H.I.Council

ディープテック企業のH.I.Council(東京都渋谷区、代表:濱之上 太)


は、IBMの量子コンピュータibm_pittsburgh(Heron r2、156量子


ビット)を用いて、窒素固定酵素の活性中心であるFeMoCo分子の


108量子ビット規模の電子構造計算を世界で初めて実機実行し、


その結果を論文として公開した。同研究は、量子コンピュータが


長年「キラーアプリケーション」として目標としてきたFeMoCoの


化学精度計算が、量子化学の知見を活用した古典DMRG-AFQMC


パイプラインで48量子ビット系において達成できることを実証


すると同時に、現在の量子コンピュータが持つ定量的な限界


(コヒーレンス壁)を初めて明確化した。論文は日本化学会を含む主要化学会が


共同運営するプレプリントサーバChemRxivと


オープンアクセスリポジトリであるZenodoで公開済み


ChemRxiv(DOI:10.26434/chemrxiv.15001770/v2)


Zenodo(DOI: 10.5281/zenodo.19463795)、


関連技術は特許出願済み(特願2025-182361)。


【研究の背景】


FeMoCo(鉄モリブデン補因子、MoFe7S9C)は、生物学的窒素固定を


担う酵素ナイトロゲナーゼの活性中心であり、その電子構造の正確


な計算は農薬・肥料産業における新規触媒設計の鍵となる。2017年


にReiherらは、FeMoCoの電子構造計算に必要な計算規模を「108量子


ビット」と見積もり、量子コンピュータの「キラーアプリケーション」


として位置づけた。以来、FeMoCoは量子コンピュータ業界における


長年の目標として認識されてきた。


しかし、現在のNISQ量子コンピュータはノイズによって多体相関の


精度が制限されており、実際にFeMoCo規模の計算を実機で完遂し、


その結果の妥当性を定量化した研究はこれまで存在しなかった。


【本研究の成果】


H.I.Councilは、IBMの最新量子プロセッサibm_pittsburgh(Heron


r2、156量子ビット)上で、48・56・80・108量子ビットの4スケール


にわたるFeMoCo電子構造計算を実機実行した。主な成果は以下の


4点である。


第一に、108量子ビット規模のFeMoCo計算を世界で初めて実機実行し、


位相なし補助場量子モンテカルロ法(ph-AFQMC)により統計誤差


±0.67 mHa(ミリハートリー)まで到達した。これは量子ハードウェア


によるこの規模の計算で達成された前例のない精度である。ただし、


化学精度の達成にはさらに系統誤差(位相なしバイアス)の改善が


必要であり、この点は次の研究課題として明確化された。


第二に、複数スケールにわたる空間相関測定により、回路深度の増加


に伴う相関振幅の系統的減衰を定量化した。約20種類のベイズ推定


手法を尽くしても、108量子ビット規模では抽出可能な相関信号が


r ≈ 0.03が上限となることを示し、これを「コヒーレンス壁」と


名付けた。これは現在の量子コンピュータが持つ定量的な限界の


初の体系的測定である。


第三に、量子化学に深く根ざした古典計算手法(DMRG多行列式試行


波動関数 + ph-AFQMC)により、48量子ビット系のFeMoCo電子構造


計算で化学精度(+1.07 mHa)を達成した。これは、量子コンピュータ


業界が長年「量子計算でしか解けない」と考えてきたFeMoCoの


化学精度計算が、量子力学の知見を別の経路(古典量子化学手法)で


活用することによって達成可能であることを示した結果である。


これは量子コンピュータの否定ではなく、「広義の量子優位性」


すなわち量子力学の理解を実用に転換する複数の経路の一つが


実を結んだことを意味している。


第四に、上記の知見から、次世代量子ハードウェア改善のための


3つの具体的方向性(等方的熱平衡化からの脱却、量子ビット数より


接続性品質の優先、情報バックボーンを保持するためのハードウェア


バイアス設計)を建設的提案として提示した。これらは検証可能な


仮説として、量子ハードウェアコミュニティへの呼びかけである。


【業界の流れの中での位置づけ ― 広義の量子優位性】


近年、量子コンピューティング分野では、「広義の量子優位性」


すなわち量子力学の原理を理解し実用的成果に転換する取り組みが、


複数の経路で進展している。量子インスパイアード手法による古典


計算上の問題解決、量子化学に根ざした計算手法による電子構造


解析、量子-古典ハイブリッド手法、これらは全て、量子力学の知見


を実装する異なる形態である。本研究もこの広義の量子優位性の


一例として位置づけられ、狭義の量子コンピュータ実機実行と古典


量子化学計算という2つの経路を同じ実験フレームワークで評価する


ことで、それぞれの現状到達点と次の課題を明確化した。


【コミュニティ検証への呼びかけ】


本研究で観測された3つのハードウェア課題と「コヒーレンス壁」は、


H.I.Councilが単独で実施したIBM Heron r2上での観測結果である。


これらの観測が他の量子ハードウェアプラットフォーム(IBMの他の


プロセッサ、Google、IonQ、Quantinuum、Pasqal、富士通、理研など)


でも同様に成立するかは、コミュニティによる独立検証によって


明らかにすべき課題である。


H.I.Councilは、Paper Iで提示した3つの命題(コヒーレンス壁の


存在、Aurora-DDマルチ量子ビット拡張の有効性、3つのハードウェア


方向性の妥当性)について、所属機関を問わない有志の研究者による


独立検証コミュニティの形成を呼びかけている。論文のData


Availabilityセクションでは、IBM Quantumのジョブ IDおよび全関連


データを公開しており、外部研究者がビットストリングを直接取得


して検証することが可能である。


兆円規模の公的資金が投じられている量子コンピューティング分野


において、利害関係から独立した立場でのエビデンスベースの検証は、


投資家・政策決定者・産業界・納税者すべてにとって不可欠な情報


基盤となる。


【今後の展開】


H.I.Councilは、本研究のパイプラインを応用し、FeMoCoの反応中間体


(窒素固定の触媒サイクル全体、Lowe-Thorneleyサイクルと呼ばれる


8つの中間状態)の化学精度計算を進める計画である。これにより、


生物学的窒素固定の反応機構を分子レベルで解明し、農薬・肥料産業


向けの新規触媒設計の基盤を構築することを目指す。


【論文・特許情報】


論文タイトル: Quantifying the Coherence Wall: FeMoCo Quantum


Chemistry from 48 to 108 Qubits on IBM Heron r2


著者: 濱之上 太


公開: ChemRxiv(DOI:10.26434/chemrxiv.15001770/v2)


URL:https://doi.org/10.26434/chemrxiv.15001770/v2


Zenodo(DOI:10.5281/zenodo.19463795)


URL:https://doi.org/10.5281/zenodo.19463795


関連特許: 特願2025-182361(2025年10月29日出願)


【会社概要】


商号: H.I.Council


所在地: 〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂1丁目10番8号


渋谷道玄坂東急ビル2F-C


代表: 濱之上 太


事業内容: 量子コンピューティングとAIシステムの統合研究開発。


量子化学計算パイプライン(DMRG-AFQMC + Aurora-DD + SQD)、


量子インスパイアードAIアテンション(QI-Attn)、量子位相補償


技術(Aurora-DD)、演繹的RAG、リアルタイム・エッジAI向け


KPI最適化の研究開発、ならびにシステムインテグレーション


事業、PoC設計支援、知的財産の創出・ライセンス事業を展開。


連絡先: f.hamanoue@hi-council.com