Jonathan Jacob

写真拡大

ホットハッチは、1970〜80年代の手頃な欧州製スポーツカーに取って代わった。それらのモデルの多くが、ホットハッチと並ぶと古びて見えたのだ。刺激と実用性を両立させたことが、その人気を一気に決定づけた。もしホットハッチが存在しなかったなら、一世代丸ごと、さらに大きな世界へ進むことはなかったかもしれない。

【画像】ホットハッチの代表的存在、VWゴルフGTIのインテリアとエンジンルーム(写真3点)

ホットハッチの定石は、たいていフロントに積まれた四気筒エンジンと前輪駆動だ。そこに、車高を下げて引き締めたサスペンション、強化ブレーキ、そして見た目の魅力が加わる。主な購買層にとっては、最後の要素が何より大事だったりする。

駆動方式が異なるもの(後輪駆動や四輪駆動)、あるいはより大きなエンジンを積むものは、それ自体がどれほど見事でも、このホットハッチ英雄譚の中では、例外として考えるべきだろう。余計な複雑さや重量、コストを持ち出して話をややこしくする必要はない。ホットハッチが長く素晴らしい存在であり続けたのは、その単純さゆえである。異論はないはずだ。では、始めよう。

フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI Mk1

何度も語られてきた話なので、PRの魔術師アントン・コンラッドと技術者ヘルベルト・シュスター率いるVWの技術陣が勤務時間外に進められた開発について、ここで繰り返すのはやめておこう。知っておくべきなのは、おそらくクラフトワークの「Autobahn」でも聞きながら、6人ほどのチームがヴォルフスブルクで黙々と働き、「スポーツ・ゴルフ」を作り上げたことだ。そうして、平凡なビートルの後継が、カリスマ性を備えた先駆者となった。

VW首脳陣が認めたのは、わずか5000台という生産計画、そして当時としては割高だと思われた価格設定だった。試作車のツインチョーク式ソレックスキャブレターを、ボッシュ・K-ジェントロニック燃料噴射へと切り替えるという見事な決断を経て、ゴルフGTIは1976年夏に発売された。もう察しはついているだろうが、その見込み台数はずいぶん控えめだった。その後、8世代にわたって累計230万台以上のGTIが世に送り出されたのである。

現在の基準では控えめに感じるかもしれないが、初代GTIの1588ccエンジン(アウディ80GT由来のユニットだ)は、1970年代半ばには十分に力強い存在だった。信頼性が高く効率にも優れた108bhp(109.5PS)エンジンにより、GTIは最高速度112mph(180km/h)、0-60mph(0-100km/h)加速は9秒強という性能を実現していた。標準車よりも車高が低く、乗り味は引き締まり、それでいて運転は楽しく、燃費も良く、信頼性も高かった。こうした特徴は、当時としては決して当たり前ではなかった。

ここで紹介する車両は後期型、1982年以降の1.8リッター112bhp(113.6PS)仕様である。ちなみに、このタイプを象徴するモデルとして、コーギー社のミニカーにもなっている。出力もトルクも増加分はわずかだが、1.8リッターのパワーの出力特性には大きな違いがある。初期GTIでは6100rpmで最大出力を発揮していたが、それがより扱いやすい5800rpmへと下げられ、最大トルクも3500rpmで発生するようになった(従来は5000rpm)。

第一印象では、このゴルフの走りはさほど派手ではない。むしろ、普段使いの範疇では落ち着いた安定感を見せる。だが、これはGTIなのだからと踏み込んでいくと、ボディコントロールは現代の感覚からすればやや柔らかめだが、シャシーはきちんと応えてくれる。この初期のゴルフは、路面のうねりを見事にいなし、丘陵のきつめのカーブも巧みにこなしてみせる。比較的細い175mmのタイヤが音を上げ始めるのはかなり攻めた時だけで、この車は840kgと非常に軽いため、進路変更も重さに邪魔されない。

ゴルフGTIの魅力は、今も昔も、総合力の高さに尽きる。シャシーも操作系も踏み込むほど、その良さを見せる一方で、力を抜けば快適で軽やかなペースへすっと戻る。通勤路を駆け抜けるにも、コル・ド・チュリニ(フランス・アルプスの山岳峠。モンテカルロ・ラリーの名物ステージ)の頂を越えるにも、初代GTIはシンプルでアナログな楽しさを提供してくれる。ドライバーズカーとしての根本的な落ち着きと”正しさ”があるからこそ、多少の欠点−つまり、いまひとつ冴えないブレーキ−も許せてしまう。

また、このゴルフの見事なスタイリングを見過ごすわけにはいかない。これはジョルジェット・ジウジアーロとVWのヘルベルト・シェーファーの功績である。歳の重ね方は実に見事で、その後に続いた多くのウイング付きマシンよりはるかに成熟して見える。市場もまた、この品の良いGTIを高く評価している。2010年ごろを境に相場は大きく動き、かつては四桁ポンド、あるいはそれ以下で買えた時代から、いまや極めて状態の良い個体なら2万ポンドに達している。コンクール級の個体なら、その倍の値が付く。

GTIとして、そしておそらく今日われわれの知るホットハッチそのものの第一歩として、フォルクスワーゲンの元祖は実用性と運転性の絶妙なバランスを見事に保ち、50年近く経た今なお、きちんと胸を踊らせてくれる。

・・・プジョー205 GTI編に続く。

翻訳:オクタン日本版編集部 Translation: Octane Japan
Words: John-Joe Vollans Photography: Jonathan Jacob