まるでホンモノの海の中。異次元の没入感を味わえる「水塊」水族館5選

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水族館は眺める場所ではなく、水の塊に「呑まれる」場所だ。本来ならダイビングの装備がなければ楽しめない水中風景を、誰もが安全に楽しめる。筆者は『中村元の全国水族館ガイド129』で、多数の魅力的な展示を伝えてきたが、本稿では、とっておきの「水塊」をご紹介したい。

水の塊に「呑まれる」究極の水族館

なぜ、人は水族館の水槽に心奪われ、深く癒されるのか?

どこまでも青く広がる海の開放感。水中に差し込む陽光と、その中をキラキラと泳ぐ魚たち。水の音や流れがもたらす清涼感。そこで織りなされる見知らぬ生きものたちの浮遊感や躍動感。そうした要素が一体となって生まれる「水の世界の塊」にこそ、水族館の魅力が詰まっている。

こうした魅力的な水槽を、筆者は『水塊展示』と名付け、高く評価している。『中村元の全国水族館ガイド129』でも、★による満足度チェックの項目の中で「水塊度」を最も大切な基準にしている。

ここでは、特別な水塊がある水族館、あるいは全体的に水塊度が高い水族館を5つ選んだ。

名古屋港水族館/圧倒的な巨大水塊に生きものたちが躍動

日本最大の水量を誇るのが名古屋港水族館。なかでも特別に巨大なのがイルカのパフォーマンスプールだ。ここには水中観察室があり、地上にいながらにして大洋の広さを感じることができる、日本一の景観だ。

ここではイルカたちが私たちに向かって泳ぎ寄ってくる。この光景こそ、圧倒的に巨大な水塊だ。

まずイルカの姿に興奮し、次いで巨大な水塊が癒やしを与えてくれる。大人にとっては隠れ家のような水槽だ。陽光のきらめきがより美しい午前中がおすすめだ。

海中に射す陽の光を浴びてイルカたちがやってくる圧倒的な大水塊

名古屋港水族館では、多くの水槽が巨大なため、いずれも水塊度は高いのだが、ぜひ見てほしいのが、「黒潮大水槽」のマイワシトルネードだ。生き物たちの躍動が生み出す水塊感を味わえるだろう。

この水槽は通常時から、広い大洋を群泳するマグロの仲間スマの群れやサメが主役の水槽なのだが、マイワシトルネードは別格だ。

マイワシの大群が竜巻のようにうねりながらキラキラと躍動し、水塊感は最高潮に達する。無数の輝きが重なった美しい光景から、小さなイワシたちの命の輝きを感じられるだろう。

マイワシの大群が躍動する水塊は水中世界ならではの美しい光景

美ら海水族館/沖縄の海と太陽が織りなす開放的な水塊

美ら海水族館のすごいところは、本物の沖縄の海の延長であることだ。しかも、誰もが楽しめる最も安全な沖縄の海でもある。ここには、沖縄の海の多様性と美しさが凝縮されている。

入館して目の前に飛び込んでくるのは、巨大なサンゴ水槽。幾多の造礁サンゴで埋め尽くされ、そこを色とりどりのサンゴ礁魚類が泳いでいる。

この水槽の主役は生きたサンゴによる沖縄の海中景観、つまり水塊そのものなのだ。この景観を織りなすサンゴを育成するため、水槽には沖縄の海水と太陽をそのまま取り込んでいる。だから沖縄の海にダイビングしているのと同じ光景を目の当たりにできるのだ。

そして、美ら海水族館の代名詞とも言える巨大水槽「黒潮の海」。この水槽には、ジンベエザメやマンタ、数多くのサメや魚群が集う。

なかでも圧巻はジンベエザメの巨体がふわりと浮いて目の前をゆったり通り過ぎる雄大さだ。この浮遊感に私たちは海の包容力さえ感じ、一日中見ていても飽きない。きっと水塊の力に癒やされることだろう。

沖縄を囲む黒潮を巨大水槽で再現、大型魚類や群れを凝縮した巨大水塊

サンシャイン水族館/日々の乾きを潤す水塊のオアシス

筆者が考える水塊は、巨大水槽ばかりではない。サンシャイン水族館は、東京の中心地にありながら、都会の生活で乾いた心を潤いで包む水塊をいくつも用意してくれている。まさにこの水族館のコンセプトである「天空のオアシス」を体現した空間だ。

