やはり朝ドラは《知名度》が重要なのか?業界人が語る『風、薫る』が支持されない理由
『じぇじぇじぇ』『はて?』『ほいたらね』などの流行語を生み出し、たびたび社会現象を巻き起こしてきた“朝ドラ”ことNHKの「連続テレビ小説」シリーズ。
『おしん』『澪つくし』『ひらり』『ふたりっ子』といった名作がブランドを確立し、1990年代後半にやや低迷期があったものの、2010年の『ゲゲゲの女房』をきっかけに再浮上。『あまちゃん』『ごちそうさん』『花子とアン』以降は20%近い高い視聴率をマークするドラマが続き、近年では『虎に翼』『あんぱん』もヒット。中高年層をメインに、お茶の間に大きな話題を振りまいてきた。
ところが2025年春に終了した橋本環奈主演の『おむすび』は、期間平均世帯視聴率13.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で朝ドラ史上最低視聴率を更新。視聴率が取りづらい現代劇だったとはいえ、輝かしい朝ドラの歴史に泥を塗ってしまう形になった。
そして、この春から放送が始まったばかりの『風、薫る』にも危機感が漂っている――。
なぜ同作はここまで低調なスタートを切ったうえに、世間からの評判や期待値が低いのだろうか?
前編記事『朝ドラ『風、薫る』…早くも《ワースト更新》がウワサされるワケ』に続き、ドラマ業界で働くさまざまな関係者に生の声を聞いた。
ドラマファン以外からは知名度の低いヒロイン
ドラマのキャスティングに関わる制作会社勤務のプロデューサー・B氏は言う。
「同作が躓いた最大の要因は、ヒロインを務める2人の知名度の低さではないでしょうか。もちろん見上愛さんも上坂樹里さんも、ルックスや演技力は申し分のない存在だとは思っています。クールな見た目の見上さんは繊細なセリフ回しと芯のある表情作りはピカイチ。上坂さんも愛くるしい顔立ちで透明感があるだけでなく、脚本をよく理解した深みのある演技ができる若手きっての女優さんです。
とはいえ、近年の朝ドラに求められているのはヒロインの知名度。朝に何気なくテレビをつけている視聴者に『この女優なら見てみようかな』と思わせる“惹き”が重要になっているんです」
B氏は続ける。
「ひと昔前であれば、ほぼ演技未経験の女優を起用することも多かったのですが、近年は人気女優や数多くの作品で主役を務める女優にオファーするのが当たり前になっている。広瀬すずさん、橋本環奈さんはその代表例です。
今もオーディションを実施する年がありますが、最終審査ではほぼ人気者ぞろいだと聞いています。今回、直美役を演じる上坂さんも2410人が参加したオーディションから選ばれたそうですが、最初から彼女を推す声がかなり多かったそうです。
単独主演であれば、見上さんや上坂さんレベルの実力があれば十分愛される存在になったのではないか。ところが、ダブルヒロインになったことでそれぞれのキャラクターに愛着を持つまでに時間がかかりすぎてしまっている。
17年前の朝ドラもダブルヒロインでしたが、演じたのは双子の三倉茉奈さんと三倉佳奈さん。今回とはまるで状況が違います。キャスティング担当の立場から言うと、非常にかわいそうなパターンだったと思います」
朝ドラといえば、国民的女優になるための黄金ルートであるはずだが、同作ではヒロインが2人いることで逆効果を生んでしまったようだ。
ダブルヒロインは朝ドラの構造に合わず
「1話15分の中に2人の物語を収めるのは困難」
ダブルヒロインは脚本面でも大きな問題点になっているようだ。サスペンスドラマや時代劇のシナリオを手掛けてきた男性脚本家・C氏は語る。
「ダブルヒロインということもあって、とにかく序盤の展開が目まぐるしかった。特に見上さん演じるりんの半生があっという間すぎて、驚いてしまいました。初週で父親が病死して、2週目には結婚、出産、離縁して上京。これはさすがに雑すぎる……。全く感情移入できなかったです。
それと並行して、東京で暮らす直美の厳しい暮らしも挟み込まれるので、難解な映画を見ているかのような気持ちになった。朝ドラは1話15分という特殊なフォーマットなので、2人の人生を交互に描いたうえで、さらに起承転結もつけるなんてそもそも不可能なんですよ」
筆力そのものというより、ダブルヒロインを描く構造自体が朝ドラに不向きだったようだ。
「SNSでの評価に左右される時代になったことも影響しそうですね」
不評や批判が乱立している要因と今後の不安をドラマライターのD氏はこう分析する。
「SNSに“初回がワースト2位の視聴率だった”というニュースが出回ったことで、見逃し配信で見ようとしていた層にも「不評らしい」との先入観が広がってしまった。今後心配なのは『ちむどんどん』のパターンに陥ること。内容そのものへの賛否だけでなく、不満やイジリ、ツッコミを書き込む反省会が視聴習慣の一部のようになってしまい、視聴率がなかなか上がらない現象が起きましたから。
現状は『ちむどんどん』のような極端なコメント合戦には至っていませんが、さらに視聴率が下がれば、良くないムーブメントになりかねない。そうなった場合は『おむすび』を大きく下回る朝ドラになる危険性も秘めていますよ。
NHKとしては『ちむどんどん』の教訓を生かして、SNSのコメントを逆手に取るようなプロモーションを取ってもいいかもしれませんね」
『風、薫る』は過去最低作になるのか?
ここまで『風、薫る』の序盤話における失敗や問題点を並べてきたが、『おむすび』を下回る過去最低視聴率を更新するかどうかは「まだ分からない」と、前出の脚本家・C氏は語る。
「脚本を担当する吉澤智子さんはラブストーリーの名手で、火曜10時枠の常連。女性の心情を描き分けるのが非常にうまいし、キャラクターに嫌みがない。序盤こそ脚本への厳しい指摘も多かったですが、短尺で2人の生活を描くなんてどんな作家でも無理な話。ダブルヒロインが同じ場所でともに悩みながら成長するシーンが増えていけば、一気に面白くなる可能性はあるはず」
果たして序盤で「つまらない」というイメージが根付いてしまった『風、薫る』は大逆転のシナリオを描くことができるのだろうか。
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