なぜ今、Z世代は出世を望まなくなったのか――。その理由を探ると、「責任ばかり増えて報われない」「プライベートを守りたい」といった切実な声が浮かび上がる。上司世代の働き方を見てきたからこそ、同じ道を選ばないという判断。やる気がないわけではない彼らが、本当に求めている働き方とは何か?

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 ここでは、Z世代分析のトップマーケター・長田麻衣氏の著書『ほめられると気まずすぎてしぬZ世代、ほめて伸ばそうと必死になる上司世代』(徳間書店)より一部を抜粋して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)


写真はイメージ ©AFRC_160/イメージマート

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Z世代の4人に1人以上は「出世したいと思わない」と考えている

 定時退勤を是とする若手世代の価値観は、出世への無欲さにもつながります。「Z世代の仕事に関する意識調査」では、「将来的にどこまで出世したいと考えていますか」という質問に対し、最も多かったのが「出世したいと思わない(27.0%)」。次いで「チームやプロジェクトのリーダー・主任(12.9%)」という結果となりました。

 また別の調査では、「将来的には『マネジメント』や『管理職』にも興味がある」という回答は53.5%。Z世代の中でも、マネジメント職に就きたい人とそうでない人とでハッキリ分かれていることが明らかになりました。

 出世したくない理由としては、「責任が重くなるから(56.5%)」「プライベートを重視したいから(39.9%)」「仕事量と給料が釣り合わないから(34.5%)」「労働時間が長くなるから(32.3%)」等が挙げられています。

 深掘りすると、出世に対してポジティブなイメージを持っておらず、それどころかネガティブ要素ばかり頭に浮かんでいることがわかりました。

 グループインタビューでも「プレイヤーでいたいので、チーム内のリーダーが良い。管理職は嫌だ」「出世はどちらでも良いが裁量権は欲しい」「課長くらいまでにはなりたい。それ以上になると、1世代に1人もおらず多くの人の支持が必要なので難しそう」などの意見が挙がりました。

 目標を現実的に設定する堅実さ、そして肩書に固執するのではなく、裁量権を持って自分の適性に合ったやり方で働きたいという柔軟性が反映された結果に驚かされます。

出世したくない・マネジメントに就きたくない理由

・管理職は給与も上がるけど責任も増える

・残業代も出ない

・これまではチームで頑張っていたのが管理職だとソロ感が強い

・部下がいると、プレッシャーもかかる

・上からも下からもいろいろ言われる

・ハラスメントと言われる可能性もある

・管理職になると自分だけ消耗している、搾取されている感が強そう

・成果や給与のリターンを得られる確証もない

・総じてタイパは悪いし、出世しても報われるのかが未知数

・現に、家庭などを犠牲にして管理職になっている先輩方を見ていると、その情熱に尊敬の念を抱く半面、「ああはなりたくない」とすら思ってしまう

・プレイヤーでいたいので、チーム内のリーダーが希望

 たとえば上司世代に尊敬の念を抱いていても、じゃあ彼らのようになりたいかといえば、自分は彼らのようにプライベートを犠牲にしたり、身も心もボロボロになったりしてまで働きたくないと感じます。要は、参考にできない。ロールモデルにならないから、頑張ろうと思えない――。

若手世代が出世を望まなくなった本当の理由

 若手世代は、今の職場だけでなくメディアやSNS、自身の親の働き方を通して、さまざまな事例を見てきました。特に、若手世代の親は、2026年現在は50〜60代前半。バブル崩壊後の大不況時に働いてきた世代を見て感じることは多いのかもしれません。

 頑張った挙げ句メンタルを壊して働けなくなった人、成功していると思ったらスキャンダルで評判が落ちた人、仕事に重点を置きすぎて家庭内不和になった人など。いずれも、「ロールモデル」にはなり得ません。

 そこまでつらい思いをしてまで出世するなら、みんなで一緒に仕事をして成果を出したい――そう考えるのも無理はありませんね。

 出世のため地を這うような努力を重ねてきた上司世代からすると、価値観の差に驚くかもしれません。しかし大前提として上司世代と若手世代とでは、時代背景が大きく異なることも忘れてはなりません。

