GW明けの「仕事に行きたくない」 は怠けや五月病じゃない? 精神科医が教える不調の“意外な正体”
GW(ゴールデンウイーク)が終わり、今日から出勤する人は多いのではないでしょうか。GWの連休明けになると「仕事に行きたくない」「学校に行きたくない」と感じる人が増えますが、この場合、「五月病」の可能性があるのでしょうか。その際、無理に頑張って出勤したり、登校したりすると、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。対策について、「出雲いいじまクリニック」(島根県出雲市)院長で、精神科医・総合診療医の飯島慶郎さんに聞きました。
【要注意】「えっ…」 これが「仕事に行きたくない」と感じるときに受診すべき“5つの症状”です!
GW後の不調は「荷下ろしうつ」
Q.例年、GW明けに「仕事に行きたくない」「学校に行きたくない」と感じやすくなる理由について、教えてください。「五月病」の可能性が考えられるのでしょうか。
飯島さん「五月病の可能性が考えられるでしょう。GW明けの不調は一般的に五月病と呼ばれていますが、これは正式な医学用語ではありません。私は精神科医として日々の診療にあたる中で、その本態を大きなストレスから解放された直後に無気力や抑うつ状態に陥る、いわゆる『荷下ろしうつ』として理解するのが最も実態に近いと考えています。
なぜこの捉え方が大事かというと、五月病はしばしば『適応障害の一種』として説明されるからです。ただ、適応障害は、ストレスにさらされている最中に症状が出るのが典型的ですが、GW明けの不調はそうではありません。ストレスから解放された瞬間に、がくっと崩れるのが特徴です。ここを取り違えると、対処の方向まで誤ります。『適応に失敗したから』ではなく『適応に成功したあとに来る反動』と理解する必要があります。
荷下ろしうつの仕組みですが、重い荷物を担いで歩いている間は、アドレナリンが出て、疲れを感じにくくなるため、なぜか平気です。
ところが、目的地に着いて荷物を下ろした瞬間、どっと疲労が押し寄せて膝が笑い、体が動かなくなるのです。この『荷物を下ろしたときに来る不調』が荷下ろしうつです。
体の中で起きているのは、こういうことです。私たちにはストレスに対処するシステム、専門的には『HPA軸』と呼ばれるものがあり、コルチゾールというホルモンを分泌して心身を『戦闘モード』に保ちます。
4月の新生活で新しい部署、新しい人間関係、新しい通勤ルートに適応している間、このシステムはフル稼働します。本人が『なんとかやれている』と感じている裏側で、脳は膨大な適応作業に追われています。
ところがGWで緊張の糸がふっとゆるんだ瞬間、急にはブレーキがかかりません。気力をかさ上げしていたホルモンが底を突き、抑え込まれていた疲労が一気に現れてくるのです。ここに春という季節そのものの消耗が重なります。日の出の時刻が1年で最もダイナミックに動くため、体内時計の再調整に毎日エネルギーが奪われます。ある大規模な研究では、日の出が1時間早まるごとにストレスホルモンの濃度が約5%上昇していることが明らかになりました。
つまり、脳は新生活が始まる前から、すでに余力を削られた状態でスタートを切っているのです。また、花粉症の人の場合、アレルギーの炎症が気分や意欲を支える脳内物質の原料を奪い、だるさや無気力に拍車をかけます。
つまりGW明けの『行きたくない』は、春の生物学的な消耗と新生活への過剰適応という二重負荷で脳の備蓄が尽きたところに、GWの解放で一気に底が抜けるという、この三段構えで起きる、れっきとした心身の反応です。怠けでも気の緩みでもありません」
「仕事に行きたくない」と感じた場合の対処法は?
