(撮影:山田英博)

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健康の不安、家族の病気や介護、看取りなど、病と人生にまつわるお悩みに、医師で小説家の南杏子さんが回答します(構成:内山靖子)

Q. 就寝時に入れ歯をはずさない母。どう説得したらいいでしょう?

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Q. 老いた両親にパラサイト。この先の暮らしが不安です
(兵庫県・休職中・51歳)

就職氷河期世代の私は非正規雇用で30年以上働いてきました。独身なので団塊の世代の両親にパラサイトして、実家で暮らしています。

先日、体調を崩し、入院して手術を受けました。父が病弱なため、手術の付き添いや同意書の署名を母に頼んだところ、耳の遠い母は医師の説明が理解できず……。

目下、休職して自宅療養中なので、収入面の不安もさることながら親より元気でいる自信がありません。この先、高齢の両親との暮らしでどこまで支え合っていけるのか悩んでいます。

51歳はまだ若い。まずは不安を整理して

今、相談者さんの心にはさまざまな不安が渦巻いているのでしょう。一つめはご自身の体調に関すること。「以前のように元気になれるのだろうか?」と感じておられるのだと思います。二つめは働き方と経済的な不安です。そして三つめは、病気になって直面した「両親の老い」という現実。

今はこれらの不安がごちゃまぜになっているようです。まずは一つひとつを切り離し、解決策を考えましょう。一つめの不安に関しては、人生百年時代、51歳はまだ若いです。術後の体力低下は誰にでも起こりうること。治療やリハビリなどで回復に向けて取り組みましょう。必ずや光は見えてきます。

二つめの経済的な不安に関しては、これを機に、ご自分の働き方や生き方をもう一度見つめ直してはいかがでしょうか? これまで平穏な日々を過ごしてこられたのもご両親の収入や年金という支えがあってこそ。そんなご両親と「支え合っていく」のではなく、これからは相談者さんが「支えていく」時期が来ているのです。

そして、「親の老い」。後期高齢者になると、どうしても耳が遠くなります。医師の説明が理解できなかったお母様は、もしかすると初期の認知症かもしれません。お父様はフレイル(加齢による心身の機能低下)が進んでいるとも考えられます。

つまり、悲しい言い方かもしれませんが、親が老いるのも死ぬのも自然の摂理なのです。その時々の親御さんの状態に合わせ、要介護認定を受けてヘルパーさんを頼むなり施設入居を検討する方法があります。自分一人で抱えなくても大丈夫とわかれば、漠然とした不安はずいぶん減るのではないでしょうか。

いずれにしても、相談者さんが元気でないといけませんね。まずはご自分の体をしっかり治すことに専念、それが一番大切です。

Q. 就寝時に入れ歯をはずさない母。どう説得したらいいでしょう?
(福岡県・無職・57歳)

まだら認知症の症状がある90歳の母。寝るときは入れ歯をはずしていたのですが、病気で入院した後は「体に力が入らない」と、寝るときも入れ歯をはずすのを嫌がるようになりました。

病院では普通にはずしていたと看護師さんに聞いたのですが、何かいい言葉かけはないでしょうか?


(イラスト:山崎のぶこ)

無理強いは禁物。「北風と太陽」作戦で

お母様がお使いになっているのが部分入れ歯か総入れ歯かわかりませんが、入れ歯をつけたまま寝ることは基本的におすすめしません。飲み込んだり、気管の入り口に引っ掛かってしまったりするリスクがあるからです。

また、口腔内に細菌が繁殖しやすくなるので、感染症や口腔内の炎症を引き起こすリスクが高まります。さらに長時間にわたり歯茎が入れ歯で圧迫されるため、血行不良を起こし、歯茎の健康が損なわれるおそれも。

ただ、お母様はすでに90歳。認知症の傾向もある。いくら「正義」をぶつけても理解してもらうのは難しいでしょう。そこで私からのアドバイスは二つ。

一つはお母様が何かの機会に入れ歯をはずしたら、もうつけさせないことです。「食事のときに不便では?」と思うかもしれませんが、メニューを工夫すれば大丈夫。

私が勤務する高齢者病院でも、入れ歯ナシで問題なく食事できる方は少なくありません。軟らかく炊いたごはんや煮物などでしたら歯茎だけでも十分咀嚼できます。主治医に説得してもらって入れ歯をはずすのも一つの手とお考えください。

もう一つは「夜、寝るときに入れ歯をはずすといいことがある」とお母様に学習してもらう方法。入れ歯洗浄剤の入った可愛いカップを用意し、「ここに入れて、洗おうよ」と誘導してみる。1回でもお母様が入れてくれたら、「すごくきれいになった!」「お母さん、えら〜い」と褒めましょう。

旅人のマントを脱がせたのは北風ではなく太陽だったというイソップ寓話『北風と太陽』に倣い、お母様が自ら入れ歯をはずしたくなる作戦を考えるのです。

それでもお母様が入れ歯をつけたままで、何か不都合なことが起こったとしたら、それはもう不可抗力。相談者さんの責任ではありません。

老いた親に無理強いはかえって危険なこともあり禁物です。不毛な闘いを続けるより、残された時間をいかに母娘で楽しく過ごすか考えたほうが、お互いの幸せにつながるのではないでしょうか。

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