特にサンゴ礁のラグーンを再現した「サンシャインラグーン」は、正面のベンチに座って半日過ごす人まで出てくる人気の水塊だ。

白砂の浅瀬は、陽光に照らされて輝くエメラルドグリーンから、沖合を思わせる濃いコバルトブルーへと続いている。ここがビルの中であることも、水槽の前にいることさえ忘れてしまう。この水塊で、多様な魚たちの動きを見ていれば時間が経つのも忘れるというものだ。

どこまでも広がるサンゴ礁のラグーンが高層ビルの中に水塊となって出現

一方でビルの上ならではの水塊が「天空のペンギン」だ。青空のグラデーションを借景にすることで、どこまでも広い海の開放感を表しており、ペンギンが海中を飛ぶ鳥だということが実感できる。頭上から降り注ぐ陽光の水紋に包まれるのも水中感たっぷりでいい。

青く広がるペンギンたちの故郷の海を、空の青い広がりで再現

アクアマリンふくしま/命の輝きで生まれた水塊

水族館の水槽はただの生き物の容れ物ではない。生きものたちが暮らす世界であり、水中の生き物たちは互いにその世界を織りなす景観となっている。それがよく伝わってくるのがアクアマリンふくしまだ。

この水族館では、来館者が森の中を歩くことから展示が始まっており、自然環境の中で水中を覗くという気持ちになる。

そのたどり着いた先で目にするのが「潮目の海」で、黒潮と親潮の境に立つことができる。「黒潮水槽」は、カツオの群泳とマイワシの大群による躍動的な水塊だ。

対する「親潮水槽」のほうは、ホヤ養殖の静的な水中景観となっている。この二つの大水槽の間を通る三角トンネルに立つと、波紋を通した陽光がキラキラと降り注ぎ、水中感をたっぷり味わえる。

カツオの群れがマイワシの大群を狙って群泳する黒潮の海

「サンゴ礁の海」は筆者お気に入りの水塊だ。小魚の大群と色鮮やかな魚たちの群れに、活き活きと茂るサンゴ類、さらに海底にはチンアナゴの群生と、それぞれがお互いの生活空間を彩って景観が生まれている。本物の海に潜った時の感動が実感できるだろう。

サンゴ礁の海の谷間をそのまま切り取ってきたような景観による水塊

北の大地の水族館/清涼感あふれる日本の川の水塊

水族館では人気の薄い日本の川の生物だが、川や湖の水塊を実現すればたちまち心を掴む展示になる。そんなことを実感させてくれるのが、北の大地の水族館だ。

北海道東部の北見市にある小さな水族館だが、魅力的な川や湖の水塊がいくつもある。

たとえば「滝壺水槽」。頭上に滝が落ちてその気泡が渦巻く様子が見られる。この泡の渦巻きの下には、美しい(そして美味しい)オショロコマ(北海道のイワナの仲間)が群れをなし、躍動する。私たちはその光景を、滝壺の底に棲む龍神や河童の目で眺めることができるのだ。

滝壺に生じた気泡が渦巻きオショロコマが踊る、躍動感あふれる水塊

日本最大の淡水魚であるイトウの大水槽もある。イトウが好んで棲む北海道の湖を再現した水塊で、全国でも最大級のイトウが何尾も泳ぐ。

中央には冷たい湖に特有の枯れ木が見え、湖底に潜った気持ちにさせてくれる。生きているヤマメをイトウが捕食する「いただきますライブ」時には、静的な水塊が躍動感ある水塊へと変化する。

巨大イトウの棲む北海道の冷たい湖の湖底には木の陰がぼんやりと浮かぶ


猛暑の日こそ、水族館で水塊に身を委ねてみてほしい。そこには冷房だけでは得られない、水の世界ならではの涼しさと癒やしが待っている。

中村 元(なかむら・はじめ)

1956年三重県生まれ。成城大学卒業後、鳥羽水族館に入社。アシカトレーナーから企画室長を経て副館長を務める。TBS系『わくわく動物ランド』『どうぶつ奇想天外』への映像提供をはじめ、ラッコブームの立役者として手腕を発揮した。2002年に独立後は「集客請負人」として活躍。「新江ノ島水族館」「サンシャイン水族館」「北の大地の水族館」など、独自のマーケティングと弱点を強みに変える斬新な展示で、数々の施設を奇跡的な増客へと導く。現在も国内外のいくつもの水族館で最新の展示を開発し続けている。慈慶学園COMグループ名誉学校長ならびに北里大学学芸員コースで博物館展示論を講義。おもな著書に『水族館の通になる』(祥伝社)、『水族館哲学 人生が変わる30館』(文藝春秋)、『常識はずれの増客術 』(講談社)ほか多数。最新刊は『新版 全館訪問取材 中村元の全国水族館ガイド129』。

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