Q.もしGW明けに「仕事に行きたくない」「学校に行きたくない」と強く感じる場合、どのように対処すればよいのでしょうか。仕事や学校を休んだ場合、かえって悪化する恐れはないのでしょうか。
飯島さん「結論から言うと、1日や2日休むことは『悪化』ではなく、回復に必要な工程です。なぜなら、先述の通り、荷下ろしうつの本態はストレス対処システムの過剰稼働によるエネルギー切れであることが明確だからです。底をついた備蓄を取り戻すには、稼働を一度止めて補給する以外に道がありません。
これは精神論ではなく、ホルモンと自律神経の生理学です。『休むと悪化するのではないか』という不安は理解できますが、エネルギー切れの状態でアクセルを踏み続ける方が、はるかに本格的な不調へと移行するリスクを高めます。
その上で、休み方にはコツがあります。ただ寝込むのではなく『ストレス対処システムの興奮』『体内時計のずれ』『脳内物質の不足』という3つの消耗源を1つずつ立て直すことを意識してください。
まず朝の光を浴びること。脳内物質を立て直すいちばんの近道です。起きたらカーテンを開け、可能なら10分でも外に出て歩きましょう。これだけで眠気を促すホルモンから、気分を支える脳内物質への切り替えが進みます。
次に睡眠リズムを大きく崩さないこと。体内時計のずれを広げないための工夫です。休んだ日に昼まで寝てしまうと、せっかく整いかけた体内時計が再びずれます。『起床時間は平日から1時間以上ずらさない』のが目安です。
そしてもう一つ、『頑張り過ぎ』のサインに自分で気付くこと。これが一番見落とされやすいところです。『帰宅後にぐったりして何もできない』『休日になると極端に動かなくなる』『ささいなことで涙が出る』という変化は、戦闘モードがいつまでも解除できていないサインです。職場や学校では何とか取り繕えてしまう人ほど、家での小さな変化を見逃さないでほしいと思います。
子どもについても同じです。例えば、連休前に暗い表情だった子が連休中に少し表情が明るくなったからといって、『もう元気そうだから大丈夫だよね』とせかすのは逆効果になりかねません。見た目の元気と脳の回復にはタイムラグがあるからです。むしろゆっくり構えてあげる方が、結果的に立ち上がりが早いことが多いのです。
ただし、休むことには注意点があります。『休む』と『ひきこもる』は別物だということです。具体的な目安を示しておきます。休むのは数日から1週間程度にとどめ、その間も朝は決まった時間に起き、光を浴び、最低限の身支度をしましょう。これが『休む』です。
一方、何日も布団にこもって光を浴びず、昼夜が逆転し、家族とも口をきかなくなるという段階に入れば、もはや休養ではなく、不調が長引いている状態です。後者の状態が2週間以上続くなら、自力で立て直しできる段階を超えています。受診を検討すべきでしょう」
受診を検討すべき目安とは?
Q.では、「仕事に行きたくない」「学校に行きたくない」と感じる状況を放置し、無理に出勤したり登校したりすると、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。
飯島さん「『仕事に行きたくない』『学校に行きたくない』と感じる状況を放置する最大のリスクは、一過性のエネルギー切れだったものが、本格的な精神疾患へと移行することです。このメカニズムですが、荷下ろしうつの段階でアクセルを踏み続けると、ストレスホルモンの過剰分泌が慢性化します。この状態が長引けば、脳の働きそのものが疲弊し、休んでも立て直せない領域に入っていきます。うつ病や適応障害、不安障害に陥り、医療の介入なしには回復が難しい段階です。
臨床現場で私が一番危惧するのは、『行きたくない』が『行けない』に変わる瞬間です。最初は気分の問題だったものが、朝になると『本当に体が動かなくなる』『頭痛や腹痛が止まらない』『涙が出てくる』という状態に陥ります。ここまで来ると、もはや気合いで乗り切れる段階ではありません。
私が運営するクリニックには、4月の新生活でフル稼働した後、5月の連休明けから不調に入り、休養のタイミングを逃したことで夏まで職場や学校から離れざるを得なくなった人が、毎年いらっしゃいます。
子どもの場合、移行のスピードがさらに速いことに注意が必要です。文部科学省の2024年度調査では、小中学校の不登校児童生徒数は35万3970人で過去最多となり、12年連続の増加となりました。
当院では、不登校が原因で受診する患児の9割以上に何らかの精神疾患を認めます。医療を必要とするほど長引いたケースの背景には、適切な手当てを受ければ改善できたはずの疾患が高確率で潜んでいます。9割という数字は、そうした重症例の現実を映しています。
荷下ろしうつのように見えていたものが、実はうつ病や不安障害だったというケースでは、休養だけでは回復しません。そこで判断の目安です。次のような状態が2週間以上続く場合は、心療内科や精神科の受診を考えてみてください」
【心療内科や精神科への受診を検討すべき症状】
・気分の落ち込みや意欲の低下が続く
・朝起き上がれない日が続く
・食欲が極端に減ったり増えたりするようになった
・腹痛や頭痛など、体の不調が繰り返される
・「消えたい」「いなくなりたい」という考えが浮かぶ
「様子を見ましょう」では改善しないものが、医療の力で立て直せるケースは少なくありません。荷下ろしうつから本格的な疾患への移行は、適切な診断と、必要に応じた薬物療法や心理療法、環境調整があれば食い止められます。早めに専門家を頼ることは、決して大げさな判断ではありません。ぜひ知っておいていただきたいと思います。