 上司世代の中には、伸びしろがあり、希望のある環境で仕事をしてきた人が多く、頑張ればもっと上に行けるというマッチョなやり方が効果的な面もありました。世の中の「もっと頑張って上を目指そう」というムードも後押ししたのかと想像しています。

 しかし今は、「こうしていけば報われる」といったゴールが見えにくい時代。いつ自分の仕事をAIに奪われるかもわからない。現に、今は「ブルーカラー・ビリオネア」といい、AIで代替できないブルーカラーの仕事、専門スキルを身に付けた人のほうが報酬が高くなる時代に転換してきています。何が正解かがわからず、先の展望を持ちにくくなっています。

 さらに今の若手世代は、そこまで「上」を求める必要に迫られていません。「いい暮らし」の水準としても、車を保有したい欲求もなく、服はユニクロなどのファストファッションでも十分に質が担保されます。

 不動産が高騰しているなら実家から通えばいい。無理して都内に住もうとせず、郊外の築古物件でいいじゃないか。プラスαで、ちょっといい私ができたらベストだし、できなくてもいい。

「苦労してまで昇進する必要はない」という価値観

 また、給料の伸びも鈍化しています。パーソル総合研究所の2025年の調査によると、2024年に年収が増えた人は51.9%と約半数。3%以上の増加があった人は約4割にとどまり、20〜30代の若年層でも約4割は年収が上がっていないことがわかりました。

 上がったとしても微々たるもので、ハイペースで進む物価高に給料の上げ幅が追いつかず、生活は一向に豊かにならない。以前と比べ、労働の対価が見えにくい時代を生きているのです。

 一方でSNSを開けば、なぜか同年代でも自分よりいい暮らしをしている人、自分より成果を出している人ばかりがどんどん目に飛び込んできます。そうなると相対的に、自分の成果を感じにくく、仕事に力を注ぐ意義も見出しづらくなります。

 こうした複数の要素から導き出した彼らなりの答えが、「必要な残業はするけれど、基本的には定時退社で一定の成果を出しさえすればよい。出世に関しても、苦労してまで昇進する必要はない」です。要は、バリバリ働きたくない。

 私たちの調査でも「バリバリ働いていきたい」と回答したのは49.1%(男性50.0%、女性48.5%)。「バリバリ」のイメージを聞いたところ、「平均以上の年収を得る(48.4%)」「自分の稼ぎで生活ができる(46.0%)」「自分の稼ぎで好きなものが買える・好きなことができる(43.7%)」が上位になり、「市場価値が高い(31.6%)」「休みを返上して働く(30.7%)」といった項目よりも高くなっています。

 Z世代の「バリバリ働く」とは、「自立した生活をする経済力を得るための働き方」というイメージがあると言えそうです。

自分の市場価値は上げたいけど、他の同僚よりは頑張りたくない

 ただ、そんな若手世代の中でも、出世意欲を持つ人はいます。前述の調査結果の通り、Z世代の中でも1割ちょっとは起業意欲や社長になりたいモチベーションを持つ人がいました。

 したがって、マネジメントに向いている人、意欲がある人にはその席を用意し、現場にい続けたい人にはそのポジションをキープ、またジェネラリストかスペシャリストかも選べるように、いくつかの道があることを示すといいでしょう。

 1本だけじゃなく、いろんな選択肢を用意して、選んでもらえるように。選択肢の提示は、本人の適性を見ながら、すり合わせをしていく必要があると思います。

 1つ誤解してほしくないのは、若手世代は仕事にまるでやる気がないわけではない、ということ。基本的にキャリアアップはしたい。自分の市場価値を上げたい。AIに取られない職業に就きたい。そういう意欲はあるけれど、他の同僚よりは頑張りたくない。そんな矛盾した感情が共存しているのです。

 市場価値を上げることが出世とリンクしていないだけ。どこに行っても活躍できる、多方面で対応できるスキル(ジェネラリスト)か、専門性を極めるか、どちらかに重きを置いている人が多いと考えるといいでしょう。

上司「残業しないで帰っていいよ」→若手「ホワイトすぎて成長できない」→まさかの退職…Z世代がすぐに会社を辞めてしまう“本当の理由”〉へ続く

(長田 麻衣/Webオリジナル(外部転載))