中村米吉さんが表現する「品のあるきらびやかな姫姿」【NHK心おどる 歌舞伎女形】
昨年の映画ヒットをきっかけに、いま改めて注目を集める歌舞伎・女形の世界。『心おどる 歌舞伎女形』では人気女形・中村米吉さんに密着し、その美と芸、そして舞台裏までをたっぷり紹介します。中村七之助さんと女形の美を語り合う、貴重な巻頭対談『中村七之助×中村米吉 歌舞伎が生み出した美の形』も必読です。
今回は、「第一回 はなやか姫姿」から、米吉さんが目指す理想の姫姿を伺い、「姫」が完成するまでの化粧、着付け、かつらの全工程をご紹介します。
※この記事はデジタルマガジン用に内容を一部編集しています。
『NHK心おどる 歌舞伎女形』書影
米吉さんが語る「お姫様」 品のあるきらびやかな美しさ
華やかな衣裳(いしょう)や美しい姿に目を奪われることの多いお姫様役。私が大切にしているのは美しさの下にある〝姫〟というベースです。このベースが清らかなものでなければならない、というのが出発点になります。
そのたたずまいは、なるべく丸く、やわらかく、まるで何かに包まれているような空気感が必要です。同時に、その品格がひと目で伝わることも大切です。それでいて、どこか高いところにある存在として、ほかの役とは異なる空気をまとっていなければなりません。
所作もどこかしら控えめであることが求められます。袖の中に手を入れ、あまり外に出すこともありません。 女形のバイブルとも呼ばれる、六世尾上梅幸(おのえばいこう)の著書『梅の下風(したかぜ)』には「姫が気持ちを語る場面では袖口で文字を書いていればそれで良いのです」というようなことが書いてあります。これは極端な表現だとは思いますが、それくらい何をしているのかはっきりと見せないやわらかさが理想とされてきました。また、お姫様は純情でうぶで、まっすぐな存在です。若さゆえに打算がなく、思ったことがそのまま表に現れる。ですから視線も、色気を出そうとするのではなく、人をまっすぐ見てしまうような素直さが求められます。考えすぎてしまうと、その〝らしさ〟は失われてしまいます。そのため、あまり生々しく芝居を受けすぎず、距離を保つことも重要だと感じています。
こうして形づくられてきた歌舞伎の〝お姫様〟の内側には、清らかさと品格を備えた確かな型があります。そのベースをどれだけ純度高く立ち上げられるかに、女形としての力量が表れるのだと感じています。
「姫」ができるまで
真っ白な肌に鮮やかな紅がさされ、豪華な姫の装束をまとう。一人の俳優が、伝統の技によって理想の「姫」へと変貌を遂げるまでの化粧、着付け、かつらの全工程をひもときます。
顔(かお、化粧)をする歌舞伎では俳優自身が自分の化粧をすることを「顔をする」という。役柄はもちろん、俳優自身の年齢、顔の特徴や好みなどで異なる。今回はお姫様の化粧の手順を紹介する。
1 鬢付油(びんつけあぶら)を塗って、眉をつぶす。さらに鬢付油を手のひらでなじませて顔全体と首にまんべんなく塗る。
2 白粉(おしろい)を塗る前にぼかし(紅色)を入れる。
3 白粉を板刷毛(いたはけ)で塗る。後ろはお弟子さん(中村蝶八郎(ちょうはちろう))に塗ってもらう。縦に白を塗ると、首が長く見える。
4 スポンジで余分な水分を取ってなじませる。
5 かつらをかぶるために下地となる羽二重(はぶたえ、絹布の一種)をつける。
6 眉を引く。
7 目張(めはり)を紅で入れる。
8 口に紅を入れる。油で溶かして滑らかにする。お姫様なので“おぼこく”見せるため、上唇をあまり塗らないようにする。
口紅を塗れば完成。鏡で仕上がりを確認する。
衣裳を着る襦袢(じゅばん)などの下着を着てから、裾の長さや襟の抜き具合を調整しながら衣裳を着る。帯は役柄によって結び方が違い、姫の場合は左右に長く垂らす「振帯」という形。
かつらをつける まずは耳の後ろから垂れる「姫ジケ」をつける。その後にかつらをつける。このかつらは「吹輪(ふきわ) 」と呼ばれるお姫様のトレードマークの髪型。大きな髷(まげ)に鼓(つづみ)を模した飾りがあしらわれている。
手に白粉を塗る 衣裳やかつらが汚れないように、最後に手に白粉を塗る。爪についた白粉は拭き取る。
「姫」の完成。
講師 中村米吉(なかむら・よねきち)
1993年、五代目中村歌六(2023年7月に人間国宝に認定)の長男として生まれる。2000年、歌舞伎座『宇和島騒動』の武右衛門せがれ 武之助で父・歌六の前名を継ぎ、五代目中村米吉を襲名して初舞台。2011年から女形を志し、本格的に歌舞伎役者として歩み始める。2022年7月歌舞伎座の『風の谷のナウシカ 上の巻 ―白き魔女の戦記―』でナウシカ役を演じ、脚光を浴びる。2023年9月 歌舞伎座にて『祇園祭礼信仰記』の雪姫、2024年1月に浅草公会堂にて『本朝廿四孝』の八重垣姫、同年11月に明治座にて『鎌倉三代記』の時姫を演じ、女方の大役である「三姫」を短期間で制覇した。
『NHK心おどる 歌舞伎女形』では、女形・中村米吉さんに密着し、2026年1月から3月に上演された4つの演目を追い、時代物のお姫様役、世話物の女房役、新作歌舞伎の個性豊かな役柄までを徹底取材しました。中村米吉さんが魅(み)せる美しき歌舞伎の世界をお楽しみいただけます。巻頭には、先輩女形・中村七之助さんとの特別対談を収録。
【内容】
特別対談:中村七之助×中村米吉 歌舞伎が生み出した美の形
第一回 はなやか姫姿
第二回 つややか町の女
第三回 職人とつくる美
第四回 伝統と現代 進化する姫
◆『NHK心おどる 歌舞伎女形』
◆写真:岡積千可
◆構成・取材・文:山下シオン
