マンション管理費を3年滞納の末に死亡、親族5人は「全員相続放棄」…絶望的な状況から一転、管理組合が遅延損害金まで「全額回収」できたワケ【マンション管理士が解説】
築古マンションで居住者が死亡し、親族から「相続放棄」されるケースが急増しています。ある築50年超のマンションでは、管理費を3年滞納していた住人が死亡。弁護士費用23万円をかけて親族5人を見つけ出すも、全員に相続放棄され、マンション側が多額の負債を被る絶望的な事態に陥りました。しかしその後、ある手続きを経たことで、滞納金から弁護士費用、さらには遅延損害金まで「全額回収」することに成功します。“相続放棄時代”のマンションリスクと執念の回収ルートについて、マンション管理士の松本洋氏が解説します。
「あとは管理組合で…」滞納3年の住人が死亡
「管理委託契約の規定上、督促業務期間の3ヵ月を経過しましたので、あとは管理組合でお願いします」
管理会社からの通告を受けたのは、築50年を超えるマンションで理事長を務めるAさん。
問題の部屋の住人は、管理費や修繕積立金を3年にわたって長期滞納していました。管理会社が手を引いてしまった以上、放置するわけにもいかず、理事会はやむを得ず弁護士に滞納管理費の回収業務を依頼することに。
ところが、弁護士の調査により、住人はすでに病院で亡くなっていたことが判明したのです。
事態の収拾を図るため、管理組合はさらに23万円の費用を支払い、弁護士に相続人調査を依頼しました。その結果、5名の相続人がいることと、故人名義の銀行口座に12万円ほどの預金が残されていることがわかりました。
ようやく解決の糸口が見えたかと思いきや、事態は最悪の方向へ……。
弁護士費用23万円の負担も…親族5人全員が「相続放棄」という絶望
なんと、築古マンションであることを理由に、見つかった5人の親族「全員が相続放棄」をしてしまったのです。
「相続人調査にかかった弁護士費用23万円はどうなるのでしょうか。長期滞納している管理費や修繕積立金は誰が支払うのか。せめて故人の預金12万円だけでも回収できないものか……」
さらに追い打ちをかけるように、故人が固定資産税も滞納していたため、市役所が弁護士を「相続財産清算人」として選任したという情報まで飛び込んできました。
「全額回収」の大逆転、絶望的な状況を覆した〈まさかの展開〉
滞納金も弁護士費用もすべて管理組合の持ち出しになってしまうのか。絶望的な空気が漂うなか、事態は思わぬ展開を見せます。
このマンションでは任意売却の手続きが進められ、管理組合は滞納していた管理費等に加えて、相続人調査にかかった弁護士費用23万円、さらには遅延損害金までも全額回収することができたのです。
一体なぜ、親族全員が相続放棄をした状況から一転、資金を回収するに至ったのでしょうか。
【専門家が解説】泣き寝入りを防ぐ唯一の回収ルート「相続財産清算人への債権届け出」
相続が発生すると、故人の銀行口座は凍結されるため、当然ながら管理費や修繕積立金の引き落としは止まります。相続放棄は原則として、被相続人の死亡を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所へ申述書を提出する必要があり、その間も滞納金は雪だるま式に膨らんでいきます。
親族全員が相続放棄をした場合、残された唯一の回収ルートが「相続財産清算人への債権届け出」です。
相続財産清算人とは、相続人がいない(または全員が放棄して不明な)状態で遺産を管理し、債権者への支払いを行い、最終的にマンションを売却して財産を清算する役割を担う人のことです。清算後の残余財産は、最終的に国庫へ引き継がれます。
Aさんの事例では、市役所がすでに相続財産清算人を選任していましたが、もし誰も選任していない場合は、管理組合が速やかに家庭裁判所へ選任申立てを行う必要があります。
この申立て手続きには通常50万〜100万円程度の費用(予納金)がかかり、一時的に管理組合の会計から支出することになります。しかし、相続財産清算人がマンションを売却した代金のなかから、滞納管理費や立て替えた予納金などは原則として管理組合に支払われます。
築古マンションに到来した「相続放棄時代」
築古マンションにおいて、居住者の死亡と親族の相続放棄、そして管理費滞納がセットで発生するケースは、珍しいものではありません。
築古マンションは、もはや「相続放棄の時代」に突入しているといっても過言ではないでしょう。
滞納管理費は、原則として相続財産からしか回収することができません。だからこそ、管理組合には「誰かが何とかしてくれる」という“待ち”の姿勢ではなく、自ら“動く”姿勢が強く求められます。
事態を放置すれば滞納額が膨らむだけでなく、建物の適切な修繕計画にも多大な悪影響を及ぼします。早期に情報収集を行い、適切な法的手続きと専門家との連携を進めることこそが、管理組合の財務健全性とマンションの資産価値を守る最も確実な手段なのです。
松本 洋
松本マンション管理士事務所代表
