知っておくべき「眠り」と知能の深い関係【寝た子は起こすな】

写真拡大 (全3枚)

よく寝る子どもは、学力が高くなる?睡眠は、子どもたちの健康や学業成績にどのように影響するのか。

スタンフォード大学などで睡眠研究を行い、現在は東京医科大学睡眠学講座の客員教授である志村哲祥さんが、根強い「早起き神話」を解体し、その具体的なリスクを世界の最新研究に基づき明らかにする『寝た子は起こすな 「早起き神話」の深刻な現実』が好評発売中です。

今回は、第2章 知っておくべき「眠り」と知能の深い関係より、その一部を特別公開します。

書影

 睡眠は人間にとって不可欠である――この事実に異論を唱える人はいないでしょう。睡眠不足が続けば、疲労がたまり、集中力が低下して、仕事や家事のパフォーマンスが下がります。また、睡眠不足が体調不良の原因となることも、体調を回復するのに十分な睡眠が必要であることも、私たちは経験的に知っています。

 とりわけ、子どもの成長にとって睡眠が重要であることは、広く知られています。
 
 読者の方のなかには、お子さんの夜更かしが気にかかり、インターネットで検索して、「たくさん寝ると背が伸びる」や「早く寝るほど賢くなる」といった情報を目にしたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

子どもは成長とともに「夜型化」する

 私たちが何時に眠り何時に起きるかは、体内時計が決めています。体が眠るべき時間だなと思ったら眠くなり、起きるべき時間だなと思ったら勝手に目が覚めるわけです。

 この体内時計は小学生以降、思春期に向けて急速に「夜型化」していきます。これは生活習慣のせいではなく、もともと人体がそのように設計されており、人間以外のさまざまな霊長類や哺乳類でも同様の現象がみられます。詳しくは第三章で述べますが、性成熟とともに人は「遅寝遅起き」になっていくのです

 実際に、赤ちゃんや2~3歳のころには親よりも早く目を覚まし、元気いっぱいに親を起こしていた子どもが、小学校高学年になると朝なかなか布団から出てこなくなるというのはよくある話です。また、今大人の方は、ご自身の20歳ごろのことを思い出してみてください。夜更かしをしがちで、朝はなかなか起きられなかったのではないでしょうか。それが30歳を超えたころにはそうでもなくなり、現在は朝起きることが以前ほどつらくないはずです。

 これは、体内時計は思春期に「夜型化」し、成人期を迎えると再び「朝型化」に向かうからです。また、年をとると睡眠の安定性が下がり、それにより目が覚めやすくなるという事情もあります。学生時代に寝坊で遅刻をしていた人が社会人になり、朝きちんと起きられるようになり遅刻がなくなると、「あいつも社会人の自覚が出てきたな」と言われることがありますが、それは本人の意識の問題ではなく、単なる加齢による現象です。

十分に眠っている子ほどIQが高い

 小学生から思春期にかけて人は夜型化する一方で、第一章で述べたように、小学生で10時間以上、中高生でも9時間以上の睡眠が必要です。

 成長するにつれて寝る時刻が遅くなるのは自然なことであるにもかかわらず、多くの学校の始業時刻は8時半ごろで、子どもたちは朝早く起きざるを得ません。さらに、日本ではテスト前になると睡眠時間を削って勉強する子どもが少なくなく、中学受験、高校受験、大学受験といった受験期には、長期間にわたって睡眠不足の状態が続くことも珍しくありません。

 しかし、睡眠は脳の発達にとって極めて重要な役割を担っており、子ども時代に十分な睡眠を確保できていないことは、脳の発達によくない影響を及ぼす可能性があります。実際、この点を裏付ける調査結果が数多く示されています。
 
 以下にいくつか紹介しましょう。

1睡眠リズムが乱れている子どもは図形がうまく描けなかった

 東京都の保育園児226名を対象にした研究では、幼児期から学童期にかけての安定した睡眠パターンが、脳機能の発達と密接に関係していることが示されています。この研究では、規則正しい睡眠をとっている5歳児188名と、睡眠リズムの乱れている5歳児34名に三角形を模写させて比較しています。

 その結果、規則正しい睡眠をとっていて三角形がうまく描けなかった子どもは12%であったのに対し、睡眠リズムが乱れていて三角形がうまく描けなかった子どもは44%でした。つまり、物の形を正しく認識し、かつそれを自分の中で再構成してアウトプットするという脳の統合的働きが、睡眠の影響を受ける可能性が示唆されたのです。

