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年金は、なにも調べなくても勝手に徴収される一方、受給時は申請しなければもらえないことがほとんどです。実際、企業年金連合会「連合会年金の未請求者の状況について」によると、企業年金の請求手続きを行っていない人は100万人を超えているといいます。そこで、特に見落としがちな「企業年金の落とし穴」について、事例をもとにみていきましょう。

100万人超が未請求…後を絶たない「年金のもらい忘れ」

みなさんは「厚生年金基金」をご存じでしょうか。

これは企業年金のひとつで、厚生年金の一部を企業が代行し、独自の上乗せ給付をおこなう制度です。

かつては多くの企業で導入されていましたが、制度の見直しや運用環境の変化により、現在ではほとんどの厚生年金基金が解散しています。

厚生年金基金は請求しなければ受け取れない仕組みであるため、存在に気づかないまま未請求となっているケースも少なくありません。企業年金連合会「連合会年金の未請求者の状況について」によると、厚生年金基金などの企業年金について、請求手続きを行っていない人は100万人を超えています。

[図表]企業年金請求書の未提出者数 出典:企業年金連合会「連合会年金の未請求者の状況について」を参考に筆者作成

厚生年金基金は、退職後に一定の条件を満たすと、年金資産や加入記録が企業年金連合会へ引き継がれ、同連合会が運用を続ける仕組みです。

たとえば、厚生年金基金への加入期間がおおむね10年未満のまま退職した場合、その資産と記録は企業年金連合会に移され、企業年金連合会から年金として支給されます。

しかし、会社を退職したあと、厚生年金基金の“その後の取り扱い”を正しく把握できていない人が多く、何十年も前に勤めていた会社の企業年金について、自身が加入していたことにすら気づいていないケースも見受けられます。その結果、本来受け取れるはずの年金を請求しないままとなっているのです。

とはいえ、企業年金は請求手続きを行えば遡って受け取れる可能性があります。本来受け取れるはずの年金に気づいていなかったとある男性の事例をもとに、詳しくみていきましょう。

年金暮らしで月3万円の赤字…老後に不安を抱く65歳男性

タカシさん(65歳)は定年前、専門商社の営業として活躍していました。

上昇志向が強いタカシさんは「豊富なキャリアを積みたい」と、これまでにコンサルティング会社や不動産会社、保険会社など、業界をまたいで複数回の転職を経験してきたといいます。

現在は定年を迎え、年金生活を送っています。貯蓄は1,000万円ほどあり、3歳年下の妻と娘の3人暮らしです。

年金収入は、タカシさんが月17万円で妻が月5万円、あわせて月22万円です。金額としては一般的な水準ですが、家計にはあまり余裕がありませんでした。

というのも、娘が会社を辞め実家に出戻りしてから生活費の負担が増え、毎月の収支は約3万円の赤字となっていたのです。

赤字分は貯蓄を取り崩して賄っており、当面生活は維持できますが、このままではいずれ資金が尽きてしまう可能性があります。

不安になったタカシさんは、赤字分を補うため、アルバイトを始めようと考えました。

「年金をもらいながら働くと『在職老齢年金』に該当するかもしれない」

年金とアルバイト収入の関係を整理するため、タカシさんは年金事務所で、自身の年金記録もあわせて確認してもらうことに。

年金事務所で明らかになった「眠ったままの年金」

担当者は、タカシさんの年金記録を確認するなかで、次のように言いました。

「『基金代行額』の記録がありますね。もし企業年金を請求されていなければ、年金が増えるかもしれませんよ」

タカシさんは思わず聞き返します。

「基金代行額? なんですかそれ?」

基金代行額とは、厚生年金基金や確定給付年金といった企業年金に加入していた場合に、年金記録に記載されるものです。請求したかどうか尋ねられたタカシさんは、戸惑いながら「請求した覚えはありません」と答えました。

「転居などで請求書が届いていない可能性もあります。一度、企業年金連合会に確認してみてください」

タカシさんは言われたとおり、すぐに企業年金連合会に問い合わせました。

問い合わせの結果…

タカシさんはたしかに、過去に厚生年金基金へ加入していたことが判明。その後すぐに手続きを行った結果、月1万5,000円ほどの企業年金を受け取れることになったのです。

思いがけない年金の増額に、タカシさんはほっとひと安心。これで、毎月3万円の赤字は1万5,000円に縮小します。

「急いで働くことはないかもしれないな。娘の体調も少しずつよくなっているし、もう少し様子を見よう」

タカシさんは今後の生活に、少しだけ明るい兆しが見えました。

企業年金は申請しなければ受け取れない

繰り返しになりますが、企業年金は原則として、申請しなければ受け取ることができません。冒頭で紹介したとおり、請求手続が行われていない人は100万人を超えており、気づかないまま受給の機会を逃している人も多いのが現実です。

タカシさんも、年金事務所を訪れるまでは、自身が企業年金の対象であることに気づいていませんでした。もしあのとき確認していなければ、月1万5,000円の年金を受け取ることなく過ごしていた可能性もあります。

年金は「自動的にもらえるもの」と考えがちですが、すべてがそうとは限りません。特に企業年金については、「自分がどの制度に加入していたのか」「いくら受け取れる可能性があるのか」を、自分で確認しておくことが重要です。

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP