9日に幕を閉じた東アジアカップで最大の謎は北朝鮮チームだった。

ベンチには規定どおり12人の選手がいるのだが、安柄俊(アン・ビョンジュン)と李栄直(イ・ヨンジ)のJリーグ組、ストライカーのパク・クァンリョンの3人は3試合ともメンバーリスト入りしなかった。

試合後に記者が質問できるミックスゾーンにも現れない。もちろん、何ら説明など無かったし、あっても本当だとは思えなかっただろう。他にも決められた練習時間に会場に現れないなど、行動も謎だった。

何よりサッカーそのものも、男子チームは1月のアジアカップとはまるで別のチームになっていた。アジアカップの際はボール扱いが粗雑で、相手からプレスをかけられるとすぐにコントロールを乱して奪われていた。また試合運びも拙く、サウジアラビア戦では狙いどおり先制点を奪ったものの、リードしたために慌ててしまい、ミスからの失点を重ねて1-4と大敗した。

ところが今回のチームは日本相手の逆転勝利に象徴されるように、粘り強く試合を進める能力を持っていた。また中盤でのパスワークやキック力などが大幅に向上し、ワールドカップ・アジア3次予選ですでに2勝(ウズベキスタン戦4-2、イエメン戦3-0※)を挙げているのが偶然ではないことを証明した。何が起きれば半年間でチーム力をジャンプアップさせることができるのかも、簡単にはわからない。

この大会でハッキリしたのは、今後日本の前に北朝鮮が立ちふさがりそうなことだ。特に男子サッカーについては、刮目して見なければいけない大きな変貌を遂げている。

変わっていなかったのはミックスゾーンを団体行動でさっさと通り過ぎること。これまでだと在日朝鮮人の選手がスポークスマンを務めることもあったが、今回はいないため、ほぼ何も答えることなく通り過ぎていく。観客席の応援団が一糸乱れぬ応援を繰り広げているように、選手も列を乱さずバスへと乗り込んでいった。

だが、そんな北朝鮮選手団もうれしさは隠せないようだ。優勝した女子チームがミックスゾーンを通り過ぎるとき、日本の記者が軽く拍手をしながら彼女たちを見送っていた。すると、その姿を見た北朝鮮の選手たちは一瞬驚いた表情を浮かべた後、ニッコリとして会釈しながら通り過ぎていたのだ。冷淡にも見えるいつもの様子とは違って、そこにはスポーツを通じた交流があった。そしてそんなことすらも驚きに思えるほど、北朝鮮は今だ謎に包まれている。

【日本蹴球合同会社/森雅史】