5歳時の三角形模写。左は規則正しい睡眠をとっている子どもの絵、 右は睡眠リズムの悪い子どもの絵(出典:宮崎総一郎、北村拓朗「睡眠からみ た小児睡眠呼吸障害」日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会『日本耳鼻咽喉科学会 会報』第115巻9号)

2睡眠時間が長い子どもでIQが高かった

 オランダ・ロッテルダムで行われた調査では、2800人の子どもを対象に、2歳時の睡眠パターンと6歳時の認知機能の関係が調べられました。具体的には、2歳時の睡眠時間および夜間に目が覚める頻度と、小学校入学時の知能指数(IQ)との関連です。

 その結果、2歳時に一日あたり合計12~13時間の睡眠をとっていた子どもたちが、小学校進学時の言語IQが最も高かったことが報告されています。驚くべきことに、2歳時の睡眠時間が9時間以下の子どもたちのほぼ全員が、IQ100を下回っていたのです。また、2歳時に夜中に3回以上目が覚めていた子どもは、そうでない子どもに比べて非言語IQが低い傾向にあり、睡眠の質も認知機能の発達に大きく影響することが示されました。

3成績の悪い生徒は睡眠時間が短かった

 アメリカのロードアイランド州の公立高校4校において、3120人の生徒を対象に実施された学業成績と睡眠習慣の関連性についての調査からも同様の知見が得られています。この調査では学業成績をA、B、C、D/Fの4段階で自己評価してもらいました。

 その結果、成績が悪い(C、D/Fと自己評価した)生徒は、成績がよい(A、Bと自己評価した)生徒よりも平日の睡眠時間が約25分短く、平均して40分遅く就寝していることがわかりました。さらに、週末の睡眠スケジュールの乱れも顕著で、成績の悪い生徒は、週末の就寝時刻が平日よりも平均で約2・3時間遅いのに対し、成績のよい生徒ではその差が約1・8時間に留まっていました。

4最も学力が高いのは20時~21時までに寝る子どもだった

 日本でも、山口県の山陽小野田市教育委員会が、市内の小学生を対象に就寝時刻と学力の関係を調査しています。

 その結果、最も学力が高いのは、20時から21時までに寝る子どもで、就寝時刻が22時、23 時と遅くなるにつれて学力が低下していました。この傾向は国語・算数のいずれの教科でも共通しています。

 これらの研究結果は、就寝時刻の遅さや睡眠時間の短さが子どもの学業成績の低下と密接に関連していることを示しています。睡眠時間を削って勉強することは、短期的には効果があるようにみえても、長期的にはむしろ成績を低下させる可能性が高く、何より脳の成長が阻害され、知能が十分に発達しません。知能の発達・学力の向上のためには、質の高い睡眠を十分な時間、しっかりと確保することが不可欠です。

この続きは『寝た子は起こすな』でお楽しみください。本書は以下の構成で、睡眠にまつわる「神話」を解体し、子どもの知能と健康を守り、その力を最大限に引き出すための方法を示していきます。

第1章 日本の子どもの睡眠時間は世界最低レベル
第2章 知っておくべき「眠り」と知能の深い関係
第3章 医学的に考える「早寝早起き」の理不尽さ
第4章 「概日リズム」が睡眠のカギを握る
第5章 病気としての「朝起きられない」
第6章 どうすれば子どもは早く眠るのか
第7章 子どもの睡眠を守る社会をつくるために

著者紹介

志村哲祥(しむら・あきよし)
医師。東京医科大学睡眠学講座客員教授。順天堂大学附属順天堂医院、医療法人寿鶴会、東京医科大学精神医学分野客員准教授(睡眠健康研究ユニットリーダー)、スタンフォード大学精神・行動科学分野客員研究員を経て現職。神経研究所客員研究員、国立精神・神経医療研究センター客員研究員、米国国立睡眠財団Sleep Health編集委員、株式会社こどもみらいR&D統括医、睡眠リズム障害患者会(R&S)理事なども務める。著書に『子どもの睡眠ガイドブック──眠りの発達と睡眠障害の理解』(分担執筆、朝倉書店)などがある。
※刊行時の情報です

◆トップ写真:graphica/イメージマート