「修繕積立金」の投資失敗で理事が“マンション追放”の悲劇も…数十億を抱えるタワマン理事会が直面する〈運用方針のリアル〉【マンション管理士が解説】
「修繕積立金が足りない」マンションは全体の約6割にのぼることが、国土交通省による調査で明らかになっています。近年の物価高や人件費高騰により、住民による節約努力だけでは限界を迎えるなか、注目を集めているのが「積立金の資産運用」です。とくに数十億円規模の資金を抱えるタワーマンションなどでは、運用方針を巡って理事会で揉めるケースも珍しくありません。本記事では、過去に投資に失敗して理事がマンションを追われた事例を交えつつ、管理組合が陥りやすい「資産運用の落とし穴」と、絶対に守るべき「安全な運用方針」について、マンション管理士の松本洋氏が解説します。
6割のマンションで「修繕積立金」が不足…なりふり構わぬ節約も限界に
国土交通省のマンション総合調査によると、修繕積立金が不足しているマンションは全体の約6割にのぼります。とくに築40年を超える高経年マンションでは、外壁の剥落や鉄筋の露出、給排水管の老朽化など、住民の生命や身体、財産に影響を及ぼす深刻な劣化が増加しています。
大規模修繕工事の周期を12年程度とした場合、築40年のマンションの約4割、築30年以上のマンションの約2割が、適切な時期に大規模修繕を実施できていない可能性が指摘されているのです。
不足する修繕積立金を補うため、借り入れだけはどうしても避けたいと考える管理組合は少なくありません。その結果、住民による“なりふり構わぬ”節約策が講じられています。
たとえば、組合員が日常清掃の一部を担当したり、植栽の剪定や除草を住民で分担したりするケースです。また、規約を改正して管理費会計の節約分を修繕積立金に繰り入れるといった工夫も行われています。
しかし、人件費や物価の高騰により、こうした努力だけでは追いつかない状況が続いています。
数十億円を抱えるタワマンも…修繕積立金の「運用」という新たな潮流
そうしたなか、修繕積立金を単に貯めるだけでなく、運用して資産を増やす取り組みが注目を集めています。
令和5年度調査における運用先の割合は次のとおりです。
マンション全体
普通預金:76.8%
定期預金:35.1%
決済性預金:25.6%
マンションすまい・る債:19.1%
国債、公社債、投資ファンド:各0.1%
500戸以上の大型マンション
普通預金:67.6%
定期預金:23.5%
マンションすまい・る債:8.8%
国債、公社債:各2.9%
タワーマンションの場合、修繕積立金が20〜30億円規模となることも多く、地方債や国債、高速道路債、財投債、政保債などの公共債を活用した運用案が増えています。
「機会損失だ」「投資しないのが正解」…理事会で激突する“強気派vs慎重派”
巨額の資金を目の前にすると、理事会では運用方針をめぐって意見が真っ二つに割れることもあります。
相場が好調な時期には、個人投資家として利益を出している理事が「相場が上がっているときに投資しないのは大きな機会損失だ」と強気に主張します。一方で、金融機関に勤務するような金融リテラシーの高い理事は「高騰時こそ危険が潜んでいる。投資しないことこそが最大の投資だ」と反論します。
金融の常識に照らし合わせれば、後者の慎重な意見が正論とされます。高騰局面での投資はリスクが最大化しやすく、絶対に減らしてはならない修繕積立金の性質には不適切だからです。
こうした激しい議論の末、あるマンションの理事会では、2026年募集の「マンションすまい・る債」の平均利率が2%に上がったことを落としどころとし、同債券での運用を決議して事なきを得たという事例もあります。
投資失敗で理事が「マンション追放」に…知られざる過去の事例
運用を考える際、過去の失敗から学ぶことは重要です。バブル期にはSNSなどの情報発信手段がなかったためあまり公になっていませんが、管理組合が投資信託や社債の運用に失敗し、多額の損失を抱えたケースが存在します。
その結果、運用を提案した理事が責任を問われ、マンションからの住み替えを余儀なくされたという悲惨な事例もあるほどです。
また、銀行が破綻した際、預金が全額保護されるわけではなく、1人1銀行につき1,000万円までが保護される「ペイオフ」への対策として、複数銀行に分散して預金した管理組合もありました。
しかし、長引く低金利の影響で利息よりも残高証明書の発行手数料のほうが高くなり、実質的に元本割れとなるケースも見られました。
増やすことより「減らさない」…管理組合が選ぶべき“修繕積立金の着地点”
近年では区分所有法の改正に伴い、管理組合法人が不動産を購入できるようになりました。リゾートマンションなどでは、管理組合が専有部分を買い取って民泊経営に乗り出すことを検討する例も出てきています。
しかし、修繕積立金の確保と運用において最も大切なのは、増やすことよりも「減らさずに確実に使える状態にしておくこと」です。
修繕積立金の確保と適切な運用は、管理組合にとって最重要課題です。節約だけでは限界があるいまこそ、「長期修繕計画の見直し」「資金の分散管理」「リスクの低い運用手法の検討」など、組合として主体的に取り組む姿勢が求められます。
その点、住宅金融支援機構の「マンションすまい・る債」は、元本が保証され、10年満期で確実に利息がつくため、修繕積立金の運用先として安全性が高い選択肢といえるでしょう。
株式や投資信託のような価格変動リスクや信用リスクを避けつつ、安全性・流動性・透明性という修繕積立金に求められる三拍子を揃えているため、理事会が住民に説明責任を果たしやすい運用手法の一つです。
松本 洋
松本マンション管理士事務所代表
