実は、コードが書けないままこの歳になりました…年収550万円・35歳中堅SE、GWの親戚の集いで「高校生の甥っ子の一言」に青ざめたワケ
30代から40代の会社で「中堅」と呼ばれる層は、人生で最も支出が多い時期に差し掛かっています。長期の住宅ローン、教育費の増大、そして2026年現在の利上げ局面。多くの家庭が「右肩上がりの年収」を前提に家計を組んでいますが、特にSEという職種においては、その前提となる「エンジニアとしての市場価値」には、かつてないほどのスピードで賞味期限が迫っていることをご存じでしょうか。今回はAさんの事例から、IT講師兼FPの川淵ゆかり氏が、AI時代におけるSEの立ち位置と、2027年・2029年問題が中堅SEに与える影響について解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
SEなのにコードが書けない…年収550万円会社員が青ざめた「甥の一言」
Aさんは、妻と2歳の息子と暮らす35歳の会社員です。年収は550万円で、職場ではシステムエンジニア(SE)として働いています。3年前に結婚し、2年前に長男が誕生。そのタイミングで40年ローンを組んで戸建てを購入し、周囲からみれば順風満帆な生活そのものです。
しかし、ある日の「甥の一言」が、Aさんの胸をざわつかせています。ゴールデンウィークで姉家族と集まった際、高校生になった甥にこう声をかけられたのです。
「ねえ、おじさんSEなんでしょ? いまプログラミングにハマってんだよね。今度教えてくんない?」
Aさんは笑顔を作りながら生返事を返しましたが、内心青ざめました。これまで一度も、仕事でコードを書いたことがなかったからです。
(教えるっていったって、コードも書けないのになにを教えるっていうんだよ……)
「コードを書けない中堅SE」が増えている?
Aさんのように「設計や管理はできるが、コードは書けない」というSEは少なくありません。その背景には、下記のような日本特有の事情があります。
〇“失われた30年”でシステム更新の予算がない
〇古いシステム(レガシーシステム)を使い続ける企業が多い
〇実際の開発は下請けに任せる構造になっている
〇保守・運用が中心で、コードに触れる機会がない
こうした環境で育ったSEは、プログラミング経験がほとんどないまま中堅層になっています。
時代は変わり、いまやAIがコードを書く時代になりました。よりいっそう、「人間がプログラミングをする必要はないのでは」と思うかもしれませんが、実際にはそうではありません。なぜなら、AIは“正しい仕様”がなければ動けないからです。これからのSEには、「AIに正しい指示を出す設計力」「AIが生成したコードの読解力」「テスト・検証のスキル」といった、これまでよりも高度なプログラミング能力が求められるようになります。
特にレガシーシステムは仕様書が不完全なことも多く、AIだけでは改修できない領域が多いのが実情です。AI時代、「コードを理解できるSE」の価値はむしろ高まっています。
2027年、「情報I世代」の襲来で始まる“エリートの選別”
2022年度から、高校で「情報I」が必修化されました。情報Iとはプログラミング、情報セキュリティ、ネットワーク、データ活用(統計・シミュレーション)の4つを実習形式で学ぶ授業で、高校段階でITの基礎を体系的に身につけることを目的としています。
昨年2025年には大学入学共通テストにも追加され、初年は易しめの出題でしたが、今年2026年は難化が進んでいます。
そして2027年、専門学校に進んだ情報I世代が20歳になり、IT業界に大量に入ってきます。4年制大学であれば2029年、大学でさらに専門性を深めた層が本格的に社会に出てきます。彼らは新社会人でありながら、すでにAIを使いこなし、コードも書けます。まさに、企業が喉から手が出るほど欲しがる人材でしょう。
一般企業も「ITスキルのある人材」を求めている
近年、企業を悩ませているのが「サイバー攻撃」の増加です。地政学リスクの高まりもあり、2023年〜2026年の過去3年で500件以上の被害が公表されています。
また、経済産業省は、2026年度末ごろを目指して「サプライチェーン対策評価制度(SCS評価制度)」を開始すると発表しました。これは、取引先企業にもセキュリティ対策を求める制度で、IT企業だけでなく、製造業・小売・医療・物流など、あらゆる業種が対象になります。
さらに2027年末には、多くの企業で利用されているSAPの基幹システム(SAP ERP 6.0〈ECC〉など)の標準保守が終了すると発表されています。サポートが終われば、「法改正への対応」や不具合修正、セキュリティパッチが受けられなくなり、企業は新システムへの移行を迫られます。
その結果、セキュリティ・データベース・プログラミングのスキルを持つ技術者の需要が急増するとみられているのです。セキュリティの基礎を理解している「情報I世代」は、業種を問わず、一般企業でも強く求められる存在となるでしょう。
中堅SEのキャリアと家計を直撃する「2029年問題」
つまり2029年は、一般企業でも「ITスキル格差」が一気に表面化する年になると考えられます。
ITスキルの高い若手とITが苦手な中堅・シニア社員のあいだで、「コミュニケーションが噛み合わない」「業務効率が落ちる」「若手が離職する」「生産性が下がる」といった問題が起きる可能性が高いです。これはすでに「2029年問題」として指摘されており、一般企業でも社員のITリスキリングを急ぐ必要性が高まっています。
最悪の場合、いまのポジションが若手に置き換えられ、Aさんのように住宅ローンや教育費を抱える世代がキャリアの見直しを迫られる可能性もあります。そうなれば、
・金利上昇による住宅ローン返済額の増加
・70代まで続く長期ローン
・子どもの成長とともに増える教育費
・シニアになっても働けるかという不安
といった問題が一気に現実味を帯びてきます。
また、2029年には、変動金利ローンの「5年ルール」が切れ、返済額が上がる可能性もあります。このままではキャリアと家計の両面で、大きな変化が訪れそうです。
このままではいけない…甥の一言でAさんが決意したこと
甥が楽しそうにプログラミングの話をする姿をみながら、Aさんはふと考えました。
「もしかしたら、10年後にはこの子と同じ業界で働いているかもしれない。そのとき、自分は胸を張って“先輩”といえるだろうか」
甥の無邪気な一言は、「このままではいけない」という現実を突きつけるものでした。しかし、気づいた瞬間こそがスタートラインです。Aさんは家族を守るためにも、未来の自分のためにも、今年のうちにリスキリングを始めることにしました。
情報I世代が本格的に社会へ出てくるまで、あとわずか。変化はすでに始まっています。いまのうちにスキルを底上げしておくことが、これからの時代を生き抜く最大の武器になるはずです。
〈出典〉
■三井物産セキュアディレクション株式会社「過去3年・約500件のサイバー攻撃被害、その公表実態を徹底分析 ー被害組織は公表を「いつ・何を・何回」出したか、そこから学ぶ平時の備えー」
https://www.mbsd.jp/research/20260427/3500/
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
