暉」だと反応できなかったりして(苦笑)。「菅田将暉」だとちゃんと反応できるんですけど(笑)。でも、いい芸名をつけてもらったなって思います。そういう自覚であったり、あとこの1年は、戦うステージがより色彩豊かになりました。

――さまざまなジャンル、いろいろな役と出会ったということですか?
そうですね。『仮面ライダーW』(テレビ朝日系)でデビューをしてポップな世界を知り、そこから『共喰い』『そこのみにて光輝く』のような文芸作品というかアンダーグラウンドの映画界を知り、そのときに海外の映画祭に連れていってもらうことで大きな世界を知った。最近はテレビドラマでまた違うメディアの世界を知り……。
――もう、大活躍ですね。
ありがとうございます。あと数年でデビュー10年。10年という一区切りの年を迎えるので、そこから何か新しいことができたら……という感じです。
――あっという間の10年、でもとても濃い10年ですね。飛び込んだ世界でずっと泳ぎ続けているわけですが、10年目のもっと先にあるもの、菅田さんがたどり着きたい場所は見えていますか?
はっきりと見えているもののひとつとしては、“ものづくり”が好きなんだ、ということですね。映画もドラマも舞台も――お芝居のなかで、僕は俳優部として、ひとつの素材として、作品を作ることが好き。あとは写真や歌、絵画にしても、自分が作ったものを見てもらうことが好き。最近でいうと、ファッションもそうです。


――洋服も作っちゃうんですか?
簡単なリメイクは高校生の頃からやっていて。まだ1年くらいですけど、生地を探してきて、その気に入った生地を使って自分で縫ったりしています。趣味がどんどん増えていくんですよね(笑)。最近は新たにボクシングも加わりました。
――多趣味ですねぇ。
はい(笑)。ボクシングのきっかけは、来年公開の『あゝ、荒野』っていう映画の役づくりで始めたものですが、撮影が終わった今も続けています。もうすぐ20代の折り返しの年齢なので、胸板を厚くして、20代後半は男らしくスーツを着たいなぁと思って。身体、鍛えてます(笑)。

【プロフィール】
菅田将暉(すだ・まさき)/1993年2月21日生まれ。大阪府出身。A型。2009年、『仮面ライダーW』(テレビ朝日系)でデビュー。NHKの連続テレビ小説『ごちそうさん』、『ちゃんぽん食べたか』(NHK)など話題のドラマに次々と出演し、『民王』(テレビ朝日系)で民放連続ドラマ初主演。現在は『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)に出演中。映画では『共喰い』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、『そこのみにて光輝く』、『ピンクとグレー』、『暗殺教室』、『セトウツミ』、『二重生活』、『何者』、『デスノート Light up the NEW world』など話題作に出演。2017年には、『キセキ -あの日のソビト-』(1月28日公開)、『帝一の國』(4月29日公開)、『銀魂』、『あゝ、荒野』などの公開が控える。
【Twitter】@sudaofficial
菅田将暉(すだ・まさき)/1993年2月21日生まれ。大阪府出身。A型。2009年、『仮面ライダーW』(テレビ朝日系)でデビュー。NHKの連続テレビ小説『ごちそうさん』、『ちゃんぽん食べたか』(NHK)など話題のドラマに次々と出演し、『民王』(テレビ朝日系)で民放連続ドラマ初主演。現在は『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)に出演中。映画では『共喰い』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、『そこのみにて光輝く』、『ピンクとグレー』、『暗殺教室』、『セトウツミ』、『二重生活』、『何者』、『デスノート Light up the NEW world』など話題作に出演。2017年には、『キセキ -あの日のソビト-』(1月28日公開)、『帝一の國』(4月29日公開)、『銀魂』、『あゝ、荒野』などの公開が控える。
【Twitter】@sudaofficial
■映画『溺れるナイフ』
11月5日(土)から公開中!
http://gaga.ne.jp/oboreruknife/

(C)ジョージ朝倉/講談社
(C)2016「溺れるナイフ」製作委員会
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