どこからでも崩せてどこからでもゴールを狙えるブラジルは、危なげなく決勝戦へと勝ち進んだ。無失点だったのはイングランド戦(1−0)のみだったが、逆に5試合で15ゴール(6失点)を量産した攻撃力が群を抜いていた。
 
 逆側のブロックから勝ち上がったのは、イタリアと西ドイツだった。前回北朝鮮に敗れる屈辱を味わったイタリアは、2年前の欧州選手権を制し、雪辱を期していた。だがフェルッチョ・バルカレッジ監督は、ブラジルとは対照的にミランとインテルを象徴する2人の名手を同時にピッチに立たせなかった。

 この大会からは、イエローとレッドのカードが導入され、2人の交代も認められるようになったので、インテルのサンドロ・マッツォーラをスタメンで送り出し、ミランのジャンニ・リベラは交代で出て行くことになった。

 夢の競演がないイタリアは、GL3戦で1ゴールしか奪えず攻撃力不足が顕著だったが、それでも準々決勝では開催国のメキシコを4−1で退けた。一方、西ドイツは、準々決勝で前回に引き続きイングランドと対戦。2点のリードを許したが、68分にフランツ・ベッケンバウアーが反撃の口火を切ると、76分にはウーベ・ゼーラーが得意のバックヘッドで同点。延長戦に持ち込み、最後は「爆撃機」の異名を取るゲルト・ミュラーが決着をつけて、前回決勝戦の雪辱を果たした。

 優勝経験国同士の対戦となった準決勝は、イタリアが開始8分にロベルト・ボニンセーニャのゴールで先制すると、ひたすら守りに入った。逆に追いかける西ドイツは、不測の事態に直面する。2人の交代枠を使った後に、ベッケンバウアーが試合途中で肩を脱臼してしまうのだ。結局、ベッケンバウアーは肩をバンテージで固めながら闘い続けることになる。

 しかし、アディショナルタイムも2分が経過した土壇場で、左からグラボウスキーがクロスを送ると、中央で思い切り身体を伸ばしたカールハインツ・シュネリンガーがジャンプボレーでゴールネットを揺する。そしてこの同点ゴールが、ただの凡戦を「20世紀最高の試合」に変えた。
 
 延長戦に入ると、試合はまったく様相を変えオープンなゴールの奪い合いに転じた。94分、ミュラーが押し込んで西ドイツが逆転に成功するが、延長前半でイタリアが再逆転。延長後半に入り、西ドイツは再びミュラーが決めて3−3の振り出しに戻すが、最後はイタリアで交代出場のリベラが流し込み突き放した。

 なおミュラーは、この大会で10ゴールを挙げ得点王に輝くが、実は予選でも20ゴールを量産。エリア内で俊敏さを活かし、独特の嗅覚を発揮したストライカーは、西ドイツ代表として最終的には出場62試合を上回る68ゴールという記録を打ち立てるのだった。

 決勝戦はブラジルが完全に主役として輝いた。正午キックオフの試合で、18分、左からリベリーノのクロスをペレが頭で力強く叩きネットを揺する。イタリアも1度は追いつき1−1で前半を折り返すが、後半は一方的にブラジルがアタッキングショーを披露した。

 ゆっくりと華麗にボールを回しゲームを支配するブラジルは、66分にジェルソン、71分にはジャイルジーニョが立て続けにゴール。ジャイルジーニョは大会全6戦でゴールという快挙を達成した。

 そして締め括りは86分。クロドアウドから左のリベリーノに回し、同サイドに流れたジャイルジーニョがドリブルから中央のペレに渡すと、ペレはじっくりとタメを作ってお膳立て。最後は右から駆け上がったカルロス・アルベルトが逆サイドのネットに弾丸シュートを突き刺した。

 GKとCB以外全員が絡んだ攻撃で、ブラジルは予選から本大会までを全勝で3度目の頂点に立つ。肩車をされたペレは身ぐるみ剥がされ、パンツ1枚で引き上げることになった。

 決勝戦は奇しくも2度優勝経験国同士の対戦で、ジュール・リメ・トロフィーの永久保持をかけた攻防になったが、ブラジルが持ち帰ることになった。

文●加部究(スポーツライター)

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